この記事のポイント
- 内航海運の省エネ化・カーボンニュートラルを推進するための大規模補助金
- 「船型開発支援(上限6千万円)」と「建造・実証支援(上限5億円)」の2本立て
- 荷主・オペレーター・船主・造船所等の連携が採択の鍵
- 令和5年度の公募は終了。次年度以降の公募に備え、制度内容や採択事例を詳しく解説!
近年、世界的な課題となっているカーボンニュートラル実現に向け、日本の運輸部門でもCO2排出量削減が急務となっています。特に、国内物流の約4割を担う内航海運分野において、省エネルギー化は避けて通れない重要なテーマです。
この記事では、国土交通省と経済産業省が連携して実施する「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(内航船の革新的運航効率化実証事業)」について、その目的から具体的な支援内容、過去の採択事例までを網羅的に解説します。令和5年度の公募は終了しましたが、本事業は継続的に実施される可能性が高いため、次年度の申請を検討している事業者様はぜひ参考にしてください。
補助金の概要:2つの支援メニュー
本補助金は、内航海運の省エネルギー化を強力に推進するため、大きく分けて2つの支援メニューで構成されています。それぞれの目的と特徴を理解することが、申請への第一歩となります。
1. 船型開発支援
荷主・オペレーター・船主等が連携して取り組む省エネ内航船や、港湾工事等で使用する作業船の標準的な省エネルギー船型の開発を支援します。革新的な船の「設計図」を作る段階をサポートする事業です。
2. 建造・実証支援
省エネ船型や高効率エンジンなどの革新的なハード技術と、運航計画の最適化などのソフト技術を組み合わせた内航船を実際に建造し、その省エネ効果を実証する取り組みを支援します。設計図を元に実際に船を建造し、その性能を証明する段階をサポートします。
補助金の詳細:支援内容を比較
2つの支援メニューの具体的な内容を、以下の表で比較してみましょう。
項目 | 船型開発支援 | 建造・実証支援 |
---|---|---|
目的 | 標準的な省エネ船型の開発 | 革新的技術を搭載した船舶の建造と効果実証 |
補助上限額 | 6,000万円 | 5億円 |
補助率 | 定額(補助対象経費の全額) | 1/2以内 |
対象経費 | 船型開発費 | 革新的ハード・ソフト技術の導入、船舶建造、実証にかかる事業費 |
対象者(例) | 海運事業者、造船所、舶用メーカー、荷主等の連携体 | 海運事業者、荷主等の連携体 |
⚠️ ご注意
上記の情報は令和5年度の公募内容に基づいています。次年度以降の公募では、補助額や要件が変更される可能性があります。必ず最新の公募要領をご確認ください。
なぜ今、内航海運の省エネ化が重要なのか?
政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減するという野心的な目標を掲げています。運輸部門全体のCO2排出量は日本全体の約18.6%を占めており、その中でも内航海運は5.0%を占める重要なセクターです。
トラックドライバー不足や環境負荷低減の観点から、陸上輸送から海上輸送へのモーダルシフトが推進される中、海運自体の環境性能向上が不可欠となっています。本補助金は、こうした国の大きな方針を実現するための重要な施策の一つと位置づけられています。
令和5年度の採択事例紹介
どのような事業が採択されているのか、令和5年度の公募結果から具体的な事例を見ていきましょう。
船型開発支援の採択事業
【事例1】石炭灰運搬船の省エネ船型開発
- 事業者: 東海運株式会社・株式会社三浦造船所・(一財)日本造船技術センター
- 概要: 優れた操縦性能を持つ「スーパーベクツイン舵」の装備や、最適航路選定支援システムを活用し、総トン数5,400トンの石炭灰運搬船における連携型省エネ船の開発に取り組みます。
【事例2】タグボートの船型開発
- 事業者: 川崎重工業株式会社
- 概要: 199t型タグボートを対象に、船首形状の改良による船体抵抗の低減や、需要に応じてエネルギー源を選択する電気推進システムの開発により、省エネ化を推進します。
建造・実証支援の採択事業
【事例3】セメント運搬船の省エネ実証
- 事業者: 東海運株式会社・富士海運株式会社
- 概要: 7,000トン積みセメント運搬船に、垂直型船首形状や低速4サイクル電子制御機関、新型高効率プロペラ、自動船速制御システム等を導入し、省エネ運航を実現します。
【事例4】コンテナ船の高効率推進装置装着実証
- 事業者: 和幸船舶株式会社・丸三海運株式会社
- 概要: 499GTコンテナ船に、高度空気潤滑システムやコンテナ型バッテリーシステム、船内監視・陸上サポートシステム等を導入し、非化石転換にも取り組みつつ省エネ運航を実現します。
次年度の申請に向けて準備すべきこと
本補助金は専門性が高く、申請準備には時間がかかります。次年度の公募開始に備え、今から準備を進めましょう。
- 連携体制の構築: 採択事例からも分かるように、荷主、オペレーター、船主、造船所など、サプライチェーン全体での連携が極めて重要です。早い段階からパートナーと協議を開始しましょう。
- 事業計画の具体化: どのような技術を導入し、どの程度の省エネ効果(CO2削減量など)が見込めるのか、定量的で説得力のある計画を練り上げることが不可欠です。
- 情報収集の継続: 国土交通省や経済産業省のウェブサイトを定期的にチェックし、公募開始の発表を見逃さないようにしましょう。関連セミナー等に参加するのも有効です。
まとめ
「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金」は、内航海運業界の未来を左右する重要な支援制度です。補助額が大きい一方で、革新的な技術開発や関係者間の強固な連携が求められる難易度の高い補助金でもあります。
この記事を参考に、自社の技術や事業がどのように貢献できるかを検討し、次年度の公募に向けて万全の準備を進めてください。
お問い合わせ先
国土交通省海事局海洋・環境政策課
TEL:03-5253-8111(直通 03-5253-8636)