近年の米価高騰や異常気象は、米農家の皆様にとって大きな経営課題となっています。特に、高温傾向により全国的に多発している「斑点米カメムシ類」は、米の品質を著しく低下させ、収益に直結する深刻な問題です。通常の防除だけでは被害を抑えきれないケースも増えています。こうした状況を受け、農林水産省は米の安定供給と価格安定を図るため、臨時かつ特例的な支援策として「米の需給及び価格の安定に向けた斑点米カメムシ類臨時特例対策事業」を開始しました。この記事では、主食用米を対象に、追加の薬剤防除費用を10aあたり1,000円支援する本事業について、対象者、要件、申請のポイントなどをどこよりも詳しく、分かりやすく解説します。品質の高い米作りを守り、経営を安定させるために、この絶好の機会をぜひご活用ください。
「斑点米カメムシ類臨時特例対策事業」とは?
本事業は、全国的な斑点米カメムシ類の多発という緊急事態に対応し、米の品質低下を防ぎ、国民への安定供給を確保することを目的とした国の支援制度です。通常の防除に加えて、さらに追加で防除を行う際の費用負担を軽減します。
事業の目的と背景
今般の米価高騰を受け、米の安定供給に対する国民の関心は非常に高まっています。足元の渇水・高温が本年産米の減産要因となり得る中、斑点米カメムシによる品質低下は避けなければならない重要な課題です。そこで国は、主食用米を対象に、臨時的かつ特例的に追加防除を支援することで、米の需給及び価格の安定を図ることを目指しています。
制度の概要(まとめ表)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 米の需給及び価格の安定に向けた斑点米カメムシ類臨時特例対策事業 |
| 実施組織 | 農林水産省(窓口:都道府県、市町村など) |
| 対象者 | 市町村、農業共済組合、農業者が組織する団体(集落営農組織、大規模営農法人)等 |
| 補助額 | 1,000円 / 10a(国庫・定額) |
| 事業実施期間 | 令和7年8月7日(木)~ 令和7年10月31日(金) |
| 成果目標 | 地域の推奨防除回数より追加で1回以上防除を行うこと |
補助金額と補助率について
補助額は10aあたり1,000円(定額)
本事業の最大の特長は、10a(1反)あたり1,000円が定額で支援される点です。これは、実際にかかった経費の〇分の〇といった補助率計算ではなく、対象となる面積に応じて一律の金額が交付されることを意味します。計画が立てやすく、事務処理の負担も少ないのがメリットです。
具体的な計算例
どのくらいの支援が受けられるのか、具体的な面積でシミュレーションしてみましょう。
- 例1:5ha(ヘクタール)の面積で一斉防除を実施する法人の場合
5ha = 500a(アール)
500a × 1,000円/10a = 500,000円の補助 - 例2:20haの集落で共同で一斉防除を実施する場合
20ha = 2,000a(アール)
2,000a × 1,000円/10a = 2,000,000円の補助
このように、まとまった面積で実施することで、薬剤費や散布委託費の大きな助けとなります。
対象者と詳細な事業要件
この補助金を利用するには、誰が、どのような条件を満たす必要があるのかを正確に理解することが重要です。
対象となる団体
申請の主体となれるのは、以下の団体です。
- 市町村
- 農業共済組合
- 農業者が組織する団体(集落営農組織、大規模経営法人など)
【重要】個人農家は直接申請できません
この事業は、個人農家が単独で申請することはできません。しかし、ご自身が所属する集落営農組織や地域のJA、法人などが申請主体となることで、間接的に支援を受けることが可能です。まずは地域で取り組めないか、相談してみましょう。
必ず満たすべき6つの事業要件
補助を受けるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 注意報の発出:斑点米カメムシ類の発生予察注意報が発出されている都道府県であること。
- 推奨防除の実施:都道府県が推奨する回数(例:埼玉県では2回)の防除を既に行っているほ場であること。
- 都道府県の指導:都道府県が追加防除に関する技術指導を行った地区であること。
- 要防除水準の超過:推奨防除後も、都道府県等が定める要防除水準を超える斑点米カメムシ類の生息が確認されたほ場であること。
- 一斉防除の実施:1集落単位、または概ね20ha以上のまとまった面積で、ドローンや無人ヘリ等による一斉防除を行うこと。
- 次期作に向けた管理:収穫後に次期作に向けて、カメムシの越冬場所を減らすため、稲の残渣(ひこばえ)のすき込みや、畦畔の草刈り等のほ場管理に取り組むこと。
補助の対象となる経費
この事業で支援されるのは、追加防除に直接かかる以下の2つの経費です。
- 薬剤の購入費:斑点米カメムシ類に対する追加防除用の農薬の購入費用。
- 薬剤散布の委託費:ドローン、無人ヘリコプターなどを活用して薬剤散布を専門業者(サービス事業体)に委託する際の費用。
対象外となる経費の例
自己所有の散布機材の燃料代や修理費、自己労力による人件費、通常の推奨回数分の防除費用などは対象外ですのでご注意ください。
申請方法と手続きの流れ
正式な申請方法は今後、各都道府県から発表される見込みですが、現時点で準備しておくべきこと、想定される流れを解説します。
ステップバイステップ申請ガイド
- 地域の状況確認と相談:まず、所属する集落営農組織、JA、または地域の農林振興センター等に、本事業の活用について相談します。
- 集落内での合意形成:事業要件である「一斉防除」を実施するため、対象地域内の農業者間で合意形成を図り、計画を立てます。
- 追加防除の実施:計画に基づき、事業実施期間内(令和7年8月7日~10月31日)に追加防除を実施します。
- 証拠書類の徹底保管:防除作業や経費の支払いを証明する書類を、漏れなく保管します。これが最も重要です。
- 申請手続き:都道府県や市町村が定める申請様式に従い、必要書類を添えて申請窓口に提出します。
【最重要】必ず保管すべき証拠書類一覧
申請方法は未定ですが、事業要望の際には証拠書類が必須となります。後から慌てないよう、以下の書類は必ず整理・保管しておきましょう。
- 作業日誌:いつ、どのほ場で、誰が、どのような防除作業を行ったかの記録。
- 農薬の購入記録:農薬を購入した際の領収書や納品書。
- 農薬の在庫管理表:農薬の入出庫がわかる記録。
- 防除委託の領収証・契約書:外部に散布を委託した場合の契約書や請求書、領収書。
- その他:散布区域の地図、散布作業中の写真など、客観的に取り組みを証明できる資料。
採択されるための重要なポイント
採択のコツは「要件遵守」と「記録の徹底」
本事業は、予算の範囲内で要件を満たした取り組みを支援するものです。競争的な審査というよりは、要件をいかに正確に満たしているかが鍵となります。
- 地域連携の証明:「地域一斉」での取り組みが必須のため、集落内での計画書や合意形成の議事録などがあると、説得力が増します。
- 客観的な証拠:すべての経費と作業内容について、第三者が見てもわかる客観的な証拠(領収書、作業日誌、写真など)を揃えることが不可欠です。
- 早めの行動:申請期間は限られています。地域の関係者と早めに情報共有し、計画的に準備を進めましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 個人農家ですが、この補助金は使えますか?
- A1. 残念ながら、個人農家が単独で申請することはできません。ご自身が所属する集落営農組織や農業法人、JAなどを通じて事業に参加し、支援を受ける形になります。まずは地域の組織にご相談ください。
- Q2. 埼玉県のウェブサイトで「要望調査は終了しました」とありますが、もう申請できないのですか?
- A2. 「要望調査」は、事業開始前に国が予算規模を把握するために行った事前の意向調査です。これに回答していなくても、事業期間内に要件を満たして追加防除を実施すれば、申請は可能です。ただし、申請受付の詳細は各都道府県の発表をご確認ください。
- Q3. ドローンでの散布を委託した場合、その費用は全額対象になりますか?
- A3. 散布委託費は補助対象経費です。ただし、補助金は10aあたり1,000円の定額交付ですので、委託費がそれを上回っても補助額は変わりません。委託費と薬剤購入費の合計負担を軽減するための支援とお考えください。
- Q4. どんな農薬でも対象になりますか?
- A4. 斑点米カメムシ類に登録のある農薬が対象となります。使用する農薬が対象になるか不明な場合は、地域の農林振興センターやJAの営農指導員にご確認ください。
- Q5. 申請はどこに行えばよいですか?
- A5. 申請の窓口は、お住まいの都道府県や市町村の農政担当課、または地域の農林振興センターとなる見込みです。詳細が公表され次第、速やかに確認しましょう。国の事業ですが、直接国に申請するわけではありません。
まとめと次のアクション
「米の需給及び価格の安定に向けた斑点米カメムシ類臨時特例対策事業」は、カメムシ被害に悩む米農家の皆様にとって、品質と収量を守るための重要な支援策です。最後に、本事業の重要ポイントを再確認します。
- 目的:斑点米カメムシ類の「追加」防除を支援し、米の品質を確保する。
- 補助額:10aあたり1,000円の分かりやすい定額支援。
- 条件:集落単位または20ha以上のまとまりでの「地域一斉防除」が必須。
- 準備:申請には作業日誌や領収書などの「証拠書類」の保管が不可欠。
この機会を最大限に活用するため、まずはご自身の地域でこの事業に取り組めないか、JAや集落の代表者、お近くの農林振興センターへ相談することから始めてみましょう。地域で連携し、高品質な米作りを未来へ繋げていきましょう。
問い合わせ先
事業内容や申請に関するお問い合わせは、まずはお住まいの都道府県の担当窓口(農政担当課や農林振興センター)にご相談ください。
都道府県の窓口が不明な場合は、国の担当窓口までお問い合わせください。
農林水産省 農産局 穀物課企画班:03-3502-5965