「一人で外出するのが不安」「もっと気軽に買い物やイベントに出かけたい」そんなお悩みをお持ちの障害のある方やそのご家族をサポートするのが「移動支援事業」です。この制度は、障害者総合支援法に基づき、市区町村が実施する地域生活支援事業の一つで、屋外での移動が困難な方の社会参加や地域での自立した生活を力強く後押しします。ヘルパーが外出に同行し、移動の介助や必要なサポートを行うことで、これまで諦めていた場所へも足を運べるようになります。この記事では、移動支援事業の詳しいサービス内容、対象となる方、利用料金の仕組み、そして申請からサービス開始までの流れを、誰にでも分かりやすく徹底的に解説します。あなたらしい生活を実現するための一歩として、ぜひこの制度をご活用ください。

この記事のポイント

  • 移動支援事業の目的とサービス内容がわかる
  • 対象者の具体的な条件がわかる
  • 所得に応じた利用者負担の仕組みがわかる
  • 申請から利用開始までの具体的なステップがわかる
  • 利用できる外出と、対象外になる外出の違いがわかる

移動支援事業の概要

移動支援事業は、屋外での移動に困難がある障害者(児)に対して、ガイドヘルパーを派遣し、外出の支援を行うサービスです。単なる移動の付き添いだけでなく、外出先でのコミュニケーション支援や身の回りの介護なども含みます。これにより、利用者の社会参加を促進し、生活圏の拡大を図ることを目的としています。

制度の基本情報

項目 内容
正式名称 移動支援事業(地域生活支援事業)
根拠法 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)
実施組織 各市区町村
目的・背景 屋外での移動が困難な障害者(児)の外出を支援し、地域での自立生活及び社会参加を促すこと。

利用者負担額(利用料金)について

移動支援事業の利用料金は、サービスにかかった費用の原則1割を利用者が負担します。ただし、家計への負担が重くなりすぎないよう、世帯の所得(住民税の課税状況)に応じて、月ごとにお支払いいただく利用者負担額に上限が設けられています。

重要:具体的な負担上限月額や計算方法は、お住まいの市区町村によって異なります。必ず事前に自治体の障害福祉担当窓口にご確認ください。

利用者負担上限月額の例

以下は、一般的な利用者負担の上限額の区分です。

世帯の所得区分 負担上限月額
生活保護受給世帯 0円
市町村民税非課税世帯 0円
市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) 4,600円 ~ 9,300円程度
上記以外(所得割16万円以上) 37,200円

※「世帯」の範囲は、18歳以上の障害者の場合は本人とその配偶者、18歳未満の障害児の場合は保護者の属する住民基本台帳での世帯となります。
※ヘルパーの交通費や外出先での施設入場料などは、別途実費負担となります。

対象者・条件

移動支援事業の対象となるのは、屋外での移動に著しい制限のある障害者(児)です。具体的な対象者の範囲は市区町村によって定められていますが、一般的には以下のような方が該当します。

  • 視覚障害者(児):同行援護の対象とならない方を含む。
  • 知的障害者(児):療育手帳をお持ちの方など。
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳をお持ちで、一人での外出が困難な方。
  • 全身性障害者(児):身体障害者手帳1級で、両上下肢に機能障害のある方など。
  • 高次脳機能障害者
  • 難病患者等
  • 特別支援学校・学級に通う児童生徒(通学支援として利用できる場合がある)

※重度訪問介護、行動援護、同行援護といった他の障害福祉サービスを受給している場合、移動支援の対象とならないことがあります。どのサービスが適切か、窓口で相談しましょう。

対象となるサービス(外出の目的)

移動支援は、様々な目的の外出に利用できますが、一部対象外となるものもあります。利用できる範囲をしっかり確認しておきましょう。

利用できる外出の例

  • 社会生活上必要不可欠な外出:行政機関や金融機関での手続き、生活必需品の買い物、公的行事への参加、冠婚葬祭など。
  • 余暇活動など社会参加のための外出:映画鑑賞、コンサート、スポーツ観戦、外食、レクリエーション、地域のイベント参加など。
  • 通学:保護者の疾病など、やむを得ない事情がある場合に、特別支援学校などへの通学支援として利用できる場合があります(自治体による)。

対象外となる外出の例

  • 通年かつ長期にわたる外出:通勤、障害福祉サービス事業所などへの通所、定期的な習い事など。
  • 通院:通院の介助は、原則として「居宅介護(通院等介助)」のサービスを利用します。
  • 経済活動:営業活動など。
  • その他:政治活動、宗教の布教活動、公序良俗に反する外出、長時間の宿泊を伴う外出など。

申請方法・手順

移動支援サービスを利用するためには、お住まいの市区町村への申請が必要です。以下に一般的な利用開始までの流れを解説します。

ステップ1:相談
まず、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、地域の相談支援事業者に相談します。どのような外出に利用したいか、どのくらいの頻度で利用したいかなどを伝えましょう。

ステップ2:利用申請
窓口で申請書類を受け取り、必要事項を記入して提出します。申請時には、障害者手帳や本人確認書類などが必要になります。

ステップ3:聞き取り調査(アセスメント)
市区町村の担当者が、ご本人やご家族から心身の状況や生活環境、サービスの利用希望などについて聞き取り調査を行います。

ステップ4:支給決定・受給者証の交付
調査結果を基に審査が行われ、サービスの支給が決定されると、利用できる時間数などが記載された「受給者証」が交付されます。

ステップ5:サービス提供事業者との契約
市区町村から提供される事業者一覧を参考に、利用したいサービス提供事業者を選び、直接連絡して利用契約を結びます。

ステップ6:サービス利用開始
事業者と具体的な支援内容やスケジュールを調整し、サービスの利用を開始します。

主な必要書類

  • 地域生活支援事業支給申請書
  • 障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳など)
  • 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
  • 印鑑
  • 世帯の所得状況がわかる書類(課税証明書など)
  • その他、市区町村が必要と認める書類(通学利用の場合は在学証明書や保護者の就労証明書など)

スムーズに利用を開始するためのポイント

移動支援を円滑に利用するためには、いくつかのポイントがあります。申請前に確認しておきましょう。

  • 利用目的を具体的に伝える:「買い物をしたい」「友人と映画に行きたい」など、どのような目的で、月に何時間くらい利用したいのかを具体的に伝えることで、適切な支給量を決定しやすくなります。
  • 相談支援専門員を活用する:自分に合ったサービスが分からない場合や、事業者選びに迷った場合は、相談支援事業所の相談支援専門員に相談するのがおすすめです。サービス等利用計画の作成も手伝ってもらえます。
  • 事業者を事前にリサーチする:市区町村のウェブサイトなどで、利用可能なサービス提供事業者の一覧が公開されています。事前にどのような事業所があるか調べておくと、契約がスムーズに進みます。
  • 書類は不備なく準備する:申請に必要な書類を事前に確認し、漏れなく準備することで、手続きの時間を短縮できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. ヘルパーさんの交通費や施設利用料はどうなりますか?
A1. ヘルパー(移動支援従事者)が移動にかかる交通費や、外出先で利用する施設の入場料などは、原則として利用者負担となります。サービス利用料金とは別に実費が必要です。

Q2. 通院には本当に使えないのですか?
A2. はい、原則として通院目的での利用はできません。通院時の介助が必要な場合は、障害福祉サービスの「居宅介護(通院等介助)」という別のサービスを利用することになります。どちらのサービスが適切か、窓口でご相談ください。

Q3. 毎週決まった曜日の習い事に利用できますか?
A3. 通勤や通所と同様に、通年または長期にわたる定期的な外出(習い事など)は、原則として対象外としている自治体が多いです。ただし、自治体の判断による場合もあるため、一度ご相談ください。

Q4. 申請してから利用開始までどのくらいかかりますか?
A4. 自治体や申請時期によって異なりますが、一般的には申請から受給者証が交付されるまで1ヶ月程度かかることが多いです。利用したい時期が決まっている場合は、早めに申請手続きを始めましょう。

Q5. 家族が運転する車にヘルパーが同乗することはできますか?
A5. これは自治体や事業者の判断によります。移動支援は原則として公共交通機関や徒歩での移動を想定していますが、自家用車への同乗を認めている場合もあります。利用したい事業者や市区町村に事前に確認が必要です。

まとめ・行動喚起

移動支援事業は、障害のある方が地域で安心して、そして自分らしく生活するための非常に重要なサービスです。社会生活上必要な手続きから、日々の楽しみである余暇活動まで、幅広い外出をサポートしてくれます。

この記事で解説した内容は一般的なものであり、対象者の詳細な要件や利用者負担額、利用できる時間数などは、お住まいの市区町村によって異なります。

この制度に少しでも興味を持たれた方は、第一歩として、ぜひお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へ「移動支援事業について聞きたい」と連絡してみてください。専門の職員が、あなたの状況に合わせたアドバイスをしてくれるはずです。この制度を活用し、あなたの世界をさらに広げていきましょう。