詳細情報
白血病などの血液疾患に苦しむ患者さんにとって、骨髄移植は希望の光です。その移植を可能にするのが、善意のドナー(提供者)の存在です。しかし、ドナーになるには通院や入院が必要で、仕事への影響や経済的な負担が課題となることも少なくありません。この記事では、そうしたドナーの負担を軽減し、尊い行動を社会全体で支えるための「骨髄移植ドナー支援事業(助成金)」について、制度の概要から申請方法、注意点までを徹底的に解説します。ドナーご本人だけでなく、ドナーが勤務する事業所も対象となる場合があります。この制度を活用し、一人でも多くの命を救う活動が広がることを願っています。
この記事のポイント
- 骨髄ドナーになると、自治体から助成金が受け取れる可能性がある
- ドナー本人だけでなく、ドナーが勤務する事業所も対象になる場合がある
- 助成額は最大14万円程度(日額2万円×最大7日など)が一般的
- 申請には日本骨髄バンクが発行する証明書が必須
- 申請期限は提供完了日から1年以内が多いため注意が必要
① 骨髄ドナー助成金の概要
骨髄移植ドナー支援事業(助成金)は、骨髄バンクを介して骨髄や末梢血幹細胞を提供したドナーの方、およびそのドナーが勤務する事業所の負担を軽減することを目的とした制度です。多くの地方自治体(市区町村)が主体となって実施しており、骨髄移植の推進とドナー登録者の増加を目指しています。
制度の目的と背景
骨髄等の提供には、複数回の通院や数日間の入院が必要です。そのため、ドナーは仕事を休む必要があり、収入の減少やキャリアへの影響を懸念する声がありました。特に、ドナーのための特別休暇制度(ドナー休暇)が整備されていない企業に勤める方にとっては、大きな負担となります。
この助成金は、こうした経済的・時間的な負担を直接的に支援することで、ドナーが安心して提供に臨める環境を整え、最終的には一人でも多くの患者を救うことにつなげるための重要な社会制度です。
実施組織
この制度は、国が直接行うものではなく、全国の多くの市区町村が独自に実施しています。そのため、制度の有無、助成金額、対象者の条件などは、お住まいの自治体によって異なります。この記事では一般的な内容を解説しますが、申請を検討する際は、必ずご自身の住民票がある市区町村の公式ホームページを確認するか、担当窓口(保健所や健康増進課など)にお問い合わせください。
② 助成金額・補助率
助成金額は、ドナー本人と、ドナーが勤務する事業所でそれぞれ設定されているのが一般的です。多くの場合、骨髄等の提供にかかった日数に応じて算出されます。
助成額の計算方法(一般的モデル)
多くの自治体で採用されているのが、以下の日数に応じた計算方法です。
| 対象者 | 1日あたりの助成額 | 上限日数 | 最大助成額 |
|---|---|---|---|
| ドナー本人 | 20,000円 | 7日間 | 140,000円 |
| ドナーが勤務する事業所 | 10,000円 | 7日間 | 70,000円 |
【注意】上限日数や日額は自治体によって異なります。例えば、千葉市では2025年4月から日数計算(最大14万円)に変更されましたが、それ以前は一律10万円でした。必ず最新の情報を確認してください。
助成対象となる日数とは?
助成金の計算基礎となる「日数」には、以下のものが含まれます。これらはすべて、日本骨髄バンクが発行する証明書で確認されます。
- 最終同意のための面談
- 健康診断のための通院・入院
- 自己血貯血のための通院
- 骨髄・末梢血幹細胞の採取のための入院
- その他、骨髄バンクが必要と認める通院、入院、面談
③ 対象者・条件
助成金を受け取るためには、ドナー本人と事業所のそれぞれに定められた条件を満たす必要があります。
ドナー本人の対象要件
- 公益財団法人日本骨髄バンクが実施する骨髄バンク事業において、骨髄等の提供を完了した方。
- 骨髄等の提供が完了した日(または申請日)において、助成金を実施している市区町村に住民登録があること。
- 他の自治体から同種の助成金を受けていないこと。
- (自治体によっては)市税等を滞納していないこと。
- (自治体によっては)ドナー休暇制度のない企業等に勤務している、または個人事業主であること。
【対象外となる主なケース】
・国や地方公共団体、独立行政法人の職員(公務員)は対象外となる場合が多いです。
・ドナー者になったものの、最終的に提供には至らなかった場合は対象外です。(ただし、千葉市のように最終同意後に中止となった場合も対象とする自治体も出始めています)
事業所の対象要件
- 上記の助成対象となるドナーが勤務している国内の事業所であること。
- 国、地方公共団体、独立行政法人ではないこと。
- (自治体によっては)ドナーに対して、骨髄提供のための特別休暇(ドナー休暇)を認めていること。
④ 補助対象経費
この助成金は、特定の経費を補助するものではなく、骨髄等の提供に伴うドナーの負担(時間的、経済的損失)を補填する目的で交付されます。そのため、「補助対象経費」という考え方よりは、前述した「助成対象となる日数」が重要になります。
対象となる活動
- 通院・入院:健康診断、自己血貯血、骨髄等の採取など、提供に必要な医療行為のための通院・入院。
- 面談:骨髄バンクが必要と認めるコーディネーターとの面談など。
対象外となるもの
- 骨髄等の採取や関連する医療処置によって生じた健康被害(合併症など)の治療のための通院・入院(これは別の補償制度の対象となります)。
- ドナー登録のための採血や説明会への参加。
⑤ 申請方法・手順
申請手続きは自治体によって多少異なりますが、概ね以下の流れで進みます。
申請の全体的な流れ
Step 1: 必要書類の準備
骨髄等の提供が完了したら、日本骨髄バンクから証明書が発行されます。その他、自治体のホームページから申請書をダウンロードし、必要書類を揃えます。
Step 2: 交付申請
揃えた書類を、指定された期限内にお住まいの市区町村の担当窓口(保健所など)へ提出します。郵送、窓口持参、オンライン申請(練馬区など)に対応している場合があります。
Step 3: 審査・交付決定通知
自治体で書類の審査が行われ、問題がなければ「交付決定通知書」が郵送で届きます。申請から通知まで2週間~1ヶ月程度かかるのが一般的です。
Step 4: 請求手続き
交付決定通知書に同封されている「請求書」に必要事項を記入し、再度、担当窓口へ提出します。
Step 5: 助成金の振込
請求書が受理されてから、約2週間~1ヶ月程度で指定した口座に助成金が振り込まれます。
申請期限
非常に重要なポイントです。多くの自治体で「骨髄等の提供が完了し、医療機関を退院した日の翌日から起算して1年以内」と定められています。この期限を過ぎると申請できなくなるため、提供後は速やかに手続きを進めましょう。
必要書類リスト
以下は一般的な必要書類です。自治体によって異なるため、必ず公式サイトで確認してください。
| 必要書類 | |
|---|---|
| ドナー本人 |
|
| 事業所 |
|
⑥ 採択のポイント・注意点
この助成金は、事業計画を審査して採択・不採択を決めるタイプの補助金とは異なり、要件を満たしていれば基本的に交付されます。そのため、「採択のポイント」は「確実に助成金を受け取るための注意点」と言い換えることができます。
確実に交付を受けるための3つのコツ
- 申請期限を厳守する:最も重要なポイントです。提供完了から1年という期限はあっという間に過ぎてしまいます。退院したらすぐに自治体の制度を調べ、準備を始めましょう。
- 書類の不備をなくす:申請書への記入漏れ、証明書の添付忘れなどがないように、提出前に何度も確認しましょう。特に、日本骨髄バンクが発行する証明書は再発行が難しい場合があるため、大切に保管してください。
- 自分の自治体の制度を正確に把握する:インターネット上の情報だけでなく、必ずお住まいの市区町村の公式ホームページや担当窓口で最新の情報を確認してください。要件や様式が変更されている可能性があります。
⑦ よくある質問(FAQ)
Q1. 自分の住んでいる市に助成金制度があるか、どうすればわかりますか?
A1. お住まいの「市区町村名 骨髄ドナー 助成金」などのキーワードで検索するのが最も早いです。または、市区町村の公式ホームページで検索するか、保健所や健康づくり担当課に電話で問い合わせるのが確実です。
Q2. 会社にドナー休暇制度がある場合、ドナー本人は助成金をもらえませんか?
A2. 自治体によります。白河市のように「ドナー休暇制度がない者」を要件としている場合もありますが、多くの自治体ではドナー休暇の有無にかかわらずドナー本人への助成は行われます。事業所への助成は、ドナー休暇制度の導入を促進する目的があるため、休暇制度があることが前提となる場合が多いです。
Q3. 助成金はいつ頃振り込まれますか?
A3. 申請から交付決定まで約1ヶ月、その後の請求手続きから振込まで約1ヶ月、合計で最初の申請から2ヶ月程度を見ておくと良いでしょう。ただし、これは目安であり、自治体の事務処理状況によって前後します。
Q4. 個人事業主(フリーランス)でも対象になりますか?
A4. はい、対象となる場合がほとんどです。会社員でなくても、住民登録などの要件を満たしていれば申請できます。事業所向けの助成は対象外となります。
Q5. 助成金は課税対象になりますか?
A5. ドナー本人が受け取る助成金は、心身に加えられた損害に対する見舞金としての性格を持つため、所得税法上、非課税所得として扱われるのが一般的です。ただし、事業所が受け取る助成金は法人税の課税対象(益金)となります。念のため、税務署や税理士にご確認ください。
⑧ まとめ・行動喚起
骨髄移植ドナー支援事業は、ドナーの勇気ある決断と行動を社会が支えるための素晴らしい制度です。もしあなたがドナーとして骨髄等を提供された、あるいはこれから提供を考えているのであれば、この助成金制度の存在をぜひ覚えておいてください。
重要ポイントの再確認
- 対象者:骨髄提供を完了したドナー本人と、その勤務先事業所。
- 助成額:ドナーは日額2万円、事業所は日額1万円(上限7日程度)が目安。
- 申請先:お住まいの市区町村の担当窓口(保健所など)。
- 期限:提供完了(退院)から1年以内!
まずは、ご自身の市区町村にこの制度があるかを確認することから始めましょう。そして、もしあなたがドナー登録を迷っているなら、このような支援制度があることも踏まえて、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。あなたの行動が、誰かの一生を変えるかもしれません。
【参考情報】
ドナー登録や骨髄移植に関する詳しい情報は、以下の公式サイトをご覧ください。
▶ 公益財団法人 日本骨髄バンク