「親から相続した実家が空き家になっている」「古くて倒壊しそうな空き家をどうにかしたいけど、解体費用が高くて手が出せない…」そんなお悩みを抱えていませんか?実は、多くの自治体で老朽化して危険な空き家の解体費用を補助する制度が用意されています。この制度をうまく活用すれば、自己負担を大幅に抑えて、長年の懸案事項だった空き家問題を解決できるかもしれません。この記事では、全国の自治体で実施されている「老朽危険空家等除却補助金」について、対象となる空き家の条件、補助金額、申請方法から採択されるためのポイントまで、専門家が徹底的に解説します。あなたの空き家も対象になるか、ぜひ最後までご確認ください。
この記事のポイント
- 老朽化した危険な空き家の解体費用に、最大100万円程度の補助金が受けられる可能性がある。
- 補助対象になるには、自治体による「危険度」の判定や事前調査が必要な場合が多い。
- 申請の基本は「工事契約前」。交付決定前に着工すると補助対象外になるため注意が必要。
- 申請手続きや要件は自治体ごとに異なるため、まずはお住まいの市区町村窓口への相談が第一歩。
① 老朽危険空き家解体補助金の概要
制度の目的と背景
この補助金は、正式には「老朽危険空家等除却補助金(支援事業)」などと呼ばれ、全国の多くの市区町村が実施しています。その主な目的は、倒壊の恐れがある危険な空き家を減らし、地域の安全確保と住環境の改善を図ることです。近年、人口減少や高齢化に伴い、管理されずに放置される空き家が増加し、防災・防犯・景観上の問題となっています。特に、地震や台風などの自然災害時に倒壊すれば、近隣住民の生命や財産に甚大な被害を及ぼす可能性があります。そこで、所有者が自主的に空き家を解体(除却)する際の経済的負担を軽減し、危険な空き家の解消を促進するために、この補助金制度が設けられています。
実施組織
この制度の実施主体は、国ではなく、空き家が所在する市区町村です。そのため、制度の有無、補助金の名称、金額、対象要件、申請期間などは自治体によって大きく異なります。ご自身の空き家が対象になるかを確認するためには、まずその空き家がある市区町村の役所(建築指導課、住宅政策課、危機管理課など)のウェブサイトを確認するか、直接問い合わせることが不可欠です。
② 補助金額・補助率
補助金額や補助率は、自治体の予算や制度設計によって様々ですが、一般的には解体工事費の一部を補助する形となります。多くの自治体で「補助対象経費の〇分の〇」という補助率と「上限〇〇万円」という上限額が定められています。
補助金額の具体例(各自治体のケース)
以下に、いくつかの自治体の例を挙げて、補助金額の相場観を見てみましょう。
| 自治体名 | 補助率 | 上限額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 大阪府和泉市 | 定額 | 40万円 | 先着15件程度 |
| 愛知県名古屋市 | 1/3 または 2/3 | 最大80万円 | 危険度評価の点数により変動 |
| 長野県松本市 | 1/2 | 50万円 | 事前調査で「老朽危険空家等」と判定される必要あり |
| 大分県大分市 | 1/2 または 23/100 | 最大100万円 | 老朽度や耐震性の有無で2種類に分類 |
| 福井県福井市 | 1/2など | 最大100万円 | 跡地利用の方法によって上限額が変動 |
このように、補助率は解体費用の1/3~1/2程度、上限額は40万円~100万円程度が一般的です。ただし、建物の危険度が高い場合や、解体後の土地を地域のために活用する場合などは、補助率や上限額が優遇されるケースもあります。
③ 対象者・対象となる空き家の条件
補助金を受けるためには、申請者(人)と対象物件(空き家)の両方が、定められた要件を満たす必要があります。
対象者(申請できる人)の主な要件
- 対象となる空き家の所有者(個人)またはその法定相続人であること。(法人は対象外の場合が多い)
- 共有名義の場合は、共有者全員の同意を得ていること。
- 市税(住民税や固定資産税など)を滞納していないこと。
- 暴力団員または暴力団と密接な関係を有していないこと。
- 過去に同じ補助金の交付を受けていないこと。
対象となる空き家の主な要件
重要:単に古い、誰も住んでいないというだけでは対象になりません。最も重要なのは「周辺に危険を及ぼす状態である」と自治体に認定されることです。
- 危険度の判定:自治体の職員による現地調査の結果、評点方式などで「不良度が高い」「危険性が著しい」と判定されたもの。(例:名古屋市では評価75点以上、大分市では100点以上など)
- 特定空家等:「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、自治体から「特定空家等」に認定またはそれに準ずる状態と判断されたもの。
- 建築時期:耐震性の観点から「昭和56年5月31日以前に着工された木造住宅」といった旧耐震基準の建物を要件とする自治体が多い。(例:松本市、福井市など)
- 使用状況:1年以上など、一定期間以上居住その他の使用がなされていないこと。
- 権利関係:所有権以外の権利(抵当権など)が設定されていないこと。設定されている場合は、権利者全員の同意が必要。
- 公共事業の補償対象となっていないこと。
④ 補助対象経費
補助金の計算の基となる「補助対象経費」に含まれるもの、含まれないものをしっかり把握しておくことが重要です。
対象となる経費
- 解体工事費:建物本体の取り壊しにかかる費用。
- 廃材の運搬・処分費:解体によって生じた木材、コンクリートガラなどの産業廃棄物を適正に処理するための費用。
- 付帯物の撤去費用:門、塀、ブロック塀、庭木、物置など、建物と一体的に撤去する場合の費用。(※自治体により対象外の場合あり)
対象とならない経費
- 家財道具の処分費:建物内に残された家具、家電、衣類などの処分費用。
- 地中埋設物の撤去費用:解体工事中に発見された浄化槽や井戸、基礎以外のコンクリート塊などの撤去費用。
- アスベスト除去費用:別途専門の補助金制度がある場合があります。
- 消費税及び地方消費税
⑤ 申請方法・手順
申請から補助金受領までの流れは、多くの自治体で共通しています。特に「交付決定通知」を受け取る前に工事契約や着工をしてはいけないという点が最重要ポイントです。
- 事前相談・事前調査申込:まずは役所の担当窓口に相談します。多くの自治体で、補助金申請の前に職員による現地調査が必要です。この調査で、補助対象となる「危険な空き家」に該当するかどうかが判断されます。
- 解体業者から見積取得:複数の解体業者(自治体によっては市内業者限定の場合あり)から見積もりを取ります。
- 補助金交付申請:事前調査で対象になると判断されたら、申請書に必要書類を添えて提出します。申請期間は4月頃から翌年1月頃までが多いですが、予算額に達し次第、期間内でも受付終了となるため、早めの行動が肝心です。
- 補助金交付決定通知:市が申請内容を審査し、問題がなければ「交付決定通知書」が送付されます。通常、申請から2~3週間かかります。
- 工事契約・着工:必ず交付決定通知書が手元に届いてから、解体業者と工事契約を結び、工事を開始します。
- 工事完了・支払い:工事が完了したら、業者に工事費用を全額支払います。
- 実績報告:工事完了後、定められた期間内(例:完了後30日以内)に、実績報告書、契約書や領収書の写し、工事前後の写真などを市に提出します。
- 補助金額の確定通知:市が実績報告を審査し、補助金額を確定させ、「額の確定通知書」を送付します。
- 補助金請求・受領:確定通知に基づき、補助金交付請求書を提出します。その後、指定した口座に補助金が振り込まれます。
主な必要書類リスト
- 補助金交付申請書
- 建物の位置図、現況写真
- 建物の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産税の課税明細書の写し
- 解体工事の見積書の写し
- 申請者の住民票、市税の納税証明書
- 【相続人が申請する場合】戸籍謄本など相続関係がわかる書類
- 【共有者がいる場合】共有者全員の同意書
※上記は一般的な例です。必ず申請する自治体の要綱をご確認ください。
⑥ 採択のポイント・注意点
採択率を高めるコツ
- 早めに相談・申請する:多くの自治体で先着順や予算上限が設けられています。年度初めの4月~6月頃に相談を開始し、早めに申請準備を進めることが重要です。
- 危険性を客観的に示す:事前調査の際には、屋根の崩落、壁の傾き、基礎のひび割れなど、具体的な危険箇所を職員にしっかり伝えることが大切です。写真などの資料を準備しておくと良いでしょう。
- 書類の不備をなくす:申請書類に不備があると、審査が遅れたり、受付が後回しになったりする可能性があります。提出前には、リストと照らし合わせて何度も確認しましょう。
よくある不採択理由と注意点
- 交付決定前の工事契約・着工:これが最も多い失敗例です。絶対にフライングしてはいけません。
- 危険度の基準未達:単に古いだけで、自治体の定める危険度の基準に達していないと判断された場合。
- 予算・件数の上限到達:申請が遅れ、すでにその年度の予算枠が埋まってしまった場合。
- 解体後の土地の管理:解体して更地にした後、雑草が繁茂するなど管理を怠ると、近隣トラブルの原因になります。解体後の土地管理計画も考えておきましょう。
- 固定資産税の変動:住宅が建っている土地は「住宅用地の特例」により固定資産税が減額されています。建物を解体して更地にすると、この特例が適用されなくなり、翌年度からの固定資産税が3~4倍に上がることがあります。事前に税額がどのくらい変わるか、役所の税務課に確認しておくことを強くお勧めします。
⑦ よくある質問(FAQ)
- Q1. どんな空き家でも対象になりますか?
-
A1. いいえ、対象になりません。あくまで「老朽化し、周辺に危険を及ぼす恐れがある」と自治体に認定された空き家が対象です。自己判断せず、まずは自治体の事前調査を受ける必要があります。
- Q2. 補助金はいつもらえますか?
-
A2. 補助金は、解体工事が完了し、業者への支払いを済ませた後、実績報告書などを提出した後に振り込まれる「精算払い(後払い)」が基本です。一時的に解体費用を全額立て替える必要がありますので、資金計画にご注意ください。一部自治体では、業者に直接補助金が支払われる「代理受領制度」を設けている場合もあります。
- Q3. 解体業者はどこに頼めばいいですか?
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A3. 自治体が特定の業者を斡旋することはありません。ご自身で探す必要がありますが、自治体によっては「市内に本店または支店がある業者」といった要件を設けている場合があります。複数の業者から見積もりを取り、費用や対応を比較検討することをお勧めします。
- Q4. 相続登記が済んでいない空き家でも申請できますか?
-
A4. 申請できる場合がありますが、戸籍謄本などでご自身が法定相続人であることを証明する必要があります。また、他に相続人がいる場合は、全員の同意書が必須となります。手続きが複雑になる可能性があるため、早めに自治体に相談してください。
- Q5. 補助金を使わずに解体した場合、何かメリットはありますか?
-
A5. 相続した家屋を解体して土地を売却した場合、「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家3,000万円特別控除)」という税制優遇を受けられる可能性があります。この特例を受けるためには様々な要件がありますので、詳しくは税務署や税理士にご相談ください。
⑧ まとめ:まずは自治体への相談から始めよう
老朽危険空き家の解体補助金は、所有者の経済的負担を軽減し、地域の安全を守るための非常に有効な制度です。しかし、その内容は自治体ごとに異なり、申請には多くのステップと注意点が存在します。
この記事で解説したポイントを参考に、まずはご自身の空き家が所在する市区町村のウェブサイトで制度の有無を確認し、担当窓口に相談することから始めてみましょう。補助金を賢く活用し、長年の悩みの種であった空き家問題をスッキリ解決するための一歩を踏み出してください。