経済産業省が推進する「令和5年度 無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業」は、次世代自動車技術の中核である蓄電池の健全なエコシステム構築を目指す重要な補助金です。本記事では、すでに公募が終了した本事業の目的、支援内容、補助額、そしてNTTデータやゼロボードなどの採択事例までを分かりやすく解説します。
事業の目的:なぜ蓄電池エコシステムが重要なのか?
本事業は、電動化を含む「CASE」技術の社会実装に伴う課題解決を目的としています。世界的にカーボンニュートラルへの移行が加速する中、特に欧州では「欧州電池規則」が施行されるなど、蓄電池のライフサイクル全体(製造からリサイクルまで)における環境規制やルール形成が急速に進んでいます。
本事業が目指す3つのポイント
- 国際競争力の強化: CO2排出量の見える化や倫理的な材料調達など、国際ルールに対応できるサプライチェーンを構築します。
- サーキュラーエコノミーの実現: 蓄電池のリユース・リサイクル技術を確立し、資源の有効活用と廃棄物削減を促進します。
- 新産業の創出: データ連携プラットフォーム(ウラノス・エコシステム等)の構築を通じて、新たな認証ビジネスやデータ産業を誘発します。
この事業は、これらの課題に対応し、日本の自動車・蓄電池産業が国際的な競争力を維持・強化するために不可欠な取り組みを支援するものです。
補助金の概要(令和5年度実績)
令和5年度の公募は複数回に分けて実施されました。ここでは主要な情報を表にまとめます。
項目 | 内容 |
---|---|
事業名 | 令和5年度 無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業(健全な製品エコシステム構築・ルール形成促進事業) |
実施団体 | 一般社団法人 低炭素投資促進機構(GIO) |
管轄省庁 | 経済産業省 |
公募期間 | 複数回実施(例:2023年7月21日~8月2日、11月8日~11月27日) ※全公募終了 |
補助率 | 補助対象経費の 2/3以内 |
申請方法 | jGrantsによる電子申請 |
公募内容と補助上限額
本事業は、大きく分けて以下の4つのテーマで公募が行われました。
① データ流通
サプライチェーン全体でのデータ連携基盤構築を目指す取り組みです。
- (ア) 蓄電池のトレーサビリティ管理システム:
補助上限額: 11億円/年度 - (イ) アプリケーション:
補助上限額: 7,500万円/年度
② 蓄電池のリユース・リサイクル
使用済み電池の回収・有効活用や、中古市場の創出に資する取り組みです。
- (ア)~(エ) 各種実証事業:
補助上限額: 4,000万円/年度
③ カーボンフットプリント(CFP)
蓄電池ライフサイクルでのCO2排出量の見える化に関する取り組みです。
- 実証事業:
補助上限額: 8,000万円/年度
④ デュー・ディリジェンス(DD)
材料の倫理的調達(人権・環境への配慮)に関する取り組みです。
- 実証事業:
補助上限額: 2,000万円/年度
採択事例と事業の成果
本事業は、日本の産業界をリードする企業が採択され、具体的な成果を生み出しています。
事例1: 株式会社NTTデータ
NTTデータは「データ流通(トレーサビリティ管理システム)」分野で採択され、その成果として2024年5月に「バッテリートレーサビリティプラットフォーム」の提供を開始しました。これは、経済産業省が提唱する官民連携イニシアティブ「ウラノス・エコシステム」の最初のユースケースであり、欧州電池規則に対応した企業間の安全なデータ連携を実現します。
事例2: 株式会社ゼロボード
GHG排出量算定ソリューション「Zeroboard」を提供するゼロボードは、「データ流通(アプリケーション)」分野で採択されました。同社は、データ連携基盤に接続する認定アプリの開発・接続実証を担当。カーボンフットプリント値の集計やデュー・ディリジェンス結果の収集を可能にするアプリ開発を通じて、日本のデータ連携基盤構築とルール形成に貢献しています。
まとめ
「CASE対応実証・支援事業」は、単なる補助金に留まらず、日本の産業構造を次世代に適応させ、国際的なルール形成に主体的に関与していくための戦略的な国家プロジェクトです。公募は終了しましたが、本事業から生まれたプラットフォームやソリューションは、今後多くの企業にとって不可欠なインフラとなるでしょう。
次年度以降も同様の趣旨を持つ事業が公募される可能性があります。関連企業の皆様は、経済産業省や低炭素投資促進機構(GIO)の発表に引き続きご注目ください。