脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入が加速する中、電力系統の安定化を担う「系統用蓄電池」の重要性が急速に高まっています。国も大規模な補助金で導入を後押ししており、新たなビジネスチャンスとして注目が集まっています。本記事では、過去の補助金事業を参考にしつつ、2024年以降の市場動向と、事業を成功させるための3つの重要ポイントを専門家の視点で分かりやすく解説します。
令和5年度 系統用蓄電池等導入支援事業とは?【公募終了】
まず、近年の代表的な補助金として「令和5年度 系統用蓄電池等導入支援および実証支援事業」の概要を見てみましょう。この事業は既に公募を終了していますが、今後の補助金の傾向を把握する上で重要な参考情報となります。
事業概要(参考:令和5年度事業)
再生可能エネルギーの導入拡大に伴う出力変動に対応し、電力系統の安定化を図るため、系統用蓄電池システムの導入を支援する事業です。大規模な投資が必要となるため、手厚い補助が行われました。
項目 | 内容 |
---|---|
事業名 | 令和5年度 系統用蓄電池等導入支援および実証支援事業 |
実施機関 | 経済産業省 資源エネルギー庁(執行団体:一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)) |
公募期間 | 2023年9月29日にて終了 |
対象者 | 系統用蓄電池を導入・運用する民間事業者等 |
補助対象経費 | 蓄電システムの設計費、設備費、工事費など |
なぜ今、系統用蓄電池ビジネスが注目されるのか?
系統用蓄電池への投資が活発化している背景には、国の強力な政策と市場環境の変化があります。
再エネ大量導入と電力安定化の切り札
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動します。この変動を吸収し、電力の需要と供給のバランスを保つ「調整力」として、応答速度の速い蓄電池への期待が非常に高まっています。
国や自治体による強力な後押し
国は脱炭素化の切り札として蓄電池導入を推進しており、大規模な補助金事業を展開しています。事実、2022年以降、国と東京都だけで合計56件、400億円以上の補助金交付が決定しており、今後も令和6年度補正予算などで支援が継続される見込みです。
2024年以降の市場環境変化と投資のチャンス
2024年4月以降、蓄電池ビジネスを取り巻く市場環境が大きく変化し、より投資判断を行いやすい状況が整いつつあります。これは、事業の収益性を予測する上で非常に重要な動きです。
注目すべき3つの市場動向
- 需給調整市場の全メニュー開設:これまで未開設だった応答速度の速い調整力メニューが取引可能になり、蓄電池の新たな収益源として期待されます。
- 容量市場の本格運用開始:電力の供給能力(kW)そのものに対価が支払われる市場が本格始動。運用実績が明らかになることで、収益予測の精度が向上します。
- 長期脱炭素電源オークションの結果公表:建設費などの固定費回収が見込める新制度。第1回の結果が公表され、今後の落札価格や容量の目安となります。
これらの市場の実績データが揃うことで、リスクを抑えた上で、より精緻な事業計画を立てることが可能になります。
系統用蓄電池ビジネス成功のための3つの重要ポイント
補助金を活用し、系統用蓄電池ビジネスを成功させるためには、以下の3つのポイントを押さえた事業計画が不可欠です。これらは補助金の審査や金融機関の融資判断においても重要な評価項目となります。
ポイント1:ユースケース(利用用途)の最適な選択
蓄電池の収益源は一つではありません。主に以下の3つの市場をどう組み合わせるかが鍵となります。
- 卸電力市場:価格が安い時に充電し、高い時に放電して差益を得る。
- 需給調整市場:電力系統の安定化に貢献することで対価を得る。
- 容量市場:将来の供給力を確保することへの対価を得る。
複数の市場を組み合わせれば収益は向上しますが、運用の難易度も上がります。目標収益と運用能力のバランスを見極めることが重要です。
ポイント2:精度の高い電力市場価格の推計
蓄電池事業は15年~20年という長期にわたります。その間の電力市場価格の変動は事業収支に直結します。燃料価格の動向、再エネ導入量、市場ルールの変更など、様々な要因を考慮した長期的な価格見通しに基づいて事業計画を立てる必要があります。
ポイント3:収益を最大化する蓄電池制御ロジック
刻々と変化する各市場の価格を予測し、「どのタイミングで」「どの市場のために」充放電を行うか。この最適な運用を判断する制御ロジックが収益性を大きく左右します。事業計画段階で、このロジックに基づいた精緻な収支シミュレーションが求められます。
補助金申請の一般的な流れ
系統用蓄電池のような大型補助金の申請は、周到な準備が必要です。一般的なプロセスを理解しておきましょう。
-
1
公募情報の確認:執行団体のウェブサイトで公募要領を熟読し、対象者、補助率、スケジュール等の要件を確認します。 -
2
事業計画の策定:前述の3つのポイントを踏まえ、事業の目的、実施体制、収支計画などを詳細に盛り込んだ事業計画書を作成します。 -
3
必要書類の準備:見積書や財務諸表など、公募要領で指定された書類を漏れなく準備します。 -
4
電子申請:多くの場合、国の電子申請システム(jGrantsなど)を通じて申請を行います。
まとめと今後の展望
系統用蓄電池ビジネスは、脱炭素化という大きな潮流の中で、今後ますます拡大が期待される有望な市場です。2024年は各種市場制度が本格稼働し、事業環境が大きく整う転換点となります。
国の補助金は、この大規模投資を後押しする強力なツールです。今後公募されるであろう令和6年度補正予算などの最新情報を常にチェックし、専門家の支援も活用しながら、精緻な事業計画を策定することが成功への鍵となるでしょう。
お問い合わせ先(参考)
一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)
電話番号: 03-6260-6951
メール: k_ess_info@sii.or.jp
※上記は本記事で紹介した令和5年度事業の窓口です。後継事業では担当窓口が変更される可能性がありますので、必ず最新の公募情報をご確認ください。