この記事のポイント
- ✓ 令和5年度「系統用蓄電池等導入・配電網合理化補助金」の概要と目的がわかる
- ✓ アドバンテックやトヨタなど、具体的な採択事例から成功のヒントを得られる
- ✓ 次年度以降の公募に向けた準備や申請のポイントを学べる
近年、大規模災害への備えやカーボンニュートラルの実現に向け、エネルギーインフラの強靭化が急務となっています。特に、太陽光発電などの再生可能エネルギーを地域で有効活用する「地域マイクログリッド」の構築が注目されています。この記事では、その構築計画を支援する経済産業省の重要補助金「系統用蓄電池等導入・配電網合理化等再生可能エネルギー導入加速化事業費補助金」について、令和5年度の成果報告をもとに徹底解説します。
系統用蓄電池等導入・配電網合理化補助金とは?
本補助金は、災害時にも電力を安定供給できる地域マイクログリッドの構築や、新たな配電事業への参入を目指す事業者が、その初期段階であるマスタープランや事業計画を策定する際の経費を支援するものです。再生可能エネルギーの導入を加速させ、エネルギーの地産地消とレジリエンス強化を両立させることを目的としています。
項目 | 内容 |
---|---|
正式名称 | 令和5年度 系統用蓄電池等導入・配電網合理化等再生可能エネルギー導入加速化事業費補助金(配電事業等の参入を見据えた計画策定支援事業) |
実施組織 | 経済産業省(執行団体:一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)) |
目的 | 災害時のレジリエンス強化、再生可能エネルギーの導入拡大、エネルギーの地産地消の実現 |
対象事業 | 地域マイクログリッド構築や配電事業参入のためのマスタープラン・事業計画の策定 |
対象者 | 上記の計画策定を行う民間事業者、地方公共団体、コンソーシアム等 |
【採択事例】令和5年度の成果から学ぶ成功のヒント
どのような計画が採択されるのでしょうか。令和5年度の成果報告書から、特徴的な3つの事例をピックアップしてご紹介します。これらの事例には、次年度以降の申請に向けた重要なヒントが隠されています。
事例1:株式会社アドバンテック(愛媛県西条市)- 防災拠点強化モデル
南海トラフ地震による津波被害が懸念される西条市において、災害リスクの低い高台にある「石鎚山ハイウェイオアシス」周辺をマイクログリッド化する計画です。指定避難所や広域防災拠点を含むエリアのレジリエンスを強化します。
- 課題:大規模地震・津波発生時の電力確保
- 解決策:防災拠点に太陽光発電(460kW)と蓄電池(合計2445kWh)を導入し、災害時に自立運転
- 成功のポイント:明確な地域防災課題への貢献と、市や四国電力送配電との強固な連携体制
事例2:株式会社阿寒マイクログリッド(北海道釧路市)- 地域資源活用モデル
酪農が盛んな地域特性を活かし、既存のメタン発酵バイオガス発電設備を核としたマイクログリッドを、さらに配電事業へと発展させる計画です。エネルギーの地産地消による地域経済循環を目指します。
- 課題:エネルギーの域外流出と、再エネ電力の販売先限定
- 解決策:バイオガス発電と太陽光発電を組み合わせ、配電ライセンスを取得して地域へ安価な電力を供給
- 成功のポイント:地域の基幹産業と連携し、発電・小売・配電を一体で検討する多角的なビジネスモデル
事例3:トヨタ自動車東日本株式会社(岩手県金ケ崎町)- 大手企業連携モデル
岩手工場が持つ大規模な自家発電設備(ガスエンジン、太陽光)を活用し、災害時に周辺の避難所や学校給食センターなどの公共施設へ電力を供給する計画です。企業のカーボンニュートラルと地域貢献を両立させます。
- 課題:地域全体の防災力向上と、企業の再エネ設備の有効活用
- 解決策:工場の電源と地域の防災施設を自営線や既存配電網で接続し、非常時に電力を融通
- 成功のポイント:企業の持つ大規模リソースを地域のために開放する先進的な公民連携スキーム
次年度公募に向けて!申請のポイントと準備
これらの採択事例から、次年度以降の公募で評価されるであろう重要なポイントが見えてきます。計画策定の段階から以下の点を意識することが、採択への近道となります。
申請に向けた3つの重要ポイント
- 地域課題との明確な連携:ただ再エネ設備を導入するだけでなく、「防災」「地域産業振興」「高齢化対策」といった、その地域が抱える具体的な課題解決にどう貢献するのかを明確にストーリー立てることが重要です。
- 実現可能な事業スキーム:平常時の収益性(PPAモデルなど)と非常時の役割を両立させる、持続可能なビジネスモデルを構築する必要があります。収支シミュレーションを含めた具体的な計画が求められます。
- 強力なコンソーシアム形成:自治体、地域の有力企業、一般送配電事業者、金融機関など、プロジェクトの実現に不可欠な関係者を早期に巻き込み、実効性の高い推進体制を構築することが不可欠です。
まとめ
「系統用蓄電池等導入・配電網合理化補助金」は、地域のエネルギー自立と安全・安心な暮らしを実現するための第一歩となる計画策定を力強く後押しする制度です。令和5年度の公募は終了しましたが、今後も同様の支援が継続される可能性は高いと考えられます。
地域マイクログリッドや配電事業に関心のある事業者の皆様は、今のうちから地域課題の洗い出しや関係者との連携構築を進め、次なるチャンスに備えてみてはいかがでしょうか。
※一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)のサイトへ移動します