「急な失業や収入減で、今の家賃が払えない…」「もっと家賃の安いところに引っ越したいけど、初期費用がなくて動けない…」そんな悩みを抱えていませんか?
この記事では、そんなあなたのための公的な支援制度「住居確保給付金(転居費用補助)」について、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。この制度を活用すれば、引越しにかかる初期費用や運搬費用の負担を大幅に軽減し、生活再建への大きな一歩を踏み出すことができます。対象条件や申請方法、支給額まで、この記事を読めば全てがわかります。
① 住居確保給付金(転居費用補助)とは?
制度の概要と目的
住居確保給付金(転居費用補助)は、生活困窮者自立支援法に基づき、国が実施する公的な支援制度です。主な目的は、離職や収入の減少によって経済的に困窮し、住まいを失った、または失うおそれのある方が、家計を立て直すために転居する際の費用を補助することです。これまであった家賃補助に加えて、令和7年4月の制度改正(自治体により開始時期は異なる)により新たに始まった支援で、生活再建の初期段階でつまずかないように、引越しという大きなハードルを越える手助けをしてくれます。
ポイント:この制度は単にお金を支給するだけでなく、専門の相談員による「家計改善支援」を受けることがセットになっています。家計の見直しを通じて、根本的な生活の立て直しを目指す、非常に手厚いサポート制度です。
実施組織
この制度は厚生労働省が管轄しており、実際の申請窓口や相談対応は、お住まいの市区町村が設置する「自立相談支援機関」が担当します。全国各地に設置されているため、どこにお住まいの方でも相談することが可能です。
② 支給額はいくら?上限と計算方法
支給額は、実際に転居にかかった費用のうち、対象となる経費の実費が支払われます。ただし、無制限ではなく、世帯人数や転居先の自治体によって上限額が定められています。
支給上限額の計算方法
支給上限額は、原則として「転居先の自治体の住宅扶助基準に基づく額 × 3」で計算されます。この「住宅扶助基準額」は、生活保護制度で定められている家賃の上限額のことで、地域や世帯人数によって異なります。そのため、同じ世帯人数でも、どこに引っ越すかによって支給上限額が変わるのが特徴です。
支給上限額の具体例(自治体により異なります)
自治体によって上限額は大きく異なります。以下にいくつかの市の例を掲載しますが、必ずご自身が転居を検討している自治体の窓口にご確認ください。
| 世帯人数 | 千葉県鎌ケ谷市の例 | 東京都中野区の例 | 福岡県太宰府市の例 |
|---|---|---|---|
| 単身世帯 | 159,000円 | 279,200円 | 96,000円 |
| 2人世帯 | 171,000円 | 300,000円 | 114,000円 |
| 3人世帯 | 186,000円 | 324,000円 | 123,300円 |
※上記はあくまで一例です。最新の情報は各自治体の公式サイト等でご確認ください。
③ 対象者と詳しい条件
この給付金を受けるためには、いくつかの要件をすべて満たす必要があります。ここでは、主な要件を分かりやすく解説します。
- 収入減少の要件:離職・廃業から2年以内、または自身の責任や都合によらない休業等で収入が著しく減少していること。
- 生計維持の要件:収入が減少する前は、世帯の生計を主として維持していたこと。
- 収入要件:申請月の世帯全員の収入合計額が、自治体の定める「収入基準額」以下であること。
- 資産要件:申請日の世帯全員の金融資産(預貯金、現金等)の合計額が、自治体の定める「資産上限額」以下であること。
- 家計改善の要件:自立相談支援機関の「家計改善支援」を受け、転居することが家計の改善に必要不可欠であり、その費用を捻出することが困難であると認められること。
- その他の要件:暴力団員でないこと、類似の公的給付を受けていないことなど。
収入・資産要件の目安(神奈川県座間市の例)
収入基準額と資産上限額は自治体によって異なります。ここでは神奈川県座間市の例を見てみましょう。
| 世帯人数 | 収入基準額(上限) | 金融資産上限額 |
|---|---|---|
| 単身世帯 | 125,000円 | 504,000円 |
| 2人世帯 | 179,000円 | 780,000円 |
| 3人世帯 | 225,000円 | 1,000,000円 |
※収入基準額は「基準額+家賃額(上限あり)」で計算されます。実際の家賃額によって変動します。
※ご自身の状況が対象になるか不明な場合は、迷わず相談窓口に問い合わせましょう。
④ 何に使える?補助対象となる経費
引越しには様々な費用がかかりますが、この給付金で補助される経費と、対象にならない経費が明確に決まっています。
支給対象となる経費
- 転居先の初期費用:礼金、仲介手数料、家賃債務保証料、火災保険料など
- 家財の運搬費用:引越し業者に支払う費用
- 原状回復費用:退去時のハウスクリーニング代など
- 鍵交換費用
支給対象とならない経費
- 敷金:退去時に返還される可能性があるため対象外です。
- 契約時の家賃(前家賃):これは家賃補助の領域となるため対象外です。
- 家財や設備の購入費:エアコン、照明、カーテンなどの購入費用は対象外です。
⑤ 申請方法と具体的な手順
申請は、いきなり書類を提出するのではなく、まず自立相談支援機関に相談することから始まります。相談から支給までは数ヶ月かかることもあるため、早めに動き出すことが重要です。
- Step 1: 自立相談支援機関へ相談予約
まずはお住まいの地域の自立相談支援機関に電話などで連絡し、相談の予約を取ります。全国の窓口はこちらの一覧から探せます。 - Step 2: 家計改善支援を受ける
専門の相談員と面談し、現在の収入や支出、家族構成などを詳しく伝えます。相談員と一緒に家計の状況を整理し、なぜ転居が必要なのか、転居によってどのように家計が改善するのかを具体的に計画していきます。 - Step 3: 「要転居証明書」の発行
家計改善支援の結果、相談員が「転居が必要」と判断した場合、「住居確保給付金要転居証明書」という書類が発行されます。これが申請に必須となります。 - Step 4: 必要書類の準備と提出
証明書が発行されたら、以下の必要書類を揃えて窓口に提出します。- 住居確保給付金支給申請書
- 住居確保給付金申請時確認書
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
- 収入が確認できる書類(給与明細、預金通帳の写し等)※世帯全員分
- 資産が確認できる書類(預金通帳の写し等)※世帯全員分
- 離職や収入減を証明する書類(離職票、申立書等)
- 入居予定住宅に関する状況通知書(不動産会社に記入を依頼)
- 住居確保給付金要転居証明書
- その他、自治体が必要とする書類
- Step 5: 審査と支給決定
提出された書類を元に自治体が審査を行います。審査には数週間から1ヶ月程度かかる場合があります。無事に審査を通過すると、支給決定通知が届きます。 - Step 6: 給付金の支給
給付金は、原則として申請者本人ではなく、不動産会社や引越し業者などの口座へ自治体から直接振り込まれます(代理納付)。
⑥ 支給決定のポイントと注意点
支給を受けるためのコツ
- 正直に、具体的に相談する:相談員に現状を隠さず正直に話すことが最も重要です。家計の状況や困っていることを具体的に伝えることで、最適な支援計画を一緒に立てることができます。
- 家計改善への意欲を見せる:この制度は、家計を立て直す意欲のある人を支援するものです。「転居を機に家計を見直し、自立したい」という前向きな姿勢を示すことが大切です。
- 書類は不備なく丁寧に準備する:必要書類は多岐にわたります。リストを確認し、漏れや記入ミスがないように丁寧に準備しましょう。不明な点はすぐに窓口に確認することが、スムーズな審査につながります。
よくある不支給理由と注意点
時間に余裕を持つこと:相談から支給決定、そして実際の振込までには1ヶ月〜2ヶ月以上かかるケースも珍しくありません。「来週引っ越したい」といった急な要望には対応できないため、時間に余裕を持って相談を開始してください。
不支給となる主な理由には、「収入・資産要件を超えている」「家計改善支援のプロセスを経ていない」「転居の必要性が認められない」などがあります。特に、単に「もっと良い家に住みたい」という理由では認められず、あくまで家計全体の支出削減につながる転居であることが前提となります。
⑦ よくある質問(FAQ)
- Q1. 転居先の家賃が今より高くなっても対象になりますか?
-
A1. はい、対象になる可能性があります。例えば、転居によって職場や病院に近くなり、交通費が大幅に削減されるなど、家計全体の支出が削減されると認められれば、家賃が多少上がっても対象となる場合があります。これは家計改善支援の中で総合的に判断されます。
- Q2. 現在無職ですが、申請できますか?
-
A2. はい、申請できます。この制度は離職された方を主な対象としています。ただし、家賃補助の住居確保給付金では求職活動が要件となりますが、転居費用補助の場合は、まず家計の立て直しが優先されます。今後の生活設計についても相談員と一緒に考えていくことになります。
- Q3. 生活保護との違いは何ですか?
-
A3. 住居確保給付金は、生活保護に至る前の段階で自立を支援するための制度です。生活のあらゆる側面を支える生活保護とは異なり、この制度は「転居費用」という特定の目的に絞った支援です。なお、生活保護を受給している方は、この給付金の対象外となります。
- Q4. 相談だけでも大丈夫ですか?
-
A4. もちろんです。自立相談支援機関は「断らない相談支援」を掲げています。自分が対象になるか分からない場合でも、まずは気軽に相談してみてください。転居費用補助だけでなく、あなたの状況に合った他の支援制度を紹介してもらえる可能性もあります。
- Q5. 一度受給したら、もう二度と受けられませんか?
-
A5. いいえ、再支給の制度があります。受給後に再び予期せぬ離職や収入減があり、かつ前回の支給終了から1年以上経過しているなど、一定の要件を満たせば再度申請することが可能です。諦めずにまずは相談窓口に連絡してください。
⑧ まとめ:まずは一歩、相談から始めよう
住居確保給付金(転居費用補助)は、経済的な困難から生活を立て直そうとする人々にとって、非常に心強いセーフティネットです。引越しの初期費用という大きな壁を乗り越えるための、国による手厚い支援と言えるでしょう。
重要ポイントの再確認
- 離職や収入減で困窮している人が対象
- 引越しの初期費用や運搬費などを補助
- 支給上限額は自治体や世帯人数で異なる
- 申請前に「自立相談支援機関」での相談が必須
- 家計改善への意欲が重要
もしあなたが今、住まいのことで悩んでいるなら、一人で抱え込まずに、まずは勇気を出してお住まいの地域の相談窓口に連絡してみてください。専門の相談員が、あなたの状況に寄り添い、最適な解決策を一緒に見つけてくれるはずです。