詳細情報
「離婚後の養育費がきちんと支払われるか不安…」「養育費の取り決めをしたいけど、公正証書の作成費用が高い…」そんな悩みを抱える、ひとり親家庭や離婚を考えている方を支援するための制度があるのをご存知でしょうか。それが「養育費履行確保等支援事業」です。この制度は、養育費の取り決めを法的に有効な形(債務名義)で残すための公正証書作成費用や、万が一支払いが滞った際に保証会社が立て替えてくれる養育費保証契約の初回保証料を、国や自治体が補助してくれる非常に心強い制度です。この記事では、全国の自治体で実施されているこの支援事業について、対象者、補助額、申請方法、注意点などを誰にでも分かりやすく徹底解説します。お子様との未来のために、この制度を賢く活用しましょう。
この記事のポイント
✓ 全国の自治体が実施する「養育費確保支援事業」の全体像がわかる
✓ 公正証書作成や保証契約の費用補助について具体的に理解できる
✓ 補助金の対象者、金額、申請手順が明確になる
✓ 申請で失敗しないためのポイントや注意点がわかる
養育費履行確保等支援事業とは?
制度の目的と背景
養育費は、子どもの健やかな成長に不可欠な生活費や教育費です。しかし、厚生労働省の調査によると、養育費を受け取ったことのない母子世帯は半数以上にのぼり、養育費の不払いは深刻な社会問題となっています。そこで国(こども家庭庁)は、ひとり親家庭の経済的安定を図るため、養育費の継続的な受け取りを支援する施策を推進しています。その中核となるのが「養育費履行確保等支援事業」です。この事業は、各都道府県や市区町村が主体となって実施しており、養育費の取り決めを確実なものにするための費用を補助することで、子どもの利益を守ることを目的としています。
主な支援内容
この事業の支援は、主に以下の2つの柱で構成されています。自治体によっては、これに加えて弁護士への無料法律相談や、未払い養育費の強制執行申立て費用の補助を行っている場合もあります。
- 公正証書等作成支援:養育費の取り決め内容を「公正証書」などの法的な強制力を持つ文書(債務名義)にするための費用(公証人手数料など)を補助します。
- 養育費保証契約支援:養育費の支払いが滞った場合に、保証会社が立て替えてくれる「養育費保証サービス」を利用する際の初回保証料を補助します。
補助金額・補助率について
補助される金額の上限は、お住まいの自治体や支援内容によって異なります。以下に一般的な例をまとめました。
| 支援内容 | 補助上限額の目安 | 備考(自治体による違い) |
|---|---|---|
| 公正証書等作成支援 | 上限 3万円~4万5千円程度 | 千葉県:上限2.3万円、兵庫県:上限3万円、那覇市:上限4.5万円など、自治体により差があります。 |
| 養育費保証契約支援 | 上限 5万円程度 | 多くの自治体で上限5万円に設定されていますが、異なる場合もあります。 |
| 弁護士への法律相談支援 | 無料(30分~1時間程度) | 那覇市など、一部の自治体で実施されています。1事案につき1回限りなどの制限があります。 |
重要:補助はかかった費用の実費に対して行われ、上記の上限額を超えた分は自己負担となります。また、補助率は「対象経費の全額」としている自治体がほとんどです。
対象者・条件
この制度を利用できるのは、以下の条件をすべて満たす方です。ただし、これも自治体によって細かな要件が異なるため、必ず事前にお住まいの自治体にご確認ください。
- お住まいの自治体に住民登録があること:申請先の市区町村や都道府県内に居住していることが必須です。
- ひとり親家庭の親であること:母子家庭の母または父子家庭の父が対象です。自治体によっては、離婚に向けた協議中の方も対象となる場合があります(例:那覇市の法律相談支援)。
- 20歳未満の児童を現に養育していること:養育費の取り決めの対象となるお子様を実際に育てている必要があります。
- 養育費の取り決めに係る経費を負担した者であること:申請者本人が公証人手数料や保証料を支払っていることが条件です。
- 過去に同様の補助金を受けていないこと:同一の児童を対象として、他の自治体を含め、同様の補助金を受けたことがない方に限られます(1回限りの補助)。
- (保証契約支援の場合)債務名義を有していること:保証契約を結ぶ前提として、公正証書や調停調書など、法的に養育費の支払いが確定している文書を持っている必要があります。
- (保証契約支援の場合)1年以上の保証契約を締結していること:保証会社との契約期間が1年以上であることが求められます。
補助対象となる経費
補助の対象となる経費と、ならない経費をしっかり確認しておきましょう。
対象となる経費の例
- 公証人手数料:公正証書を作成する際に公証役場に支払う手数料。
- 家庭裁判所の手数料:調停申立てや裁判に要する収入印紙代。
- 書類取得費用:戸籍謄本や住民票など、申立てに必要な添付書類の取得費用。
- 連絡用の郵便切手代:裁判所とのやり取りに必要な郵便費用。
- 初回保証料:養育費保証会社と1年以上の保証契約を締結する際に支払う初回の保証料。
対象とならない経費の例
- 弁護士や行政書士への相談料や着手金、報酬(無料法律相談を除く)。
- 当事者間のみで作成した合意書や離婚協議書の作成費用。
- 保証契約の更新料や月々の手数料。
- クレジットカードの分割払い手数料。
- 交通費や通信費など。
申請方法・手順
申請は、公正証書の作成や保証契約を締結した後に行う「事後申請」が基本です。一般的な流れは以下の通りです。
Step 1: お住まいの自治体の制度を確認
まず、ご自身の市区町村のウェブサイトで「(自治体名) 養育費 公正証書 補助」などと検索し、制度の有無、補助内容、申請窓口(子育て支援課、こども家庭課など)を確認します。不明な点は電話で問い合わせましょう。
Step 2: 公正証書作成 または 保証契約締結
公証役場や家庭裁判所で養育費に関する債務名義(公正証書、調停調書など)を取得するか、養育費保証会社と1年以上の保証契約を締結します。この際、支払った費用の領収書は必ず保管してください。
Step 3: 必要書類の準備と申請
申請期限(作成・契約日から6ヶ月〜1年以内が一般的)内に、必要書類を揃えて担当窓口に提出します。郵送での受付可否は自治体によります。
主な必要書類リスト
- 補助金交付申請書(自治体の窓口やウェブサイトで入手)
- 申請者本人及び対象児童の戸籍謄本または抄本(ひとり親であることが証明できるもの)
- 世帯全員の住民票の写し
- 対象経費の領収書の原本または写し
- 作成した公正証書、調停調書などの写し
- (保証契約支援の場合)保証会社と締結した保証契約書の写し
- 振込先口座が確認できる通帳やキャッシュカードの写し
- その他、自治体が必要と認める書類(所得証明書など)
Step 4: 審査・交付決定・振込
提出された書類を自治体が審査し、問題がなければ「交付決定通知書」が送付されます。その後、指定した口座に補助金が振り込まれます。審査には1〜2ヶ月程度かかるのが一般的です。
Step 5: 養育費受給状況の報告
自治体によっては、補助金交付から1年後などに、養育費の受給状況に関する報告書の提出を求められる場合があります。(例:那覇市)
採択のポイント・注意点
この事業は、審査で優劣をつける「競争型の助成金」とは異なり、要件を満たしていれば原則として交付される「補助金」です。したがって、不採択となる主な理由は、書類の不備や申請期限切れ、対象外の経費申請など、手続き上のミスです。以下のポイントを押さえて、確実に補助を受けましょう。
- 申請期限を厳守する:「公正証書作成日」や「保証契約締結日」の翌日から起算して6ヶ月や1年など、期限は明確に定められています。過ぎてしまうと一切受け付けてもらえません。
- 領収書を必ず保管する:支払いを証明する最も重要な書類です。宛名が申請者本人になっているか、但し書きが具体的かなども確認しましょう。
- 制度の対象期間を確認する:「令和6年4月1日以降に作成・締結したもの」など、補助対象となる期間が定められている場合があります。
- 事前に窓口に相談する:少しでも不明な点があれば、申請前に必ず自治体の担当窓口に電話などで相談しましょう。必要書類や手続きの流れを丁寧に教えてくれます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 離婚前でも申請できますか?
A1. 補助金の申請自体は離婚成立後(ひとり親になってから)が基本ですが、自治体によっては離婚協議中の方を対象とした「弁護士への無料法律相談」などを実施している場合があります。まずはお住まいの自治体の制度をご確認ください。
Q2. 弁護士に依頼した費用は対象になりますか?
A2. 弁護士への相談料や着手金、成功報酬などは、原則として補助の対象外です。ただし、前述の通り、自治体が提供する無料法律相談を利用できる場合があります。
Q3. どこに申請すればいいですか?
A3. お住まいの市区町村役場の「子育て支援課」「こども家庭課」「福祉課」といった、ひとり親支援を担当する部署が窓口となります。都道府県が実施主体の場合は、管轄の健康福祉センター(保健所)などが窓口になることもあります。
Q4. 収入による制限はありますか?
A4. 多くの自治体では、この事業に所得制限を設けていません。ただし、児童扶養手当など他の制度と連動している場合も考えられるため、念のためお住まいの自治体にご確認ください。
Q5. 養育費保証会社はどこを選んでもいいですか?
A5. はい、特定の会社が指定されていることは通常ありません。ご自身で複数の保証会社を比較検討し、サービス内容や料金に納得できる会社と契約してください。ただし、契約期間が1年以上であることが補助の条件です。
まとめ:まずは自治体への確認から始めよう
養育費の取り決めを法的に有効な形で残し、万が一の不払いに備えることは、お子様の未来を守るために非常に重要です。「養育費履行確保等支援事業」は、そのための経済的負担を大きく軽減してくれる、ひとり親家庭の強い味方です。
この記事を読んで少しでも興味を持たれた方は、ぜひ今日にでも、お住まいの自治体のウェブサイトをチェックするか、担当窓口に電話で問い合わせてみてください。確実な養育費確保への第一歩を踏み出すために、この制度を最大限に活用しましょう。
次のアクション
1. 「(お住まいの市区町村名) 養育費 補助金」で検索する。
2. 自治体の担当窓口(子育て支援課など)に電話で制度の詳細を確認する。
3. 必要に応じて、公証役場や養育費保証会社に相談する。