生活保護を受給しながら就職活動に励み、ついに自立への道筋が見えたとき、「これからの生活は大丈夫だろうか」「税金や社会保険料の支払いで、かえって生活が苦しくなるのでは?」といった不安を感じる方も少なくないでしょう。そんな、努力の末に社会復帰を果たす方々を力強く後押しするために創設されたのが「就労自立給付金」です。この制度は、安定した職業に就くなどして生活保護を必要としなくなった方に対し、いわば「お祝い金」「支度金」として支給されるもの。脱却直後の不安定な時期を支え、再び保護に頼ることなく安定した生活を継続できるようサポートすることを目的としています。特に2024年10月1日からは制度が改正され、より利用しやすくなりました。この記事では、就労自立給付金の最新情報、支給要件、計算方法、申請手順まで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- 就労によって生活保護から脱却する際に最大15万円(単身者は10万円)が支給される制度。
 - 2024年10月1日から制度が改正され、最低支給額(単身2万円、複数世帯3万円)が設定され、早期自立がより有利に。
 - 給付金は、保護廃止直後の生活費や仕事に必要な物品の購入など、新生活の安定に役立てられる。
 - 申請は保護が廃止される直前に行うのが基本。まずは担当のケースワーカーへの相談から。
 
就労自立給付金の概要
まずは、就労自立給付金がどのような制度なのか、その全体像を掴みましょう。
制度の目的・背景
生活保護から脱却すると、それまで免除されていた税金や社会保険料などの負担が発生します。そのため、手取り収入が保護費を下回ってしまう「逆転現象」が起こり、脱却後の生活が不安定になるケースがありました。この問題を解消し、就労による自立へのインセンティブ(動機付け)を強化するとともに、脱却直後の生活を支え、再び保護状態に戻ることを防ぐために、この給付金制度が創設されました。いわば、社会への新たなスタートを切る方への国からの応援金です。
実施組織
この制度は国の法律(生活保護法)に基づいていますが、実際の申請受付や支給決定は、お住まいの地域を管轄する都道府県、市、または福祉事務所を設置する町村が行います。窓口は、日頃やり取りをしている福祉事務所の担当員(ケースワーカー)となります。
支給対象者と具体的な要件
就労自立給付金は、生活保護から脱却した人なら誰でも受け取れるわけではありません。「就労によって」自立したことが重要なポイントです。具体的には、以下のいずれかの要件を満たし、福祉事務所が「保護を必要としなくなった」と認めた世帯が対象となります。
- ① 安定した職業に就いた
世帯員の誰かが、おおむね6ヶ月以上雇用が継続される見込みで、かつ世帯の最低生活費を上回る収入を得られる職業に就いた場合。正社員だけでなく、契約社員や長期のパート・アルバイトなども含まれる可能性があります。 - ② 事業を開始した
世帯員の誰かが個人事業主として開業するなど事業を始め、その事業によっておおむね6ヶ月以上、世帯の最低生活費を上回る収入を得られると見込まれる場合。 - ③ 就労収入が増加した
すでに就労していた世帯で、昇給や転職、勤務時間の増加などにより収入が増え、その結果、おおむね6ヶ月以上、世帯の最低生活費を上回る収入を得られるようになった場合。 - ④ 新たに就労収入を得た
年金など就労以外の収入で生活していた世帯で、世帯員の誰かが新たに働き始め、既存の収入と合わせた合計額が、おおむね6ヶ月以上、世帯の最低生活費を上回るようになった場合。 
ポイント:年金の受給額が増えたり、親族からの援助が始まったりしたことで保護を脱却した場合は、就労による自立ではないため、この給付金の対象にはなりません。
いくらもらえる?給付金額の計算方法【2024年10月改正対応】
給付金の額は、保護を受けていた期間の就労収入に応じて変動します。ここでは、2024年10月1日以降に保護廃止となる場合に適用される新しい計算方法を、具体例を交えて解説します。
給付額の計算式
給付額は、以下のAとBの合計額となります。ただし、上限額と下限額が設定されています。
給付額 = (A:収入比例分) + (B:基礎額)
A:収入比例分 = 保護廃止前6ヶ月間の各月の「収入充当額」 × 10% の合計
B:基礎額 = 基準額(※1) - (就労月数(※2) × 7,500円)
※1 基準額:単身世帯は4万円、複数人世帯は5万円
※2 就労月数:算定期間中、最初に就労収入があった月の翌月から保護廃止月までの月数
上限額と最低支給額
計算した結果が上限額を超える場合は上限額が、下限額を下回る場合は下限額が支給されます。この最低支給額の設定が2024年10月からの大きな改正点です。
| 世帯構成 | 上限額 | 最低支給額(新設) | 
|---|---|---|
| 単身世帯 | 100,000円 | 20,000円 | 
| 複数人世帯 | 150,000円 | 30,000円 | 
用語解説
- 収入充当額:福祉事務所が収入として認定した就労収入の額です。給与の総支給額から、基礎控除や交通費などの必要経費を差し引いた後の金額を指します。毎月の収入申告書で確認できます。
 - 基礎額:早期に自立した人ほど高額になるように設計された金額です。働き始めてから保護廃止までの期間が短いほど、7,500円が引かれる回数が少なくなり、基礎額が高くなります。
 
申請から受給までの5ステップ
給付金を受け取るまでの流れは、それほど複雑ではありません。担当のケースワーカーとしっかり連携することが成功の鍵です。
- ステップ1:担当員(ケースワーカー)への相談
就職が決まった、収入が増えて保護費が必要なくなりそうだ、という見込みが立った時点で、速やかに担当のケースワーカーに報告・相談します。この時に、就労自立給付金の対象になるかどうかの確認や、今後の手続きについて説明を受けましょう。 - ステップ2:保護廃止の決定
収入状況などを確認した福祉事務所が、「安定した収入により保護を必要としなくなった」と判断すると、生活保護の「廃止決定」が行われます。 - ステップ3:申請書の提出
保護の廃止が決定される直前に、「就労自立給付金支給申請書」を福祉事務所に提出します。申請書は福祉事務所でもらえます。ケースワーカーが申請を促してくれますが、自分からも忘れずに確認しましょう。 - ステップ4:支給決定通知
申請書が受理されると、福祉事務所で審査が行われ、支給額が決定します。通常、申請から14日以内(特別な事情がある場合は30日以内)に、書面で「支給決定通知書」が届きます。 - ステップ5:給付金の受給
保護の廃止決定時、または廃止後速やかに、決定された金額が一括で支給されます。支給方法は自治体によって異なりますが、口座振込や窓口での現金支給などがあります。 
必要書類
- 就労自立給付金支給申請書
 - その他、福祉事務所が必要と認める書類(給与明細の写しなど)
 
基本的には申請書のみですが、収入状況の確認のために追加の書類を求められる場合があります。担当員の指示に従ってください。
支給決定のポイントと注意点
制度を最大限に活用するために、知っておくべきポイントと注意点をまとめました。
確実に受給するためのポイント
- 収入報告は正確に:毎月の収入申告は、給付金の算定基礎となる重要なものです。給与明細などに基づき、正確に申告しましょう。
 - ケースワーカーとの連携:就職活動の状況や収入の見込みなど、日頃から担当のケースワーカーと密に情報共有しておくことが、スムーズな手続きにつながります。
 - 申請のタイミングを逃さない:給付金の申請は保護廃止の直前です。廃止が決まったら、忘れずに申請の意思を伝えましょう。
 
知っておくべき注意点
- 再支給の制限:一度給付金を受け取ると、原則としてその後3年間は再支給されません。(会社の倒産など、やむを得ない事情で再び保護を受けることになった場合を除く)
 - 課税対象:この給付金は、所得税法上「一時所得」に該当します。他に一時所得がなければ基礎控除(50万円)の範囲内となり非課税になることが多いですが、確定申告が必要になる場合があることは覚えておきましょう。
 - 申請期限(時効):給付金を受け取る権利は、2年で時効により消滅します。保護廃止から2年以内に申請が必要です。
 - 不正受給の罰則:偽りの申告などで不正に給付金を受け取った場合、全額返還を求められるだけでなく、法律により罰せられる(3年以下の懲役または100万円以下の罰金)ことがあります。
 
よくある質問(FAQ)
Q1. パートやアルバイトでも対象になりますか?
A1. はい、雇用形態は問いません。パートやアルバイトであっても、「おおむね6ヶ月以上雇用が継続され、世帯の最低生活費を上回る収入が得られる」と福祉事務所が判断すれば対象となります。
Q2. 自営業(個人事業主)として独立する場合ももらえますか?
A2. はい、対象になります。事業計画などから「おおむね6ヶ月以上、事業によって安定した収入が得られる」と見込まれる場合に支給対象となります。
Q3. 申請を忘れてしまったらどうなりますか?
A3. 給付金を受け取る権利は、保護が廃止されてから2年で時効になります。万が一申請を忘れても、2年以内であれば申請可能です。気づいた時点ですぐに福祉事務所に相談してください。
Q4. 給付金をもらった後、また生活保護を受けることはできますか?
A4. はい、可能です。病気や失業など、やむを得ない事情で再び生活に困窮した場合は、生活保護の再申請ができます。ただし、前述の通り、就労自立給付金は原則3年間は再支給されません。
Q5. 2024年9月30日までに保護廃止になった場合はどうなりますか?
A5. その場合は、改正前の古い算定方法が適用されます。基礎額がなく、収入比例分の計算率が就労期間に応じて変動する方式です。最低支給額の保証もありません。詳しくは担当のケースワーカーにご確認ください。
まとめ|就労自立給付金を活用して、新たな一歩を踏み出そう
就労自立給付金は、生活保護からの脱却という大きな節目を迎える方々にとって、経済的な安心と、社会で再び活躍するための自信を与えてくれる心強い制度です。
最後に重要ポイントの再確認
- 対象者:就労によって生活保護を必要としなくなった世帯。
 - 給付額:最大15万円(単身10万円)、最低でも3万円(単身2万円)が支給される(2024年10月以降)。
 - 手続き:まずは担当のケースワーカーに相談することからスタート。
 - 目的:脱却後の生活を安定させ、自立した生活を継続するための支援。
 
生活保護からの自立は、決して簡単な道のりではありません。しかし、あなたの努力は決して無駄にはなりません。この就労自立給付金という制度を賢く活用し、自信を持って社会への新たな一歩を踏み出してください。不明な点や不安なことがあれば、一人で抱え込まず、まずは福祉事務所の担当員(ケースワーカー)に相談してみましょう。きっとあなたの力になってくれるはずです。