2050年のカーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギーの導入が加速しています。しかし、天候に左右される再エネの不安定さをどう克服するかが大きな課題です。その解決策として注目されるのが「分散型エネルギーリソース(DER)」の活用です。この記事では、経済産業省が主導した「令和5年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用実証事業」の目的や成果について、詳しく解説します。
「令和5年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用実証事業」とは?
本事業は、家庭用の蓄電池や太陽光発電、電気自動車(EV)といった地域に分散して存在するエネルギーリソース(DER)を、IoT技術を用いて統合制御(アグリゲーション)し、あたかも一つの発電所のように機能させる「バーチャルパワープラント(VPP)」の実現に向けた技術実証を行うものです。
事業の基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
事業名 | 令和5年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用実証事業 |
目的 | DERの高度な制御技術を実証し、電力市場での活用拡大と再エネ有効活用の環境を整備。アグリゲーションビジネスの発展を通じ、カーボンニュートラルの達成に貢献する。 |
実施団体 | 経済産業省(執行団体:一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)) |
対象者 | DERアグリゲーションに関する技術開発・実証を行う事業者およびコンソーシアム |
公募状況 | 公募終了(2023年12月22日締切) |
実証事業の具体的な内容と成果
本事業は、大きく分けて「再生可能エネルギーアグリゲーション」と「DERアグリゲーション」の2つの柱で構成されています。ここでは、コンソーシアムリーダーとして両事業に参画した株式会社エナリスの成果報告を基に、具体的な内容を見ていきましょう。
1. 再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業
再エネ発電の予測精度を高め、発電量が計画とずれることで生じるペナルティ(インバランス)のリスクを軽減し、収益を最大化することを目指す実証です。
- 市場取引の活用: 時間前市場取引を活用することで、年間約6,400万円の収益改善効果を示唆。
- 蓄電池の最適運用: 発電量と蓄電池の充放電をリアルタイムで監視・制御し、インバランスを削減する効果的な運用手法を確認。
- 積雪予測技術の開発: 積雪が太陽光発電に与える影響を考慮した予測技術を開発し、冬季のインバランス量を約6.7%削減。
- 洋上風力の有効性: 洋上風力発電が、予測精度やならし効果の面でインバランスを抑制しやすく、収益性が高い電源であることを確認。
2. 分散型エネルギーリソース(DER)アグリゲーション実証事業
需要家側が持つ家庭用蓄電池やEV充電器などを遠隔制御し、電力の安定供給に必要な「調整力」を生み出すことを目指す実証です。
- 多様なリソースの制御: 低圧・高圧リソース合計6,927台(設備出力20MW超)を導入・制御し、需給調整市場の全メニューの技術要件をクリア。
- 低圧リソースの活用拡大: 2026年度の低圧リソース活用拡大を見据え、家庭用蓄電池などを群管理することで、実用に十分な応動性能を安定的に達成。
- コストダウンの検証: 周波数計測を代表点のみで行う方式を実証し、可用性を向上させつつコストダウンを図る手法を検証。
💡 重要ポイント:今後のビジネス展望
これらの実証で得られた知見は、再エネアグリゲーションサービスやデマンドレスポンス(DR)サービスにフィードバックされ、サービスの精度向上やコスト低減に繋がります。将来的には、系統用蓄電池の最適化や、2026年度に予定されている需給調整市場への低圧リソース本格参入に向けたビジネス拡大が期待されています。
公募情報と申請プロセス(参考)
本事業の公募は既に終了していますが、今後の同様の事業への応募を検討されている方向けに、一般的なプロセスをご紹介します。
- 公募情報の確認:
執行団体(SIIなど)のウェブサイトで公募要領を確認します。事業目的、対象者、補助対象経費、スケジュールなどを熟読します。 - 事業計画の策定:
公募要領に基づき、実証事業の具体的な計画、実施体制(コンソーシアム組成など)、資金計画などを盛り込んだ事業計画書を作成します。 - 申請手続き:
電子申請システム(Jグランツなど)を利用して、必要書類を提出します。 - 審査・採択:
提出された計画書は、専門家による審査委員会で評価され、採択事業者が決定されます。 - 事業実施と成果報告:
採択後、計画に沿って実証事業を実施し、期間終了後に成果報告書を提出します。
まとめ
「令和5年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用実証事業」は、再エネの主力電源化と電力の安定供給を両立させるための重要なステップとなる事業です。本事業で得られた成果は、今後のアグリゲーションビジネスを大きく発展させ、脱炭素社会の実現に不可欠な技術基盤を構築するものと言えるでしょう。今後も同様の国家プロジェクトが継続される可能性が高いため、関連事業者の皆様は、公式サイトの新着情報を定期的にチェックすることをお勧めします。