海外展開を目指す中小企業にとって、特許や商標などの知的財産権は事業の生命線です。しかし、外国への出願には高額な費用がかかるのが大きな課題。この記事では、その負担を大幅に軽減できる国や自治体の助成金・補助金、特に人気の「中小企業等外国出願支援事業」を中心に、網羅的に解説します。
国の代表的な知財助成金:中小企業等外国出願支援事業
まず最初に押さえておくべきなのが、特許庁が主導する「中小企業等外国出願支援事業」です。これは、中小企業の戦略的な海外での知的財産権取得を支援するため、外国出願にかかる費用の半額を補助する非常に強力な制度です。
制度の概要とメリット
この制度は、全国のジェトロ(日本貿易振興機構)や各都道府県の中小企業支援センターなどが窓口となり、地域の中小企業からの申請を受け付けています。最大のメリットは、高額になりがちな代理人費用や翻訳費用も補助対象となる点です。
項目 | 内容 |
---|---|
補助対象者 | 日本国内に主たる事業所を有する中小企業者等 |
補助対象経費 | 外国特許庁への出願手数料、現地代理人費用、国内代理人費用、翻訳費用など |
補助率 | 補助対象経費の1/2以内 |
補助上限額 | 1企業あたり最大300万円 (内訳例:特許150万円、実用新案・意匠・商標60万円、冒認対策商標30万円) |
⚠️ 注意点
申請窓口は本社所在地の都道府県となります。公募期間は各都道府県で異なるため、例年4月~5月頃に発表される情報を必ず確認してください。予算に達し次第、早期に締め切られることもあります。
申請から受給までの流れ
一般的な申請プロセスは以下の通りです。補助金は後払いのため、資金計画を立てておくことが重要です。
- Step 1: 公募情報の確認
所在地の都道府県の実施機関(中小企業支援センター等)のウェブサイトで公募要領を確認します。 - Step 2: 申請書類の準備
事業計画書や見積書など、必要な書類を準備します。代理人(弁理士)と相談しながら進めるのがスムーズです。 - Step 3: 申請
公募期間内に、指定された方法(電子申請、郵送など)で申請します。 - Step 4: 審査・交付決定
審査を経て採択されると「交付決定通知」が届きます。この通知を受け取ってから、出願手続きを開始・支払いを行います。 - Step 5: 事業実施・実績報告
出願手続きを完了させ、支払いの証明書類などを揃えて実績報告書を提出します。 - Step 6: 補助金の受給
実績報告が承認されると、指定の口座に補助金が振り込まれます。
【地域別】知的財産権関連の助成金・補助金窓口一覧
「中小企業等外国出願支援事業」の窓口は各都道府県に設置されています。また、市区町村によっては独自の知財関連補助金制度を設けている場合があります。ここでは主要な窓口と制度の一部をご紹介します。
地域 | 都道府県/市区町村 | 制度名・実施機関(例) |
---|---|---|
北海道・東北 | 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島 | (公財)北海道中小企業総合支援センター、各県発明協会など |
関東 | 東京都、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬 | 東京都知的財産総合センター、各県産業振興財団など。葛飾区、港区など区市独自の制度も多数。 |
東海・北陸 | 愛知、静岡、岐阜、三重、石川、富山、福井、新潟 | 各県産業振興財団、にいがた産業創造機構(NICO)など |
近畿 | 大阪、兵庫、京都、滋賀、奈良、和歌山 | (公財)京都産業21、(公財)新産業創造研究機構(NIRO)など |
中国・四国 | 広島、岡山、山口、鳥取、島根、香川、愛媛、徳島、高知 | (公財)ひろしま産業振興機構、各県発明協会など |
九州・沖縄 | 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 | 各県発明協会、産業振興機構など |
出願後も安心!権利行使や侵害対策の支援事業
知的財産権は取得して終わりではありません。海外で模倣品被害にあったり、権利侵害で訴訟になったりするリスクもあります。国では、そうした事態に備えるための支援事業も用意しています。
- 中小企業等海外侵害対策支援事業: 模倣品対策や海外での侵害調査、訴訟費用の補助など、海外での知財トラブルに対応するための支援です。
- 海外知財訴訟費用保険への補助: 海外での知的財産権に関する訴訟費用を補償する保険への加入費用を一部補助する制度です。
まとめ:まずは専門窓口に相談しよう
知的財産権に関する助成金・補助金は、海外展開を成功させるための強力な武器となります。特に「中小企業等外国出願支援事業」は多くの企業が活用しており、まず検討すべき制度です。
しかし、制度は多岐にわたり、要件も複雑です。どの制度が自社に最適か、どのように申請すればよいか迷った場合は、公的な相談窓口を活用するのが一番の近道です。
お近くの窓口で専門家のアドバイスを受けながら、自社の知財戦略に最適な支援制度を見つけ、グローバル市場での競争力を高めていきましょう。