はじめに:GX実現に向けた原子力分野への大型投資
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、政府はGX(グリーン・トランスフォーメーション)を強力に推進しています。その中核をなすのが、脱炭素電源の安定供給です。半導体工場やデータセンターの需要増により、国内の電力需要が約20年ぶりに増加に転じる中、原子力技術の活用が改めて重要視されています。
この記事では、経済産業省 資源エネルギー庁が公表した令和7年度(2025年度)の概算要求に基づき、原子力分野における研究開発や産業基盤強化を目的とした主要な支援事業(補助金・委託事業)の概要をプロの視点で分かりやすく解説します。
【重要】本記事の注意点
本記事で紹介する内容は、令和7年度の概算要求段階の情報です。今後、国会での予算審議を経て内容が変更される可能性があります。正式な公募情報については、必ず経済産業省や関連機関のウェブサイトで最新情報をご確認ください。
令和7年度 原子力関連支援事業の全体像
令和7年度の概算要求では、原子力を「既存炉の最大限活用」と「次世代革新炉の開発・建設」の二本柱で推進する方針が示されています。これらを支えるため、安全性向上、産業基盤(サプライチェーン)強化、人材育成、バックエンド問題の解決に向けた多角的な支援事業が計画されています。
支援のポイント
- 次世代革新炉への重点投資:高速炉・高温ガス炉の実証炉開発に大規模な予算を要求。
- サプライチェーン全体の強化:部素材メーカーや事業承継、デジタル化など、サプライチェーン全体を支援する「原子力産業基盤強化事業」を新規で要求。
- 安全性向上の継続:既存軽水炉の安全性向上や事故耐性燃料など、安全技術開発への支援を継続。
- バックエンド問題への取組加速:高レベル放射性廃棄物の地層処分技術や使用済MOX燃料の再処理技術開発を推進。
主要な支援事業の概要
ここでは、特に注目すべき5つの主要事業について、その目的と内容を解説します。
1. 次世代革新炉の研究開発支援事業(高速炉・高温ガス炉)
脱炭素社会の実現に向けた切り札として期待される次世代革新炉の実用化を目指す、最大規模の研究開発支援です。
- 高速炉実証炉開発事業:資源の有効利用や高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減に貢献する高速炉の実証炉概念設計と研究開発を推進します。
- 高温ガス炉実証炉開発事業:産業利用(水素製造など)が期待される高温ガス炉の実証炉設計や、日本原子力研究開発機構(JAEA)のHTTRを活用した水素製造試験などを支援します。
【要求額】国庫債務負担行為要求額 1,152億円(令和7~9年度)
2. 原子力の安全性向上・革新的技術開発支援事業
既存炉の安全性向上から、多様な社会的要請に応える革新技術まで、幅広い技術開発を支援します。
- 安全性向上技術開発:事故耐性燃料の開発や高経年化対策、革新軽水炉の要素技術開発などを支援します。
- 革新的技術開発支援:再エネとの共存、水素製造、熱利用など、多様なニーズに応える原子力技術のフィージビリティスタディや開発を支援します。
【要求額】33億円(令和7年度)
3. 原子力産業基盤強化事業(新規)
国内の原子力サプライチェーン全体を維持・強化するための新規事業です。サプライヤー支援と人材育成が柱となります。
- サプライチェーン強化:優れた技術を持つサプライヤーの技術開発、事業承継、製造プロセスのデジタル化などを支援します。
- 原子力人材の育成支援:現場技術者の技能向上や事故対応能力強化のための講義・実習などを通じて、産業を支える人材を育成します。
【要求額】国庫債務負担行為要求額 47億円(令和7~9年度)
4. 最終処分を含むバックエンドプロセス加速化事業
原子力の持続的活用に不可欠なバックエンド問題の解決に向けた技術開発を支援します。
- 高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する技術開発
- 低レベル放射性廃棄物の処分に関する技術開発
- 使用済MOX燃料の再処理技術等に係る研究開発
【要求額】53億円(令和7年度)
5. 原子力国際協力事業
IAEA(国際原子力機関)やOECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)への拠出を通じ、国際的な原子力安全の強化や、新規導入国への制度整備支援などを行います。
【要求額】7.7億円(令和7年度)
事業概要一覧表
事業名 | 目的 | 対象者(想定) | R7要求額 |
---|---|---|---|
次世代革新炉の研究開発支援 | 高速炉・高温ガス炉の実証炉開発 | 民間事業者等 | 829億円 |
安全性向上・革新的技術開発 | 既存炉の安全対策高度化、革新技術開発 | 民間事業者、研究機関等 | 33億円 |
原子力産業基盤強化 | サプライチェーン強化、人材育成 | 民間事業者等 | 33億円 |
バックエンドプロセス加速化 | 廃棄物処分・再処理技術の研究開発 | 民間事業者等 | 53億円 |
※要求額は国庫債務負担行為要求額を含まない令和7年度の金額です。
申請に向けた準備と今後の流れ
これらの事業は、令和7年度の予算成立後、春以降に順次公募が開始される見込みです。関心のある事業者は、今から情報収集と準備を進めることが採択への鍵となります。
- ステップ1:情報収集
経済産業省や資源エネルギー庁のウェブサイトを定期的に確認し、公募開始のアナウンスを見逃さないようにしましょう。 - ステップ2:事業計画の策定
自社の技術や強みが、どの事業の目的に合致するかを検討し、具体的で実現可能性の高い事業計画を練り上げます。国のエネルギー政策やGX戦略との整合性を示すことが重要です。 - ステップ3:連携体制の構築
事業内容によっては、大学や他の企業との連携が求められる場合があります。早期にパートナーシップを構築しましょう。 - ステップ4:公募開始・申請
公募が開始されたら、公募要領を熟読し、必要書類を不備なく準備して期間内に申請します。
まとめ
令和7年度の概算要求は、日本のエネルギー政策における原子力の重要性を改めて示すものであり、関連事業者にとっては大きなビジネスチャンスとなります。特に、次世代革新炉開発やサプライチェーン強化といった分野は、今後の成長が期待される領域です。最新の動向を注視し、早期の準備を進めていきましょう。