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「事故や病気の後、なんだか物忘れがひどくなった」「以前と比べて怒りっぽくなった気がする」——。ご自身やご家族にそんな変化はありませんか?それはもしかしたら「高次脳機能障害」かもしれません。この障害は外見からは分かりにくいため「見えない障害」とも呼ばれ、ご本人やご家族だけで悩みを抱え込んでしまうケースが少なくありません。しかし、ご安心ください。国や各都道府県では、こうした方々を支えるための公的な支援事業が整備されています。この記事では、埼玉県などの事例をもとに、高次脳機能障害者支援事業で受けられる具体的なサポート内容、無料の相談窓口、利用できるサービスについて、誰にでもわかるように徹底的に解説します。この記事を読めば、一人で悩まずに次の一歩を踏み出すための具体的な方法がわかります。
高次脳機能障害者支援事業の概要
高次脳機能障害者支援事業は、事故による脳の外傷や、脳梗塞・脳出血といった病気によって脳に損傷を受け、記憶力や注意力、感情のコントロールなどに困難を抱える方々とそのご家族を支援するための事業です。障害者総合支援法に基づき、各都道府県が主体となって実施しています。
この事業の目的は、専門的な相談支援や関係機関との連携を通じて、高次脳機能障害のある方が地域で安心して生活し、社会参加を実現できるようサポートすることです。医療、福祉、介護、就労、教育といった様々な分野が連携し、一人ひとりの状況に合わせた切れ目のない支援体制を構築することを目指しています。
そもそも「高次脳機能障害」とは?
高次脳機能障害は、脳の損傷によって引き起こされる認知機能の障害です。主な原因には以下のようなものがあります。
- 脳血管障害:脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など
- 頭部外傷:交通事故、転倒・転落事故など
- その他:脳炎、低酸素脳症、脳腫瘍など
症状は損傷を受けた脳の部位や範囲によって様々ですが、代表的なものには以下のようなものがあります。
障害の種類 | 具体的な症状の例 |
---|---|
記憶障害 | 新しいことを覚えられない、約束を忘れる、何度も同じことを聞く |
注意障害 | 集中力が続かない、ミスが多い、ぼんやりしている、二つのことを同時にできない |
遂行機能障害 | 計画を立てて物事を進められない、段取りが悪い、優先順位がつけられない |
社会的行動障害 | 感情のコントロールができない(急に怒る・泣く)、意欲がわかない、こだわりが強くなる |
受けられる支援内容とサービス
この事業は金銭的な補助金を支給するものではなく、専門家による相談や訓練プログラムの提供が中心です。相談は原則無料で、ご本人やご家族の悩みに寄り添いながら、適切なサービスにつなげる役割を担っています。具体的にどのような支援が受けられるのか見ていきましょう。
① 専門的な相談支援(総合相談窓口)
各都道府県には「高次脳機能障害者支援センター」のような支援拠点機関が設置されており、専門の相談員が電話や面談で対応してくれます。生活上の困りごと、利用できる福祉制度、仕事のことなど、どんな些細なことでも相談できます。
- 埼玉県:埼玉県総合リハビリテーションセンター内に「高次脳機能障害者支援センター」を設置。専用電話で相談を受け付けています。
- 東京都:東京都心身障害者福祉センターが支援拠点機関となり、専用電話相談や関係機関への助言を行っています。
- 福岡県:福岡県障がい者リハビリテーションセンター内に専門相談ホットラインを設置しています。
② 訓練プログラムの提供
社会復帰や就労を目指す方のために、様々な訓練プログラムが用意されています。これらは障害者総合支援法に基づくサービスとして提供されることが多いです。
- 自立訓練(生活訓練):日常生活のスキル向上を目指す訓練。
- 就労移行支援:就職に必要な知識や能力を高めるための訓練や、職場探しをサポート。
- 就労準備支援プログラム(東京都の例):6ヶ月間の通所により、職業準備性を整えるプログラム。
- 社会生活評価プログラム(東京都の例):4ヶ月間の通所により、社会参加を目指すための評価プログラム。
③ 普及・啓発、人材育成(研修会・セミナー)
ご家族や一般の方、支援者向けに、高次脳機能障害への理解を深めるための研修会やセミナーが定期的に開催されています。参加費は無料のものがほとんどです。例えば埼玉県では、以下のような研修が実施されています。
- 高次脳機能障害支援養成研修:障害福祉サービス事業所の職員などを対象とした専門研修。
- 高次脳機能障害理解促進セミナー:「こどもの高次脳機能障害」などをテーマに、教育・福祉関係者や一般県民向けに開催。
④ ピア・カウンセリングや家族会
同じ障害を持つ当事者(ピア)やその家族同士が、悩みを分かち合い、支え合う活動も支援しています。経験者だからこそわかる悩みや工夫を共有できる貴重な場です。埼玉県ではNPO法人に委託し、電話相談や地域相談会を実施しています。
対象者・利用条件
この事業の対象となるのは、主に以下の方々です。診断の有無にかかわらず、「もしかしたら?」という段階でも相談が可能です。
- 高次脳機能障害の症状があるご本人
- そのご家族、配偶者、介護者
- 医療、福祉、介護、教育、就労支援など、関係機関の職員
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳など)を持っていなくても相談は可能です。また、障害福祉サービスを利用する際には、手帳がなくても医師の診断書によって申請が可能な場合があります。まずはお住まいの地域の窓口に問い合わせてみることが重要です。
相談・利用までの流れ
支援を利用するための手順はとてもシンプルです。複雑な申請手続きは必要なく、まずは電話一本から始まります。
- ステップ1:電話で相談する
お住まいの都道府県の支援拠点機関や相談窓口に電話をします。匿名での相談も可能な場合があります。 - ステップ2:状況を伝える
専門の相談員が、現在の困りごとや状況を丁寧にヒアリングしてくれます。事前に伝えたいことをメモしておくとスムーズです。 - ステップ3:情報提供・助言を受ける
相談内容に応じて、利用できる福祉制度や地域のサービス、専門医療機関などの情報を提供してもらえます。 - ステップ4:各種サービスへつなぐ
必要に応じて、面談の設定や、具体的な訓練プログラム、地域の支援機関への紹介など、次のステップに進みます。
主な相談窓口(埼玉県の例)
窓口名称 | 連絡先 | 受付時間 |
---|---|---|
埼玉県高次脳機能障害者支援センター | 048-781-2236 | 月~金 9:00~17:00 |
医療法人真正会 霞ヶ関南病院 | 049-232-1313(代表) | 月~金 9:00~17:00 |
医療法人光仁会 春日部厚生病院 | 080-8181-4148 | 月~金 9:00~17:00 |
※上記は埼玉県の例です。各都道府県の公式サイトで最寄りの相談窓口をご確認ください。
支援をうまく活用するためのポイント
公的な支援を最大限に活用し、より良い生活につなげるためにはいくつかのコツがあります。
- 一人で抱え込まない:最も重要なことです。ご本人だけでなく、ご家族も積極的に相談窓口を利用しましょう。
- 困りごとを具体的に伝える:「いつから」「どんな時に」「何に困っているか」をメモしておくと、相談がスムーズに進みます。
- 地域の支援機関と連携する:相談窓口は、地域の様々な機関(病院、福祉事業所、ハローワークなど)と連携しています。複数の専門家の視点からサポートを受けることが大切です。
- 研修会や家族会に参加する:正しい知識を得ることで、障害への理解が深まり、適切な対応ができるようになります。また、同じ悩みを持つ仲間との出会いは大きな力になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. まだ高次脳機能障害と診断されていませんが、相談できますか?
はい、できます。「もしかしたら?」という段階でのご相談を歓迎しています。相談を通じて、専門の医療機関を紹介してもらうことも可能です。
Q2. 相談にお金はかかりますか?
いいえ、支援拠点機関での相談は原則無料です。ただし、紹介された先の医療機関での受診や、障害福祉サービスを利用する際には、制度に基づいた費用がかかる場合があります。
Q3. 本人が相談に行きたがらないのですが、家族だけでも相談できますか?
はい、ご家族からの相談も受け付けています。ご本人への関わり方や、利用できるサービスについてアドバイスを受けることができます。まずはご家族だけで相談されるケースも非常に多いです。
Q4. 仕事についての相談もできますか?
はい、可能です。就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターなど、専門の就労支援機関と連携して、復職や新しい仕事探しをサポートします。
Q5. 障害者手帳がなくてもサービスは利用できますか?
相談は手帳がなくても可能です。障害福祉サービスを利用する際には、精神障害者保健福祉手帳を取得する方法の他に、医師(精神科医以外も可)の診断書があれば申請できる場合があります。詳しくは市町村の障害福祉窓口や相談支援事業所にご確認ください。
まとめ:まずは一本の電話から始めましょう
高次脳機能障害は、外見から分かりにくいために周囲の理解を得られず、ご本人やご家族が孤立しがちな障害です。しかし、この記事で解説したように、全国の都道府県には専門的な支援を行う体制が整っています。大切なのは、一人で、あるいは家族だけで抱え込まず、公的な相談窓口につながることです。
生活のこと、仕事のこと、将来のこと。どんな悩みでも構いません。専門の相談員が親身になって話を聞き、あなたに合った支援の道筋を一緒に考えてくれます。この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。まずは、お住まいの地域の高次脳機能障害者支援センターに、勇気を出して電話をしてみてください。