はじめに:2050年カーボンニュートラルに向けた大規模支援
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、政府が強力な一手として打ち出したのが「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」です。特に、化学、紙パルプ、セメントといったCO2排出削減が難しいとされる産業を対象に、GX(グリーン・トランスフォーメーション)投資を促進し、産業競争力の強化と脱炭素化の両立を目指す、極めて大規模な補助金です。この記事では、令和7年度公募(事業Ⅱ)の詳細をプロの視点で分かりやすく解説します。
この補助金の重要ポイント
- 圧倒的な予算規模:事業Ⅰ・Ⅱ合計で約4,224億円という国家レベルの予算が組まれています。
- 高い補助率:事業類型に応じて、最大で対象経費の1/2以内という手厚い支援が受けられます。
- 経営層のコミットメント必須:単なる設備投資に留まらず、経営戦略の中核としてGXを推進する強い意志が求められます。
- 長期的な事業計画:令和11年度までを見据えた、長期的かつ大規模な投資計画が対象です。
助成金(補助金)の基本情報
事業名称 | 令和7年度 排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業(事業Ⅱ:化学・紙パルプ・セメント等) |
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実施組織 | 経済産業省 |
予算額 | 約4,224億5,000万円(事業Ⅰと事業Ⅱの合計額/令和11年度までの国庫債務負担含む) |
補助率 | 【燃料転換・製造プロセス転換】1/3以内 【構造転換】1/2以内 |
公募期間 | 令和7年6月13日(金)~ 令和7年8月8日(金)正午まで |
公式ウェブサイト | 令和7年度 事務局ウェブサイト |
補助対象者と対象事業の詳細
補助対象者
原則として、以下の要件をすべて満たす事業者が対象となります。
- 化学、紙パルプ、セメント等の排出削減が困難な産業に属する事業者
- 日本国内に登記された法人であり、国内に事業実施場所を有していること
- GXリーグへの参加、またはそれに準ずる温室効果ガス排出削減の取組(目標設定・公表等)を実施すること
- 事業を的確に遂行する組織、人員、経営基盤を有していること
- 経済産業省から補助金交付等停止措置等を受けていないこと
補助対象事業の区分
本事業は、大きく分けて3つの事業区分があり、それぞれ要件が異なります。
事業区分 | 概要 | 補助率 |
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① 燃料転換 | 石炭等を燃料とする自家発電設備等で、バイオマスや低炭素水素等への燃料転換に伴う設備投資。 | 1/3以内 |
② 製造プロセス転換 | ケミカルリサイクルやバイオケミカル、CCU等、原料転換を伴う製造プロセス転換への設備投資。 | 1/3以内 |
③ 構造転換 | 上記①または②に加え、経営効率化(生産能力の適正化、供給体制の強化等)を図り、GX投資の原資を確保する取組。 | 1/2以内 |
補助対象経費
補助対象事業を行うために必要とされる以下の経費が対象です。
- 設計費:機械装置、建物、システム等の設計費
- 設備費:機械装置の購入・製造・改修費、附帯工事費
- 建物等取得費:事業に必要な建物の新設、建て替え、リフォーム費
- システム整備費:事業に必要なソフトウェアの購入・作成・改修費
※消費税、人件費(一部除く)、既存設備の撤去費、土地取得費などは対象外です。詳細は公募要領をご確認ください。
申請手続きとスケジュール
申請のステップ
- GビズIDプライムの取得:電子申請システム「jGrants」の利用に必須です。取得には数週間かかる場合があるため、早めに手続きを開始してください。
- 必要書類の準備:公募要領を確認し、事業計画書や経費明細、決算書などの提出書類を準備します。
- jGrantsでの電子申請:公募期間内にjGrantsから全ての書類をアップロードし、申請を完了させます。
公募スケジュール
公募開始 | 令和7年6月13日(金) |
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公募締切 | 令和7年8月8日(金)正午 |
採択審査 | 令和7年8月12日(火)~ 9月末頃 |
採択先公表 | 令和7年9月末頃(予定) |
交付申請期限 | 令和7年11月28日(金) |
⚠️ 注意:事前着手制度について
本事業では、緊急性・必要性が認められる場合、交付決定前に発注・契約した経費も補助対象となる「事前着手届出」制度があります。希望する場合は、公募期間内に別途jGrantsからの届出が必要です。ただし、届出が受理されても採択を約束するものではないため、ご注意ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 複数の事業者で共同申請は可能ですか?
A1. はい、可能です。設備投資機能と生産機能が別会社の場合や、複数事業者が一体で事業を行う場合、リース会社を利用する場合などは共同申請が認められています。
Q2. 燃料転換のCO2削減率50%以上は必ず達成が必要ですか?
A2. はい、2034年度を目途に直接排出(Scope1)で50%以上の削減を達成する事業計画を提出することが要件です。外的要因なく目標が未達の場合、補助金返還を求められる可能性があります。
Q3. 交付決定前に発注してしまいました。対象になりますか?
A3. 原則として対象外です。ただし、事前に「事前着手届出」を行い、事務局から受理通知を受けていれば、通知記載の開始日以降の経費は対象となる場合があります。
Q4. 面接審査には誰が出席すべきですか?
A4. 経営層のコミットメントを重視するため、提案企業の代表権を有する方の参加が必須とされています。
まとめとお問い合わせ
「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」は、日本の産業界がカーボンニュートラルへ移行するための、極めて重要な支援策です。申請には詳細な事業計画と経営層の強いリーダーシップが不可欠ですが、採択されれば企業の未来を大きく変えるほどのインパクトがあります。対象となる事業者の皆様は、この機会を最大限に活用するため、公募要領を熟読の上、万全の準備で申請に臨んでください。
お問い合わせ先
排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業事務局
メールアドレス: info2025@hta-hojo.jp