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「子どもの聞こえが少し心配…」「お医者さんから補聴器を勧められたけど、費用が…」そんなお悩みをお持ちの保護者の方へ。身体障害者手帳の交付対象にはならない軽度・中等度の難聴のお子様でも、補聴器の購入費用をサポートしてくれる「難聴児補聴器購入費助成事業」という制度があるのをご存知でしょうか?この制度は、お子様の言葉の発達やコミュニケーション能力の向上を目的として、多くの自治体で実施されています。しかし、制度の存在自体を知らなかったり、申請方法が複雑そうで諦めてしまったりする方も少なくありません。この記事では、そんな保護者の皆様のために、難聴児補聴器購入費助成金の対象者、助成金額、申請の具体的なステップ、そして申請をスムーズに進めるためのポイントまで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。お子様の未来の可能性を広げるための第一歩を、この記事と一緒に踏み出しましょう。
この記事のポイント
- 身体障害者手帳がなくても申請できる子供向け補聴器助成金の全貌がわかる
- 対象となる条件や、もらえる金額の計算方法が具体的に理解できる
- 申請から補聴器受け取りまでの流れをステップ・バイ・ステップで学べる
- 申請前に必ず知っておくべき注意点や、よくある質問への回答が得られる
① 難聴児補聴器購入費助成事業とは?
制度の目的と概要
「難聴児補聴器購入費助成事業」は、身体障害者手帳の交付対象とならない、比較的軽度から中等度の難聴があるお子様(原則18歳未満)を対象とした制度です。補聴器を早期に装用することで、言語の習得やコミュニケーション能力の向上をサポートし、健全な発達を支援することを目的としています。
この制度の最大のポイントは、障害者総合支援法に基づく「補装具費支給制度」の対象とならないお子様を救済する点にあります。聴力レベルが一定の基準(例:70デシベル以上)に達しないと身体障害者手帳は交付されませんが、それ以下の聴力レベルでも、日常生活や学習において聞こえの支援が必要なお子様はたくさんいます。この制度は、そうした「制度の谷間」に置かれがちなお子様とご家庭にとって、非常に重要な支援策となっています。
実施主体はどこ?
この事業の実施主体は、基本的にお住まいの市区町村です。都道府県が事業の骨子を定め、それに基づいて各市区町村が独自の要綱を設けて運営しているケースが多く見られます。そのため、助成内容や所得制限の有無、申請手続きの細かなルールは自治体によって異なります。まずはお住まいの市区町村の「障がい福祉課」や「こども福祉課」といった担当窓口に問い合わせることが第一歩となります。
② 助成金額と自己負担はいくら?
自己負担は原則3分の1
多くの自治体では、国が定める基準額を基に、購入費用の3分の2を助成し、自己負担は3分の1となるケースが一般的です。ただし、生活保護世帯や市町村民税非課税世帯の場合は、自己負担が免除(0円)となることもあります。
計算方法は以下のようになります。
- 「自治体が定める基準額」と「実際に購入する補聴器の価格」を比較し、低い方の金額を計算の基礎とします。
- その金額の3分の2が助成額となります。(100円未満切り捨てなどの処理は自治体によります)
【計算例】耳かけ型補聴器を購入する場合
基準額が55,900円、実際の購入価格が60,000円だったとします。
この場合、低い方の金額である55,900円を基に計算します。
助成額:55,900円 × 2/3 = 37,266円
自己負担額:55,900円 – 37,266円 = 18,634円
さらに、実際の購入価格との差額(60,000円 – 55,900円 = 4,100円)も自己負担となるため、
最終的な自己負担額の合計は 18,634円 + 4,100円 = 22,734円 となります。
補聴器の種類別・基準額一覧(例)
助成額の計算の基となる「基準額」は、補聴器の種類や性能によって細かく定められています。以下は、岩手県の例を参考にした基準額の一覧です。多くの自治体で同様の基準が採用されていますので、目安としてご覧ください。
| 補聴器の種別 | 1台あたりの基準価格(税込) | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 軽度・中等度難聴用ポケット型 | 53,500円 | 原則5年 |
| 軽度・中等度難聴用耳かけ型 | 55,900円 | |
| 高度難聴用ポケット型 | 53,500円 | |
| 高度難聴用耳かけ型 | 55,900円 | |
| 重度難聴用ポケット型 | 68,500円 | |
| 重度難聴用耳かけ型 | 80,700円 | |
| 耳あな型(レディメイド) | 101,500円 | |
| 耳あな型(オーダーメイド) | 144,900円 | |
| 骨導式ポケット型 | 74,100円 | |
| 骨導式眼鏡型 | 134,500円 |
※イヤーモールド(耳の型に合わせて作る耳栓)が必要な場合は、基準額に含まれていることが多いです。
※耐用年数は原則5年とされており、この期間を過ぎないと新しい補聴器への助成は受けられない場合があります。
③ 対象者と詳しい条件
助成を受けるためには、いくつかの条件をすべて満たす必要があります。自治体によって細かな違いはありますが、概ね以下の要件が定められています。
- 年齢:18歳未満であること。(自治体によっては「18歳に達する日以降の最初の3月31日まで」など、高校卒業までを対象とする場合もあります)
- 居住地:申請先の市区町村に住所を有していること。
- 聴力レベル:両耳の聴力レベルが概ね30デシベル以上で、身体障害者手帳の交付対象とならないこと。一般的に70デシベル未満が目安ですが、泉大津市のように「30dB以上60dB未満」と明確に規定している場合もあります。30dB未満でも医師が必要と判断すれば対象となる自治体もあります。
- 医師の判断:指定医(耳鼻咽喉科)の診察により、補聴器の装用が言語の習得等に有効であると認められること。
- 所得制限:世帯の所得に制限が設けられている場合があります。例えば「世帯員のうち市町村民税所得割額が46万円以上の者がいないこと」といった基準です。ただし、高槻市のように近年、所得制限を撤廃する自治体も増えています。
【具体例】こんなお子様が対象になる可能性があります
・高槻市在住のAちゃん(5歳)。幼稚園の健康診断で聞こえを指摘され、耳鼻科を受診。聴力検査の結果、両耳とも45デシベルの中等度難聴と診断された。身体障害者手帳の対象ではないが、医師から「言葉の発達のために補聴器の装用が望ましい」との意見書をもらった。世帯の所得制限もないため、助成の対象となる可能性が高い。
④ 補助の対象となる経費
この制度で補助の対象となるのは、主に以下の費用です。
- 新規の補聴器購入費用:ポケット型、耳かけ型、耳あな型、骨導式など、医師が必要と認めた種類の補聴器本体の購入費用です。
- 付属品の費用:イヤーモールドなど、補聴器の使用に不可欠な付属品の費用も含まれることがほとんどです。ただし、電池などの消耗品のみの購入は対象外です。
- 修理・交換費用:耐用年数内での故障などによる修理費用も助成対象となる場合があります(例:泉大津市)。
- 検査料:意見書を作成するために必要な検査料を、上限付き(例:5,000円)で助成する自治体もあります。
一方で、意見書の文書作成料や、基準額を超えた分の費用、助成決定前に購入した補聴器の費用などは対象外となりますので注意が必要です。
⑤ 申請方法と全体の流れ
申請手続きは、以下のステップで進めるのが一般的です。順番を間違えると助成が受けられなくなる可能性があるため、必ず確認してください。
【最重要】購入前の相談・申請が絶対条件です!
この制度は、すでに購入してしまった補聴器の費用は対象外です。必ず、補聴器を購入する前に市区町村の窓口へ相談し、申請手続きを行ってください。
ステップ1:市区町村の窓口へ事前相談
まずはお住まいの市区町村の障がい福祉担当課へ連絡し、「難聴児の補聴器購入費助成制度を利用したい」と伝えます。ここで、制度の詳細な説明を受け、申請に必要な書類(申請書、医師の意見書の様式など)を受け取ります。
ステップ2:指定医療機関で受診し、意見書を作成してもらう
市区町村から受け取った意見書の様式を持って、指定された耳鼻咽喉科の医師の診察を受けます。聴力検査などを行い、医師がお子様に補聴器が必要だと判断した場合に、意見書を作成してもらいます。
ステップ3:補聴器販売店で見積書を取得する
医師の意見書に基づき、補聴器販売店で適合する補聴器を選び、見積書を作成してもらいます。自治体によっては、契約できる販売店が登録制になっている場合があるので、事前に確認しておくとスムーズです。
ステップ4:必要書類を揃えて窓口へ申請
以下の書類を揃えて、再度市区町村の窓口へ提出します。
- 助成金支給申請書
- 医師の意見書
- 補聴器販売業者の見積書
- 世帯の所得を証明する書類(課税証明書など)
- 身分証明書(マイナンバーカード、健康保険証など)
- 印鑑
※必要書類は自治体によって異なりますので、必ず事前に確認してください。
ステップ5:支給決定通知書・支給券の受け取り
申請内容が審査され、問題がなければ「支給決定通知書」と「補聴器購入費支給券」などが自宅に郵送されます。この通知が届くまで、絶対に補聴器を購入しないでください。
ステップ6:補聴器の購入と受け取り
支給券と自己負担額を持って補聴器販売店へ行き、補聴器を購入・受け取ります。支給券を販売店に渡すことで、助成額を差し引いた金額(自己負担額)のみを支払う「代理受領方式」が一般的です。
⑥ 申請を成功させるためのポイント
この制度は要件を満たせば基本的に支給される福祉制度ですが、スムーズに進めるためにはいくつかのポイントがあります。
- とにかく「購入前」に動く:何度も繰り返しますが、これが最も重要です。自己判断で購入せず、まずは窓口相談からスタートしてください。
- 自治体の制度を正確に把握する:この記事は一般的な内容を解説しています。所得制限の基準や必要書類など、お住まいの自治体のルールを必ず公式サイトや窓口で確認しましょう。
- 医師との連携を密にする:意見書は申請の核となる書類です。お子様の聞こえの状態や、補聴器の必要性について、医師としっかりコミュニケーションを取りましょう。
- スケジュールに余裕を持つ:相談から申請、決定通知、補聴器の受け取りまで、1ヶ月以上かかることもあります。特に新学期に合わせて準備したい場合などは、早めに動き出すことをお勧めします。
⑦ よくある質問(FAQ)
Q1. 身体障害者手帳を持っていても使えますか?
A1. 聴覚障害で身体障害者手帳をお持ちの場合は、原則として障害者総合支援法に基づく「補装具費支給制度」が優先されます。本制度は、手帳の対象とならない軽度・中等度難聴のお子様を対象としています。どちらの制度に該当するかは、聴力レベルによりますので、まずは窓口でご相談ください。
Q2. どこに相談すればいいですか?
A2. お住まいの市区町村役場の「障がい福祉課」「こども福祉課」「子育て支援課」といった名称の部署が担当していることが多いです。まずは市役所の総合窓口で「子どもの補聴器の助成について聞きたい」と尋ねてみてください。
Q3. 好きな補聴器をどれでも買えますか?
A3. 医師の意見書に基づき、お子様の聴力に合った補聴器を選ぶことになります。助成の対象となるのは基準額の範囲内です。最新の高機能な補聴器など、基準額を大幅に超えるものを希望する場合、その差額は全額自己負担となります。
Q4. 助成金はいつ、どのようにもらえますか?
A4. 多くの自治体では「代理受領方式」を採用しています。これは、利用者が販売店で自己負担額のみを支払い、残りの助成額は自治体から直接販売店へ支払われる仕組みです。そのため、利用者が一時的に全額を立て替える必要はありません。一部、利用者が全額支払った後に申請して助成金を受け取る「償還払い」の自治体もあります。
Q5. 補聴器の修理費用も対象になりますか?
A5. はい、修理費用を助成対象としている自治体も多くあります。ただし、修理にも基準額が定められており、その範囲内での助成となります。修理を検討する際も、まずは市区町村の窓口へ相談することをお勧めします。
⑧ まとめ:まずはお住まいの自治体へ相談を
今回は、身体障害者手帳の対象とならない軽度・中等度難聴のお子様向けの「難聴児補聴器購入費助成事業」について詳しく解説しました。
重要ポイントの再確認
- 対象は18歳未満で手帳対象外の軽度・中等度難聴児。
- 自己負担は原則3分の1。所得によっては負担が軽減されることも。
- 申請には医師の意見書と販売店の見積書が必須。
- 【最重要】必ず補聴器を購入する前に、市区町村の窓口へ相談・申請する。
お子様の「聞こえ」は、言葉の発達、学習、友人とのコミュニケーションなど、成長のあらゆる側面に影響を与えます。経済的な負担を理由に、必要な支援をためらう必要はありません。この制度を有効に活用し、お子様の可能性を最大限に引き出してあげてください。まずは第一歩として、お住まいの市区町村の担当窓口へ、気軽に電話で問い合わせてみることから始めてみましょう。