この記事のポイント
この記事では、会計検査院が公表した令和5年度決算検査報告書に基づき、政府が実施した「電気利用効率化促進対策事業」と「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の実施状況を徹底解説します。巨額の予算が投じられたこれらの事業の効果、明らかになった課題、そして今後の展望について、専門家の視点で分かりやすく紐解いていきます。
- 2つの大規模事業の概要と目的を再確認
- 予算執行のリアル:1000億円超の不用額や多額の繰越が発生した背景
- 節電プログラムの参加率が目標を大幅に下回った原因
- 事務局運営の課題:高額な委託費率や信用保証料の実態
- 会計検査院による厳しい指摘と今後の改善点
検査対象となった2つの大規模事業とは?
近年のエネルギー価格高騰を受け、政府は国民生活と企業活動を支援するため、2つの大規模な対策事業を実施しました。会計検査院は、これらの事業が適切かつ効果的に執行されたかを検証しました。
1. 電気利用効率化促進対策事業(節電プログラム支援)
この事業は、電力需給のひっ迫と電気料金高騰の両方に対応するため、家庭や企業が電力会社の提供する節電プログラムに参加することを促進するものです。参加登録や節電達成に応じてポイントなどの特典を付与する小売電気事業者に対し、国が補助金を交付しました。
目的 | 国民・企業の効率的な電気利用を官民連携で後押しする |
支援内容 | ①節電プログラムへの登録支援(例:低圧2,000円/件) ②節電達成への実行支援(例:月間達成で低圧1,000円/月) |
支出済歳出額 | 766億円(令和4・5年度) |
2. 電気・ガス価格激変緩和対策事業(料金値引き支援)
急激な価格上昇の影響を受ける家計や企業を直接支援するため、電気・都市ガスの使用量に応じた料金の値引きを行った小売事業者に対し、その原資を国が補助する事業です。多くのご家庭で電気・ガスの請求書に「政府の支援」として値引き額が記載されていたのは、この事業によるものです。
目的 | 家計・企業の電気・ガス料金負担を直接的に軽減する |
支援内容 | 使用量に応じた料金値引きの原資を補助(単価は時期により変動) |
支出済歳出額 | 3兆2539億円(令和4・5年度) |
会計検査院が指摘した主な課題
両事業は一定の国民負担軽減に寄与した一方で、会計検査院は予算執行の効率性や事業効果の把握について、複数の重要な課題を指摘しています。
電気利用効率化促進対策事業の課題
予算執行:需要予測の甘さと巨額の不用額
当初、需要家の参加率を50%と見込んで約1783億円の予算を確保しましたが、実際の参加率は伸び悩み、結果として令和5年度に1017億円もの不用額が発生しました。特に低圧需要家(家庭など)の参加率が目標を大幅に下回ったことが主な原因とされています。
事業効果:低迷した参加率と効果測定の不備
登録支援における需要家の参加率は、低圧契約で8.2%、高圧・特別高圧契約で24.1%と、目標の50%には遠く及ばない結果となりました。また、一部の節電プログラムでは節電量が具体的に測定されておらず、事業全体の正確な効果を把握できていないという問題も指摘されました。
電気・ガス価格激変緩和対策事業の課題
事務局体制:高すぎる委託費率と信用保証料
事業の事務局運営において、委託費が事務費全体に占める割合(委託費率)が節電事務局で83.5%、前期事務局で71.2%と非常に高くなっていました。さらに、前期事業では、小売事業者の倒産リスクに備えるための信用保証料として約18.4億円が支払われており、その必要性や金額の妥当性について十分な説明が求められています。
事務費の比較:前期と後期で大幅なコスト削減
この事業は、当初の間接補助(前期事業)から直接補助(後期事業)へと方式が変更されました。これにより、事務局運営にかかるコストが大幅に削減されています。
項目 | 前期事務局(博報堂) | 後期事務局(デロイト) |
---|---|---|
1ヶ月あたりの事務費 | 約14.5億円 | 約2.7億円 |
運営期間 | 22ヶ月 | 12ヶ月 |
補助方式 | 間接補助 | 直接補助 |
運営期間の差を考慮しても、後期事務局のコストは前期に比べて大幅に圧縮されており、当初の事業スキームにおける経済性・効率性に疑問が呈されています。
まとめ:会計検査院の所見と今後の展望
会計検査院からの提言
会計検査院は、資源エネルギー庁に対し、今後の同種事業の実施にあたり、以下の点に留意するよう求めています。
- 効果測定の徹底:事業目的の達成度を評価できる適切な成果指標を事業開始前に設定し、実施後に効果を的確に把握・評価すること。
- 需要の的確な把握:事業参加の見込みを適切に把握し、周知方法や参加しやすい仕組みを整備すること。
- 委託プロセスの透明化:委託費率が高くなる場合、その妥当性や適切性を検証した結果を記録し、説明責任を果たすこと。
- 事務費の経済性追求:信用保証料の要否なども含め、経済的・効率的な事業実施方法を十分に検討し、コスト分析の結果を反映させること。
国民の税金を原資とする大規模な経済対策だからこそ、その執行プロセスには高い透明性と効率性が求められます。今回の検査報告は、今後の政策立案において重要な示唆を与えるものと言えるでしょう。
関連情報・公式サイト
本記事の基になった報告書の原文や、事業の詳細については、以下の公式サイトをご確認ください。