災害に強く、環境にも優しい未来のまちづくりを目指す「地域マイクログリッド」。その構築を支援する経済産業省の「系統用蓄電池等導入・配電網合理化等再生可能エネルギー導入加速化事業費補助金」について、令和5年度の成果報告をもとに徹底解説します。採択された5つの先進事例から、事業成功のヒントを探ります。
補助金の概要:地域マイクログリッド構築支援とは?
本補助金は、再生可能エネルギーの導入を加速させるとともに、災害時にも電力供給を維持できる強靭な地域社会を構築することを目的としています。具体的には、地域マイクログリッドの構築や配電事業への参入を見据えたマスタープラン(基本計画)の策定を支援するものです。
基本情報テーブル
正式名称 | 令和5年度 系統用蓄電池等導入・配電網合理化等再生可能エネルギー導入加速化事業費補助金(配電事業等の参入を見据えた計画策定支援事業) |
実施団体 | 経済産業省/一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII) |
目的 | 再生可能エネルギーの導入加速と、災害時のレジリエンス強化を両立する地域マイクログリッドの計画策定を支援する。 |
対象事業 | 太陽光発電、蓄電池等を活用した地域マイクログリッド構築や、配電事業参入に向けたマスタープラン作成事業。 |
【令和5年度】採択された5つの先進事例
令和5年度は全国から5つの事業が採択されました。それぞれの事業が、地域の特性や課題にどう向き合ったのか、成功のポイントを見ていきましょう。
事例1:防災拠点と観光施設の一体型モデル(愛媛県西条市)
事業者: 株式会社アドバンテック、株式会社クールトラスト
南海トラフ地震のリスクに備え、西条市の「石鎚山ハイウェイオアシス」周辺にマイクログリッドを構築。平常時は観光施設のエネルギー源として、非常時には指定避難所や広域防災拠点への電力供給を担います。高速道路のサービスエリアも含まれており、広域的な防災機能の強化が期待されます。
事例2:酪農地域のエネルギー地産地消モデル(北海道釧路市)
事業者: 株式会社阿寒マイクログリッド
メタン発酵バイオガス発電を活用した既存のマイクログリッドを、配電事業へと発展させる計画。地域の基幹産業である酪農業へ、安価でレジリエンス性の高い電力を供給し、地域経済の循環と産業維持を目指す先進的な取り組みです。
事例3:工場の巨大電源を活用した地域貢献モデル(岩手県金ケ崎町)
事業者: トヨタ自動車東日本株式会社
岩手工場にある大規模な太陽光発電やガスエンジンコージェネレーションシステムを、災害時に地域へ供給する「金ケ崎レジリエンス・グリッド」構想。企業の持つリソースを地域防災に活かす、公民連携の好事例です。
事例4:公共施設集積エリアのBCP強化モデル(長野県松本市)
事業者: 松本市波田商工会、株式会社地域エネルギーイニシアティブ
病院、避難所、行政機関などが密集する松本市波田地区を対象に、太陽光発電と蓄電池を導入。災害時に重要公共施設の機能を維持し、市民の安全な暮らしを守ることを目的としています。
事例5:震災経験を活かした生活インフラ防衛モデル(北海道安平町)
事業者: エイコーエナジオ株式会社
2018年の北海道胆振東部地震でブラックアウトを経験した安平町が、その教訓を活かして構築を目指すマイクログリッド。総合庁舎や浄水場、一般住宅約200軒を含むエリアを対象とし、災害時にも生活に不可欠なエネルギーを確保する計画です。
申請に向けた3つの重要ポイント
- 明確な事業目的と地域課題の連携
なぜマイクログリッドが必要なのか、地域のどのような課題(防災、脱炭素、産業振興など)を解決するのかを明確にすることが重要です。 - 実現可能なコンソーシアム体制
地方公共団体、民間事業者、一般送配電事業者など、多様な関係者と連携し、それぞれの役割分担を明確にした実行力のある体制を構築することが求められます。 - 事業の継続性と発展性
補助金頼りではなく、平常時のエネルギー売買(PPAモデルなど)でいかに収益性を確保し、事業を継続させていくか。また、将来的な配電事業への展開など、発展的なビジョンを示すことも評価のポイントになります。
まとめ:次年度公募に向けて
令和5年度の成果報告からは、各地域が独自の課題解決のためにマイクログリッド構築を目指している様子がうかがえます。この補助金は、単なる設備導入ではなく、持続可能で強靭な地域社会をデザインするための計画策定を支援するものです。
次年度以降の公募を目指す事業者の皆様は、これらの先進事例を参考に、今から地域の課題整理、パートナー探し、事業スキームの検討を始めることをお勧めします。