「突然の離職で来月の家賃が払えない…」「コロナ禍の影響で収入が激減してしまった…」そんな住まいの不安を抱えていませんか?

そんな時に頼りになるのが、国の「住居確保給付金」制度です。この制度は、離職や休業などで経済的に困窮し、住居を失うおそれのある方に対して、市区町村が家賃相当額を支給してくれる非常に心強いセーフティネットです。この記事では、住居確保給付金の対象者、支給額、申請方法から注意点まで、専門家がどこよりも分かりやすく徹底解説します。あなたの生活再建の第一歩を、この記事がサポートします。

① 住居確保給付金の概要

まずは、住居確保給付金がどのような制度なのか、全体像を掴みましょう。

正式名称と根拠法

この制度の正式名称は「住居確保給付金」です。生活困窮者自立支援法に基づき、国と自治体が連携して実施しています。単なる一時的な給付ではなく、安定した住まいを確保しながら、就職活動に専念し、経済的な自立を目指すことを目的とした総合的な支援制度です。

実施組織

制度の所管は厚生労働省ですが、実際の申請受付や相談、支給決定は、お住まいの市区町村が設置する「自立相談支援機関」が窓口となります。そのため、具体的な手続きや支給額の上限は、自治体によって若干異なる場合があります。

制度の目的と背景

この制度の最大の目的は、「住まいの喪失を防ぎ、生活の土台を安定させること」です。家を失うと、就職活動が困難になるだけでなく、心身の健康にも大きな影響を及ぼします。住居確保給付金は、家賃の不安を解消することで、受給者が安心して次のステップ(就職活動や事業の立て直し)に進めるよう支援することを目的としています。

ポイント:給付金は、あなたに直接現金で支払われるのではなく、自治体から大家さんや不動産管理会社の口座へ直接振り込まれます。これにより、確実に家賃の支払いに充てられる仕組みになっています。

② 支給額・支給期間・補助率

最も気になるのが「いくら、どのくらいの期間もらえるのか」という点でしょう。ここでは支給額と期間について詳しく解説します。

支給期間

支給期間は原則3か月間です。ただし、誠実な求職活動を続けているなど、一定の要件を満たす場合は、申請により2回まで延長が可能で、最長で9か月間受給することができます。

支給額の上限(自治体による違い)

支給される家賃額には、お住まいの市区町村や世帯の人数に応じて上限が定められています。この上限額は、生活保護制度の「住宅扶助基準額」に準じています。以下に主要都市の例を挙げます。

世帯人数 東京都特別区(23区) 大阪市 仙台市
単身世帯 53,700円 40,000円 37,000円
2人世帯 64,000円 48,000円 44,000円
3人世帯 69,800円 52,000円 48,000円

※上記はあくまで一例です。正確な金額は必ずお住まいの自治体にご確認ください。

支給額の計算方法

支給額は、世帯の収入額によって変動します。計算方法は以下の2パターンです。

  • パターン1:世帯収入が「基準額」以下の場合
    実際の家賃額が支給されます(ただし、上記の上限額まで)。
  • パターン2:世帯収入が「基準額」を超える場合
    以下の計算式で算出された額が支給されます。
    支給額 = 基準額 + 実際の家賃額 - 世帯の月収

【計算例】大阪市の単身世帯の場合
・基準額:84,000円
・家賃:55,000円(上限40,000円)
・世帯月収:100,000円

この場合、世帯月収が基準額を超えているため、パターン2の計算式を適用します。
支給額 = 84,000円 + 55,000円 – 100,000円 = 39,000円
この39,000円は家賃上限額の40,000円を下回るため、39,000円が支給されます。

③ 対象者・条件

住居確保給付金を受給するには、いくつかの要件をすべて満たす必要があります。ここでは、主な4つの要件について解説します。

1. 離職・収入減少の状況

以下のいずれかに該当する必要があります。

  • 離職・廃業後2年以内であること。
  • 個人の責任や都合によらず、給与等を得る機会が離職・廃業と同程度まで減少していること。(例:フリーランスで仕事が激減した、アルバイトのシフトを大幅に減らされたなど)

2. 収入要件

申請月の世帯収入合計額が「基準額 + 家賃額(上限あり)」以下であることが必要です。基準額は市区町村民税の均等割が非課税となる額の1/12で、自治体や世帯人数により異なります。

世帯人数 基準額(月額)の目安 収入要件の上限額(例:大阪市)
単身世帯 84,000円 124,000円
2人世帯 130,000円 178,000円
3人世帯 172,000円 224,000円

※収入には給与のほか、失業手当、年金、仕送りなども含まれます。児童手当などは含まれません。

3. 資産要件

申請日時点での世帯全員の預貯金合計額が、以下の基準額を超えていないことが必要です。

世帯人数 資産上限額
単身世帯 504,000円
2人世帯 780,000円
3人以上世帯 1,000,000円

※資産には現金、預貯金のほか、株式、投資信託なども含まれます。生命保険や個人年金は含まれません。

4. 求職活動等要件

受給期間中は、誠実かつ熱心に常用就職(正社員など安定した雇用)を目指した求職活動を行うことが義務付けられています。具体的には以下の活動が必要です。

  • ハローワークへの求職申込
  • 自立相談支援機関との面談(月4回以上)
  • ハローワークでの職業相談(月2回以上)
  • 企業等への応募・面接(週1回以上)

※自営業者の方は、事業再生のための活動(経営相談など)をもって求職活動に代えることができる場合があります。

④ 補助対象経費

この給付金でカバーできる費用とできない費用を正確に理解しておくことが重要です。

対象となる経費

  • 賃貸住宅の家賃

対象とならない経費

  • 管理費、共益費
  • 光熱水費、通信費
  • 駐車場代、駐輪場代
  • 火災保険料、更新料
  • 敷金、礼金などの初期費用
  • 滞納している家賃への充当
  • 持ち家の住宅ローン

転居費用補助について
一部の自治体では、家賃補助とは別に、より家賃の安い住居への転居費用(敷金・礼金などを除く初期費用や運搬費)を補助する制度もあります。家計改善のために転居が必要と判断された場合などが対象となります。詳しくは、お住まいの自治体にご確認ください。

⑤ 申請方法・手順

申請は以下のステップで進みます。事前に流れを把握しておきましょう。

Step 1: 相談窓口の確認と事前連絡
まず、お住まいの市区町村のウェブサイトで「自立相談支援機関」の場所と連絡先を確認します。混雑緩和のため、訪問前に電話やメールで事前連絡をすることが推奨されています。

Step 2: 必要書類の準備
申請には多くの書類が必要です。事前にしっかり準備することで、手続きがスムーズに進みます。

必要書類リスト

  • 住居確保給付金支給申請書(窓口で入手またはHPからダウンロード)
  • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 離職・廃業後2年以内であることが確認できる書類(離職票など)
  • 収入が減少したことがわかる書類(給与明細、シフト表など)
  • 世帯全員の収入が確認できる書類(直近の給与明細、年金通知書など)
  • 世帯全員の金融資産が確認できる書類(すべての預貯金通帳の写しなど)
  • ハローワークの求職申込がわかる書類(求職受付票など)
  • 賃貸借契約書の写し
  • 入居住宅に関する状況通知書(大家さんや管理会社に記入を依頼)

Step 3: 窓口での申請
準備した書類を持参し、自立相談支援機関の窓口で申請手続きを行います。担当の相談員が書類を確認し、今後の求職活動などについて説明してくれます。

Step 4: 審査・支給決定
提出された書類に基づき、自治体が審査を行います。審査には数週間から1か月程度かかる場合があります。支給が決定されると「支給決定通知書」が届きます。

Step 5: 支給開始
決定後、自治体から直接、大家さんや管理会社の口座へ家賃が振り込まれます。

⑥ 審査のポイントと注意点

この制度は、要件を満たしていれば基本的に支給されるものですが、いくつか注意すべき点があります。

審査で重視される点

  • 書類の正確性と完全性:収入や資産の申告は正確に行い、すべての通帳の写しを提出するなど、隠さず正直に申告することが最も重要です。
  • 求職活動への意欲:受給はゴールではなく、自立へのスタートです。常用就職に向けた真摯な姿勢が求められます。

よくある不支給・支給中止の理由

  • 収入や資産が基準額をわずかに超えていた。
  • 必要書類が期日までに提出されなかった。
  • 受給中に求職活動の報告を怠った。
  • 常用就職が決まったが、報告を怠った(収入によっては支給中止となります)。
  • 虚偽の申請が発覚した(不正受給となり、返還義務が生じます)。

⑦ よくある質問(FAQ)

Q1. 持ち家で住宅ローンを払っていますが、対象になりますか?

A1. いいえ、対象外です。住居確保給付金は賃貸住宅にお住まいの方が対象です。住宅ローンについては、金融機関や専門の相談窓口にご相談ください。

Q2. フリーランスや自営業でも申請できますか?

A2. はい、可能です。「ご自身の都合によらない就業機会等の減少」により、収入が離職・廃業と同程度まで減少している場合に申請できます。

Q3. 受給中にアルバイトをしてもいいですか?

A3. はい、問題ありません。ただし、得た収入は毎月申告する義務があります。収入額によっては給付金が減額されたり、支給停止になったりする場合があります。

Q4. 過去に受給しましたが、再度申請できますか?

A4. はい、再支給の制度があります。前回の受給終了から一定期間が経過し、新たに解雇されるなど一定の要件を満たす場合に申請が可能です。詳しくは窓口でご相談ください。

Q5. 生活保護との違いは何ですか?

A5. 住居確保給付金は「家賃」に限定した支援であり、就労による自立を目的としています。一方、生活保護は衣食住など生活全般を最低限度保障する制度です。住居確保給付金を受給しても生活が困難な場合は、生活保護の相談も視野に入れることになります。

⑧ まとめと次のアクション

この記事では、離職や収入減に直面した際の強力な味方となる「住居確保給付金」について解説しました。最後に重要なポイントをまとめます。

  • 離職・廃業後2年以内、または収入が激減した方が対象の家賃補助制度
  • 支給額は自治体や世帯人数、収入によって変動し、原則3か月(最大9か月)支給。
  • 収入要件資産要件の両方をクリアする必要がある。
  • 受給中はハローワーク等での求職活動が義務付けられる。
  • 申請窓口はお住まいの市区町村の自立相談支援機関

【次に行うべきこと】
もしあなたが「自分も対象かもしれない」と感じたら、一人で悩まず、まずはお住まいの市区町村の「自立相談支援機関」に電話で相談してみてください。「住居確保給付金のことで相談したい」と伝えれば、専門の相談員が丁寧に対応してくれます。生活の立て直しは、早めの行動が鍵となります。この制度を活用し、安心して次のステップへ進みましょう。