この記事では、国土交通省と経済産業省が連携して推進する「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(内航船の革新的運航効率化実証事業)」について詳しく解説します。内航海運のカーボンニュートラル実現に向けた重要な取り組みであり、最大5億円という大規模な支援が特徴です。次世代の省エネ船開発や建造を検討している事業者様は必見です。
AI・IoT活用輸送効率化補助金(内航船)とは?
本補助金は、2050年のカーボンニュートラル目標達成に向け、日本の運輸部門CO2排出量の約5%を占める内航海運の省エネルギー化を強力に推進することを目的としています。革新的な省エネ技術(ハード)と、AI・IoTを活用した運航効率化技術(ソフト)を組み合わせ、次世代の内航船の開発・建造・実証を支援する制度です。
事業は大きく分けて「船型開発支援」と「建造・実証支援」の2つのメニューで構成されています。
項目 | 概要 |
---|---|
正式名称 | AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(内航船の革新的運航効率化実証事業) |
実施省庁 | 国土交通省、経済産業省 |
目的 | 革新的なハード・ソフト技術を組み合わせた省エネ内航船の開発・建造・実証を支援し、内航海運の省エネルギー化とカーボンニュートラルを促進する。 |
対象者 | 荷主、オペレーター、船主、造船所等が連携して省エネ化に取り組む事業者 |
公募状況 | 令和5年度の公募は終了。次年度以降の公募については公式サイトをご確認ください。 |
2つの主要な支援メニューを徹底解説
本事業は、事業フェーズに応じて2つの支援メニューが用意されています。
1. 船型開発支援
省エネ性能の高い内航船や作業船等の「船型開発」を支援するメニューです。将来の建造を見据えた基本設計段階の取り組みが対象となります。
- 補助上限額: 6,000万円
- 補助率: 補助対象経費の全額 (10/10)
- 対象事業: 荷主・オペレータ・船主等が連携して取り組む省エネ内航船や、港湾工事等に使用する作業船等の船型開発事業
2. 建造・実証支援
開発された技術を実際に搭載した船舶を「建造」し、その省エネ効果を「実証」する取り組みを支援するメニューです。
- 補助上限額: 5億円
- 補助率: 補助対象経費の1/2以内
- 対象事業: 革新的なハード技術(省エネ船型、高効率プロペラ等)とソフト技術(運航・配船計画の最適化等)を組み合わせた内航船の建造・実証事業
令和5年度の採択事例から見る成功のヒント
令和5年度には合計4件の事業が採択されました。どのようなプロジェクトが支援対象となるのか、具体的な事例を見ていきましょう。
【船型開発支援】採択事例
① 石炭灰運搬船の省エネ船型開発
事業者: 東海運(株)、(株)三浦造船所、(一財)日本造船技術センター
概要: 優れた操縦性能を持つ「スーパーベクツイン舵」の装備や、高精度な最適航路選定支援システムを導入し、連携型の省エネ船開発に取り組みます。
② タグボートの船体形状改善と電気推進化
事業者: 川崎重工業(株)
概要: 船体抵抗を低減する船首形状の改良と、需要に応じて最適なエネルギー源を選択する電気推進システムの開発により、タグボートの省エネ化を推進します。
【建造・実証支援】採択事例
③ セメント運搬船の推進機関効率改善
事業者: 東海運(株)、富士海運(株)
概要: 垂直型船首形状、低速4サイクル電子制御機関、新型高効率プロペラ、自動船速制御システム等を導入し、省エネ運航を実現します。
④ コンテナ船の高効率推進装置装着
事業者: 和幸船舶(株)、丸三海運(株)
概要: 高度空気潤滑システム、コンテナ型バッテリーシステム、船内監視・陸上サポートシステム等を導入し、非化石転換も見据えた省エネ運航を実現します。
採択のポイント
これらの事例から、複数の革新的技術を組み合わせること、そして荷主、船主、造船所といった関係事業者間の強固な連携体制が採択の重要な鍵であることがわかります。
申請前に確認すべき重要ポイント
- 連携体制の構築: 荷主、オペレーター、船主、造船所など、サプライチェーン全体での連携計画が不可欠です。早い段階からパートナーとの協力体制を築きましょう。
- 技術の革新性と実現可能性: 導入する技術が革新的であると同時に、事業として実現可能であることを示す具体的な計画が求められます。
- 省エネ効果の明確化: 提案する事業によって、どの程度のCO2削減や省エネ効果が見込めるのかを、客観的なデータに基づいて具体的に示す必要があります。
- 成果の展開: 開発した技術や実証で得られた知見を、業界全体にどう波及させていくかという視点も重要です。内航船省エネルギー格付制度の活用なども視野に入れましょう。
まとめ:次世代の内航海運をリードするために
「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金」は、内航海運業界が直面するカーボンニュートラルという大きな課題を乗り越えるための強力な支援策です。補助額が大きい一方で、申請には高度な技術的知見と強固な連携体制が求められる難易度の高い制度でもあります。
令和5年度の公募は終了しましたが、今後も同様の支援が継続されることが期待されます。次回の公募に向けて、今から情報収集と連携体制の構築を進めてみてはいかがでしょうか。