インフラFS支援事業とは?海外展開の第一歩を強力に後押し
「海外の巨大なインフラ市場に挑戦したいが、事前の事業性評価(FS調査)にかかるコストが障壁になっている…」
そんな悩みを抱える日本企業を支援するため、経済産業省が主導するのが「質の高いインフラ・エネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業(インフラFS支援事業)」です。
この事業は、日本企業が海外でインフラプロジェクトを受注・事業化する際に必要となる、事業実施可能性調査(Feasibility Study)やマスタープラン策定にかかる費用を支援するものです。2013年から続く「インフラシステム海外展開戦略」の一環として、日本の優れた技術やノウハウを世界に展開し、経済成長に繋げることを目的としています。
この事業の3つの重要ポイント
- 最大5,000万円の補助金: FS調査にかかる経費の最大2/3(中小企業の場合)が補助されます。
- 2つの支援タイプ: 短期的な受注を目指す「補助金」と、政策的意義の高い案件を対象とする「委託費(最大1億円)」があります。
- 幅広い分野が対象: 脱炭素、DX、スマートシティ、交通、エネルギーなど、多様なインフラ分野での活用が可能です。
事業の概要(基本情報)
事業名 | 質の高いインフラ・エネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業 |
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実施組織 | 経済産業省 |
支援額 | 【補助金】上限5,000万円 【委託費】上限1億円 |
補助率 | 補助対象経費の1/2以内 (中小企業は2/3以内) |
対象者 | 海外でのインフラ事業展開を目指す日本企業(大企業、中小企業、スタートアップ等) |
公募期間の目安 | 例年、春〜初夏頃に公募されます。(令和4年度実績:補助金は5月〜6月) ※最新情報は必ず公式サイトをご確認ください。 |
「委託」と「補助金」の違い
本事業には2つの支援スキームがあり、案件の性質によって使い分けられています。
項目 | 委託費 | 補助金 |
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対象案件 | 国が実施する政策的意義の高い案件(公益性、波及性、先進性の高い案件) | 企業による短期的な受注・事業化を目的とした個別具体的な案件 |
上限額(R4年度) | 1億円 | 5,000万円 |
事業者負担 | なし(国からの委託事業) | あり(補助率1/2 or 2/3) |
補助対象となる経費
FS調査に関連する幅広い費用が対象となります。具体的には以下のような経費です。
- 相手国への提案に必要な情報収集、調査、分析費用
- 市場規模や需要の予測、経済性の評価
- 環境影響調査や社会影響調査などのリスク分析
- 競合他社の動向把握、差別化の検討
- インフラの基本的な設計費用
- 事業規模、コスト、収入等の算出
- ファイナンスや事業実施体制の検討
【注意】試作品開発費や実証にかかる費用は補助対象外です。
採択されるための重要ポイント
「インフラシステム海外展開戦略2025」に基づき、特に以下の分野に関連する提案が重視される傾向にあります。
- カーボンニュートラルへの貢献: 水素・アンモニア、再エネ、送配電など脱炭素化技術に関連する事業。
- デジタル技術の活用: DX、データ活用、デジタルプラットフォーム構築など、付加価値の高い事業。
- 継続的な関与: 機器を売るだけの「売り切り型」ではなく、O&M(運営・保守)や事業運営への参画を含むモデル。
- 新たな担い手の参画: 中小企業やスタートアップによる先進的な技術やビジネスモデルの提案。
採択事例の紹介
実際にどのような事業が採択されているのか、近年の事例を見てみましょう。
【令和5年度採択事例】川崎重工:再エネ安定化技術「VSG」の海外展開調査
川崎重工は、再生可能エネルギーの大量導入に伴う電力系統の不安定化という課題を解決する「仮想同期発電機制御(VSG)」技術のFS調査で採択されました。フィリピンやマレーシアを対象に、VSG搭載インバータを新たな再エネソリューションとして展開する可能性を検証し、ASEAN諸国への普及を目指しています。これは、日本の先進技術で世界の脱炭素化に貢献する典型的な優良事例です。
その他採択事例(一部抜粋)
事業者名 | 事業概要 | 対象国 |
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丸紅㈱ | メタバース活用によるスマートシティ開発・運営事業のFS調査 | ベトナム |
I’mbesideyou | 動画解析AIとWeb3を活用したメンタルヘルス予防インフラ構築のFS調査 | インド |
豊田通商㈱ | グリーン水素バリューチェーン開発可能性調査 | ケニア |
三菱商事㈱ | 石炭火力発電所向けアンモニア混焼のFS調査 | インドネシア |
まとめ
インフラFS支援事業は、海外展開を目指す企業にとって、事業初期段階の大きなハードルである調査・計画策定コストのリスクを大幅に軽減できる非常に価値の高い制度です。特に、脱炭素やDXといった世界的な潮流に合致した事業計画を持つ企業にとっては、大きなチャンスとなります。公募情報は経済産業省のウェブサイトで公開されますので、海外展開を検討している企業は定期的にチェックすることをお勧めします。