詳細情報
がん治療を始めるにあたり、「将来、子どもを授かることができるだろうか」という不安を抱える方は少なくありません。特に、小児・AYA世代(15歳〜39歳頃の思春期・若年成人)のがん患者さんにとって、治療による生殖機能への影響は大きな課題です。埼玉県では、そんな方々が希望を持って治療に臨めるよう、将来子どもを授かる可能性を温存するための「妊孕性(にんようせい)温存療法」と、その後の「温存後生殖補助医療」にかかる費用の一部を助成する制度を実施しています。この記事では、埼玉県の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」について、対象者、助成金額、申請方法などを誰にでも分かりやすく徹底解説します。
この記事のポイント
- 埼玉県が実施するがん患者向けの妊孕性温存療法の助成制度を解説
- 妊孕性温存療法に最大40万円、温存後生殖補助医療に最大30万円を助成
- 対象者、申請条件、必要書類、手続きの流れが具体的にわかる
- 申請を検討している方が今すぐ何をすべきかが明確になる
埼玉県の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」とは?
制度の目的と概要
この事業は、埼玉県が主体となって実施している助成制度です。がん治療(化学療法や放射線治療など)は、将来の妊娠に必要な卵子や精子を作る能力(妊孕性)にダメージを与える可能性があります。そこで、治療開始前に卵子や精子、受精卵、卵巣組織などを凍結保存する「妊孕性温存療法」を受けることで、治療後に子どもを授かる可能性を残すことができます。この制度は、その治療にかかる経済的負担を軽減し、患者さんが安心してがん治療に専念できる環境を整えることを目的としています。
ポイント:この制度は、がん治療だけでなく、再生不良性貧血や全身性エリテマトーデスなど、妊孕性が低下するリスクのある一部の非がん疾患の治療も対象となります。
2段階の助成で継続的にサポート
本事業は、2つのステップで構成されています。まずは治療前に将来の可能性を残すための治療、そして、がん治療後に実際に妊娠を目指すための治療、その両方が助成の対象となります。
- ステップ1:妊孕性温存療法
がん治療等の前に、卵子、精子、受精卵、卵巣組織などを凍結保存するための治療費用を助成します。 - ステップ2:温存後生殖補助医療
がん治療等が終わり、凍結保存しておいた卵子や精子などを用いて妊娠を目指すための治療(体外受精など)費用を助成します。
【ステップ1】妊孕性温存療法の助成詳細
対象となる方(4つの必須条件)
以下のすべてを満たす方が対象です。
- 年齢:対象となる治療の凍結保存時に43歳未満であること。
- 対象疾患:「小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン」で妊孕性低下リスクがあるとされる治療を受ける方(がん、再生不良性貧血、全身性エリテマトーデス等)。
- 住所:申請時点で埼玉県内に住所を有すること。
- 研究への同意:本事業の研究へ臨床情報等を提供することに同意すること。
※事実婚の夫婦も、条件を満たせば対象となる場合があります。
助成対象治療と上限額
助成の対象は、指定医療機関で受けた治療の保険適用外費用です。治療内容によって上限額が異なります。
| 対象となる治療 | 1回あたりの助成上限額 |
|---|---|
| 胚(受精卵)凍結に係る治療 | 35万円 |
| 未受精卵子凍結に係る治療 | 20万円 |
| 卵巣組織凍結に係る治療(組織の再移植を含む) | 40万円 |
| 精子凍結に係る治療 | 2万5千円 |
| 精巣内精子採取術による精子凍結に係る治療 | 35万円 |
注意点:助成対象は治療費と初回の凍結保存費用です。凍結保存の維持にかかる費用(更新料など)や、文書料、差額ベッド代などは対象外です。
助成回数
対象者1人につき通算2回までです。過去に他の都道府県で同様の助成を受けた場合も回数に含まれます。
【ステップ2】温存後生殖補助医療の助成詳細
対象となる方(6つの必須条件)
妊孕性温存療法を受けた後、実際に妊娠を目指す治療を受ける際に、以下のすべてを満たす方が対象です。
- 妊孕性温存療法の助成要件を満たし、治療を受けた方
- 医師から、この治療法でなければ妊娠の見込みが極めて少ないと判断された方
- 治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦
- 法律婚または事実婚の関係にあること
- 申請時点で埼玉県内に住所を有すること
- 本事業の研究へ臨床情報等を提供することに同意すること
助成対象治療と上限額
| 対象となる治療 | 1回あたりの助成上限額 |
|---|---|
| 凍結した胚(受精卵)を用いた生殖補助医療 | 10万円 |
| 凍結した未受精卵子を用いた生殖補助医療 | 25万円 |
| 凍結した卵巣組織再移植後の生殖補助医療 | 30万円 |
| 凍結した精子を用いた生殖補助医療 | 30万円 |
助成回数
助成回数は、初めて助成を受ける際の妻の年齢によって異なります。
- 妻が40歳未満の場合:通算6回まで
- 妻が40歳以上43歳未満の場合:通算3回まで
※出産した場合、または妊娠12週以降に死産に至った場合は、助成回数がリセットされます。
申請手続きの完全ガイド
申請のタイミング
申請は、原則として治療が終了した日の属する年度内に行う必要があります(例:令和7年10月に治療終了した場合、令和8年3月31日までに申請)。ただし、原疾患の治療をすぐに開始する必要があるなど、やむを得ない事情がある場合は、翌年度の申請も可能です。年度内の申請が難しい場合は、必ず事前に担当窓口へ相談しましょう。
申請の流れ
- 相談:まず、がん治療の主治医に妊孕性温存療法を希望する旨を相談します。
- 治療:主治医と連携している指定医療機関の生殖医療専門医の診察を受け、妊孕性温存療法を実施します。
- 書類準備:治療終了後、申請に必要な書類を揃えます。医療機関に作成を依頼する書類(証明書など)があるので、早めに依頼しましょう。
- 申請:すべての書類を揃え、埼玉県の担当窓口へ郵送で提出します。
- 審査・交付:県で審査が行われ、承認されると指定の口座に助成金が振り込まれます。
必要書類一覧
申請には多くの書類が必要です。不備がないよう、リストを確認しながら準備を進めてください。様式は埼玉県の公式サイトからダウンロードできます。
【妊孕性温存療法の場合】
- 事業参加申請書(様式第1-1号)
- 事業に係る証明書(妊孕性温存療法実施医療機関が発行)
- 事業に係る証明書(原疾患治療実施医療機関が発行)
- 住民票(原本、発行後3ヶ月以内)
- 振込希望口座の通帳等の写し
- (該当者のみ)夫婦であることを証明する書類(戸籍謄本など)
【温存後生殖補助医療の場合】
- 事業参加申請書(様式第2-1号)
- 温存後生殖補助医療証明書(実施医療機関が発行)
- 住民票(原本、発行後3ヶ月以内)
- 夫婦であることを証明する書類(戸籍謄本など)
- 振込希望口座の通帳等の写し
申請書の提出先
書類は郵送で提出します。送付記録が残る特定記録郵便や簡易書留の利用が推奨されています。
〒330-9301
埼玉県さいたま市浦和区高砂3-15-1
埼玉県保健医療部 疾病対策課 がん対策担当
よくある質問(FAQ)
- Q1. 埼玉県外の病院で治療を受けても対象になりますか?
-
A1. はい、対象になります。ただし、治療を受ける医療機関が、所在地の都道府県から「妊孕性温存療法研究促進事業指定医療機関」として指定されている必要があります。指定医療機関かどうかは、各都道府県のホームページ等で確認するか、医療機関に直接お問い合わせください。
- Q2. 事実婚でも申請できますか?
-
A2. はい、可能です。胚(受精卵)凍結や温存後生殖補助医療の申請において、事実婚関係にある夫婦も対象となります。ただし、両人の戸籍謄本や住民票、事実婚関係に関する申立書など、追加の書類提出が必要です。
- Q3. 申請期限である年度末を過ぎてしまいそうです。どうすればよいですか?
-
A3. やむを得ない事情(体調不良や、すぐに原疾患の治療を開始する必要があった等)により年度内の申請が困難な場合は、翌年度に申請することが認められています。まずは諦めずに、埼玉県の担当窓口(疾病対策課 がん対策担当)へ電話で相談してください。
- Q4. がん以外の病気でも対象になりますか?
-
A4. はい、一部の非がん疾患も対象です。具体的には、造血幹細胞移植が実施される再生不良性貧血や、アルキル化剤が投与される全身性エリテマトーデスなどが対象に含まれます。ご自身の疾患が対象になるか不明な場合は、主治医または県の担当窓口にご確認ください。
- Q5. 助成金はいつ頃振り込まれますか?
-
A5. 申請書類の審査には一定の時間がかかります。一般的に、申請から振込までは数ヶ月程度かかることが多いようです。具体的な時期については、申請後に送付される決定通知書などで確認するか、担当窓口にお問い合わせください。
まとめ:未来への希望をつなぐために、まずは相談から
今回は、埼玉県の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」について詳しく解説しました。がんという大きな病と向き合う中で、将来のライフプランまで考えるのは精神的にも大変なことです。しかし、このような公的な支援制度を活用することで、経済的な負担を減らし、「子どもを持つ」という未来の選択肢を残すことができます。
重要:妊孕性温存療法は、がん治療が始まる前の限られた時間で行う必要があります。この制度の利用を少しでも検討している方は、診断を受けたらできるだけ早く、がん治療の主治医や看護師、がん相談支援センターの相談員に「妊孕性温存に関心がある」と伝えてください。
この助成金が、治療に立ち向かうあなたとご家族にとって、未来への大きな希望となることを願っています。
お問い合わせ先
埼玉県 保健医療部 疾病対策課 がん対策担当
電話番号:048-830-3599
住所:〒330-9301 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-15-1
公式サイト:小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性(にんようせい)温存療法研究促進事業