詳細情報
妊娠はするものの、流産や死産を繰り返してしまう「不育症」。その辛さに加え、原因を特定するための検査には高額な費用がかかることもあり、経済的な負担が大きな壁となることがあります。特に、保険適用外の「先進医療」は、有効な選択肢でありながら、費用面でためらってしまう方も少なくありません。この記事では、そうした経済的負担を軽減するために国と自治体が実施している「不育症検査費用助成事業」について、制度の概要から対象者、申請方法、必要書類まで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。この制度を活用し、安心して適切な検査を受け、希望への一歩を踏み出すための情報を全てお届けします。
不育症検査費用助成事業とは?
「不育症検査費用助成事業」は、不育症の原因究明に繋がる特定の検査について、費用の一部を国と自治体が助成する制度です。ここでは、制度の目的や対象者について詳しく見ていきましょう。
制度の目的と背景
この事業は、こども家庭庁が主導し、各都道府県・指定都市・中核市が実施主体となって運営されています。主な目的は、現在まだ研究段階にある不育症検査のうち、将来的な保険適用を見据えて「先進医療」として実施されるものの費用負担を軽減することです。これにより、経済的な理由で必要な検査を諦めることなく、適切な治療方針の決定や、次の妊娠・出産に繋げることを目指しています。
助成の対象となるのは誰?
助成を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。基本的な対象者は以下の通りですが、詳細はお住まいの自治体の規定を必ずご確認ください。
- 2回以上の流産や死産の既往がある方、または医師に不育症と診断された方
- 助成対象となる先進医療の不育症検査を受ける方
- 検査日および申請日において、事業を実施している自治体(都道府県・指定都市・中核市)に住民登録がある方
ポイント:この先進医療に関する助成事業では、多くの自治体で年齢や所得の制限は設けられていません。ただし、東京都のように先進医療以外の検査も助成対象としている自治体では、別途年齢要件(例:妻の年齢が43歳未満)が定められている場合があります。
具体的な助成内容(金額・対象経費)
実際にどれくらいの金額が助成され、どの検査が対象になるのか、具体的な内容を詳しく解説します。
助成金額と補助率
助成金額と補助率は、多くの自治体で国の方針に準じており、以下のようになっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成上限額 | 6万円 |
| 補助率 | 対象検査にかかった費用の7割 |
| 計算方法 | 検査費用 × 0.7 (1,000円未満は切り捨て) |
| 助成回数 | 回数制限なし(自治体による場合あり) |
【計算例】
検査費用が10万円だった場合:
100,000円 × 0.7 = 70,000円
上限額が6万円のため、助成額は60,000円となります。
検査費用が8万円だった場合:
80,000円 × 0.7 = 56,000円
千円未満切り捨ての規定がない場合、助成額は56,000円となります。(※計算方法は自治体にご確認ください)
対象となる検査(補助対象経費)
助成の対象となるのは、厚生労働省が先進医療として告示している以下の検査です。(2025年8月時点)
- 流死産検体を用いた遺伝子検査
(次世代シーケンサーを用いた流死産絨毛・胎児組織染色体検査) - 抗ネオセルフβ2グリコプロテインI複合体抗体検査
(令和7年6月1日より適用)
重要:これらの検査は、どの医療機関で受けても対象になるわけではありません。厚生労働省に先進医療の実施機関として届出・承認された保険医療機関で受けたもののみが対象です。受診前に必ず厚生労働省のウェブサイトで実施医療機関を確認してください。
対象外となる費用
以下の費用は助成の対象外となりますのでご注意ください。
- 初診料や再診料などの診察料
- 入院した場合の差額ベッド代、食事代など
- 申請に必要な書類の文書作成料
- 検査に直接関係のない費用
申請方法と流れを4ステップで解説
助成金の申請は、正しい手順を踏むことが重要です。ここでは、一般的な申請の流れを4つのステップに分けて解説します。
Step 1: 対象医療機関の確認と検査の実施
まず、厚生労働省のウェブサイトで「先進医療を実施している医療機関の一覧」を確認し、対象となる医療機関で医師に相談の上、検査を受けます。検査費用は一度、全額自己負担で支払います。
Step 2: 必要書類の準備
検査終了後、申請に必要な書類を揃えます。自治体によって若干異なりますが、主に以下の書類が必要です。
- 申請書:自治体のウェブサイトからダウンロードします。
- 受検証明書:検査を受けた医療機関に記入を依頼します。(文書作成料がかかる場合があります)
- 医療機関発行の領収書・明細書:原本またはコピー。自治体の指示に従ってください。
- 住民票の写し:発行から3ヶ月以内など有効期限があります。夫婦それぞれの記載が必要な場合もあります。
- 戸籍謄本:婚姻関係の証明に必要となる場合があります。
- 振込先口座の通帳またはキャッシュカードのコピー:申請者名義の口座が必要です。
Step 3: 申請期限内に提出
ここが最も注意すべき点です。申請期限は自治体によって大きく異なります。
| 自治体例 | 申請期限 |
|---|---|
| 東京都 | 検査終了日から6か月以内 |
| 神奈川県 | 検査費用を支払った日から60日以内(郵送必着) |
| 松山市 | 検査を受けた日の属する年度内(3月末日まで) |
提出方法は、東京都のように電子申請が原則の自治体もあれば、郵送のみの自治体もあります。期限を1日でも過ぎると受理されないことがほとんどですので、計画的に準備を進めましょう。
Step 4: 審査と助成金の振込
申請書類を提出後、自治体で審査が行われます。書類に不備がなければ、後日「承認決定通知書」などが届き、指定した口座に助成金が振り込まれます。申請から振込までは、概ね3〜4ヶ月程度かかることが多いようです。
申請を成功させるためのポイントと注意点
最重要ポイント:まずはお住まいの自治体の制度を確認!
この助成事業の申請窓口は、国ではなく、お住まいの都道府県・指定都市・中核市です。例えば、神奈川県にお住まいでも、横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市の方は、それぞれの市の窓口に申請します。大阪府の場合も、大阪市や堺市など政令・中核市にお住まいの方は市の制度を利用します。必ずご自身の住民票がある自治体の担当課(母子保健担当など)のウェブサイトを確認するか、電話で問い合わせましょう。
書類の不備に注意
申請が受理されない理由の多くは、書類の不備です。医療機関に記入してもらう「受検証明書」の内容に漏れがないか、住民票は要件(発行日、記載内容)を満たしているかなど、提出前に何度も確認しましょう。不明な点は、提出前に自治体の担当者に電話で確認するのが確実です。
よくある質問(FAQ)
Q1. どの病院で検査を受ければ対象になりますか?
A1. 厚生労働省が先進医療の実施機関として承認・届出を受理した医療機関のみが対象です。受診を検討している医療機関が対象かどうか、事前に厚生労働省のウェブサイトで必ずご確認ください。
Q2. 治療費は対象になりますか?
A2. いいえ、この制度はあくまで「検査費用」に対する助成です。不育症の治療にかかる費用は対象外となります。
Q3. 過去に受けた検査も対象になりますか?
A3. 各検査が先進医療として告示された日以降に受けたものが対象です。例えば「流死産検体を用いた遺伝子検査」は令和4年12月1日以降に実施したものが対象となります。自治体によっては事業開始日も関係しますので、詳細は申請先の自治体にご確認ください。
Q4. 助成は何回でも受けられますか?
A4. 先進医療に関する助成は、回数制限を設けていない自治体が多いです(例:松山市)。ただし、自治体独自の制度(例:東京都の通常検査助成は夫婦1組につき1回)では回数制限がある場合もありますので、必ずご確認ください。
Q5. 夫と妻で住んでいる自治体が違う場合はどうなりますか?
A5. 自治体によって対応が異なります。例えば東京都では、夫婦いずれかが都内に住民登録をしていれば対象となり、申請者は都内在住の方に限られます。申請先の自治体の要件をご確認ください。
まとめ:一人で悩まず、まずは相談を
不育症検査費用助成事業は、高額になりがちな先進医療の経済的負担を大きく軽減してくれる、非常に心強い制度です。最後に、この制度の重要ポイントを再確認しましょう。
- 対象は先進医療として告示された特定の不育症検査
- 1回の検査につき上限6万円まで、費用の7割を助成
- 申請先は国ではなく、お住まいの都道府県・指定都市・中核市
- 申請期限は自治体ごとに大きく異なるため、最優先で確認が必要
経済的な不安が、原因究明への一歩を妨げるべきではありません。この制度を上手に活用し、安心して検査に臨んでください。また、不育症に関する悩みは、専門の相談窓口で話すことで心が軽くなることもあります。各自治体では「不妊・不育ホットライン」などの相談窓口を設けていますので、制度のことで分からない点や、お気持ちの面で不安なことがあれば、一人で抱え込まずにぜひ相談してみてください。