5Gやテレワークの普及によるデータ通信量の増大に対応するため、経済産業省が推進した「産業技術実用化開発事業費補助金(地域分散クラウド技術開発事業)」。本記事では、この補助金の目的、具体的な事業要件、申請プロセス、そして採択された企業の成果までを分かりやすく解説します。
産業技術実用化開発事業費補助金(地域分散クラウド技術開発事業)とは?
本事業は、データ処理が東京・大阪などの中央に集中することで生じる通信品質の低下や回線のひっ迫といった課題を解決することを目的とした補助金です。今後普及が進む5Gなどの次世代通信技術を最大限に活用するため、地域に分散したデータセンターを一体的に運用する「分散型クラウド基盤」の構築に必要な技術開発を支援するものです。
この補助金のポイント
- 目的: データセンターの一極集中を回避し、高速・円滑なクラウドサービス提供技術を確立する。
- 背景: テレワーク急増や5G普及によるデータ通信量の増大。
- 目標: 2025年度に国内クラウド市場で、本事業の研究開発成果を活用したクラウドのシェアを10%以上とすること。
補助金の詳細情報
項目 | 内容 |
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補助金名 | 令和2年度補正 産業技術実用化開発事業費補助金(地域分散クラウド技術開発事業) |
実施機関 | 経済産業省(執行団体:日本データセンター協会) |
公募期間(二次) | 令和2年8月17日(月)~9月17日(木)17時【公募終了】 |
対象者 | 分散型クラウド基盤に関する技術開発を行う民間事業者等 |
補助対象経費 | 研究開発等に関する事業に係る経費 |
申請方法 | jGrantsによる電子申請 |
補助対象となる3つの事業要件
本補助金の対象となるには、以下の3つの要件をすべて満たす研究開発であることが求められました。
- 分散データセンターの統合運用技術: 地理的に分散した3拠点以上のデータセンターを一体的に運用(負荷分散、障害時の処理移行など)できるソフトウェア技術の獲得を目指すこと。
- 高速データ処理技術: 仮想化環境において、既存技術よりも高速なデータ処理を実現するソフトウェア技術の獲得を目指すこと。
- 事業化計画: 事業期間の終了後、開発した技術を事業化することを目指すものであること。
採択事例:サイバートラスト社の成果
本事業では5社が採択され、技術開発が進められました。その一例として、サイバートラスト株式会社の成果をご紹介します。
分散型低遅延IoT機器認証サービスの実証
同社は、セキュアなIoTサービスを実現するための「分散型低遅延IoT機器認証プラットフォーム」の研究開発を実施。建設現場のDX化を想定したユースケースで実証実験を行い、以下の目標を達成しました。
- 業界最高水準の発行速度: 3拠点連携で毎秒3,400件(理論値)の証明書発行速度を達成(同社比約800倍)。
- 低遅延: 証明書発行のレイテンシ(遅延)を0.5秒に抑制。
- 実用性の証明: AIを活用した盗難検知や作業員の安全性確認システムで有効性を実証。
この成果は、スマートビルや自動運転、ロボティクスなど、リアルタイム性と高いセキュリティが求められる次世代IoTソリューションへの応用が期待されています。
まとめと関連情報
「産業技術実用化開発事業費補助金(地域分散クラウド技術開発事業)」は、日本のデジタルインフラの強靭化と、新たなクラウドサービスの創出を後押しする重要な取り組みでした。本事業は既に公募を終了していますが、採択された企業の成果報告書が公開されており、今後の技術動向や事業開発の参考になります。