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手話通訳・要約筆記の派遣制度をご存知ですか?
聴覚に障がいのある方などが社会生活を送る上で、円滑なコミュニケーションは不可欠です。しかし、病院での受診、役所での手続き、学校行事への参加など、専門的な内容や正確な情報伝達が求められる場面では、コミュニケーションに困難が生じることがあります。こうした課題を解決するため、多くの自治体で「意思疎通支援者(手話通訳者・要約筆記者)派遣事業」が実施されています。
この制度は、聴覚障がいのある方個人だけでなく、市民向けのイベントや説明会を開催する事業者の方も利用できる、非常に重要な社会インフラです。この記事では、意思疎通支援者派遣制度の概要、対象者、費用、申請方法について、各自治体の事例を交えながら詳しく解説します。
【事業者必見】合理的配慮の提供義務化と派遣制度の活用
2024年4月1日に改正障害者差別解消法が施行され、これまで努力義務だった事業者による障がいのある人への「合理的配慮の提供」が義務化されました。これは、障がいのある方から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合に、過重な負担にならない範囲で、社会的障壁を取り除くための必要かつ合理的な配慮を行うことを求めるものです。
例えば、以下のような場面で聴覚障がいのある参加者から要望があった場合、事業者は手話通訳者や要約筆記者を手配するなどの配慮を提供する必要があります。
- 企業説明会やセミナー
- 講演会やシンポジウム
- 施設の案内や窓口での対応
- 採用面接や社内研修
「通訳者の手配方法がわからない」「費用負担が心配」と感じる事業者の方も多いかもしれませんが、その際に活用できるのが、まさにこの自治体の意思疎通支援者派遣制度です。豊田市のように、ウェブサイトで事業者向けに制度利用を明確に呼びかけている自治体も増えています。自社で手配する前に、まずは自治体の制度が利用できないか確認することをおすすめします。
意思疎通支援者派遣制度の概要
この制度は、聴覚や言語機能に障がいがあり、コミュニケーションに支援が必要な方のために、自治体が費用を負担して手話通訳者や要約筆記者を派遣するものです。
手話通訳と要約筆記の違い
支援には大きく分けて2つの方法があります。
手話通訳
音声言語(話し言葉)を手話に、手話を音声言語に変換して通訳します。手話を主なコミュニケーション手段とする方向けの支援です。
要約筆記
話の内容をその場で要約し、文字にして伝えます。手話がわからない方や、難聴、中途失聴の方など、文字による情報保障を必要とする方向けの支援です。パソコンや専用の機材を使う方法と、手書きで行う方法があります。
制度の対象者と派遣対象となる場面
対象となる方
制度の対象者は、主に以下の通りです。自治体によって詳細な要件は異なります。
- 聴覚障がい者等:対象の自治体内に居住する聴覚、音声・言語機能に障がいのある方。
- 事業者等:広く市民を対象とした事業(イベント、説明会など)を行う個人、団体、企業。
- その他:聴覚障がい者等で構成される団体やその家族など。
派遣対象となる主な場面(用務)
日常生活から社会参加に関わる幅広い場面で利用が可能です。
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| 医療・保健 | 病院の受診、健康診断、予防接種、保健指導など |
| 行政・公的機関 | 市役所での手続き(住民登録、税申告)、公的機関への相談など |
| 教育 | 学校行事(入学式、卒業式、保護者会)、三者面談、PTA活動など |
| 職業・労働 | 就職活動(面接、説明会)、職業訓練など |
| 地域活動・生活 | 地域の会合、役員活動、冠婚葬祭、生活に必要な契約など |
| その他 | 教養・自己啓発のための講習会、事業者が開催するイベントなど |
【注意】派遣対象外となるケース
一方で、以下のような場合は派遣の対象外となることが一般的です。
- 営利を目的とした経済活動(営業活動など)
- 政治活動、宗教活動
- 長期間にわたる継続的な派遣(通勤、通学など)
- 社会通念上、派遣が適当でないと判断されるもの
費用はかかる?
多くの場合、原則として公費で負担されるため、利用者の費用負担はありません。
ただし、自治体や派遣内容によっては、以下のような費用負担が発生する場合があります。
- 事業者負担:営利目的のイベントなど、事業主催者が費用を負担するケース。(例:新潟県では報償費や旅費が定められています)
- 実費負担:派遣された通訳者の交通費や、イベント等の入場料が必要な場合の費用は、利用者が負担することがあります。(例:中央区)
- 経過措置:法改正に伴い、これまで対象外だった用務(事業者主催のイベント等)を、経過措置として当面の間は公費負担としている自治体もあります。(例:豊田市)
費用に関する規定は自治体によって大きく異なるため、申請前に必ず確認しましょう。
申請方法と注意点
一般的な申請の流れ
- 派遣の相談・依頼:お住まいの市区町村の障がい福祉担当課や、事業を委託されている社会福祉協議会、聴覚障害者協会などに連絡します。
- 申請書の提出:指定の申請書に必要事項(日時、場所、内容など)を記入し、窓口、郵送、FAX、電子申請システムなどで提出します。
- 派遣決定の通知:自治体で調整後、派遣の可否や派遣される通訳者について連絡があります。
- 派遣当日:事前に打ち合わせた場所・時間で通訳者と合流し、支援を受けます。
申請期限に注意!
通訳者の調整には時間が必要です。申請には期限が設けられているため、派遣を希望する日が決まったら、できるだけ早く申し込むことが重要です。
- 個人申請の場合:派遣希望日の7日~10日前まで
- 事業者申請の場合:派遣希望日の3週間前まで
上記はあくまで目安です。急病や事故などの緊急時は、柔軟に対応してくれる場合がほとんどですので、まずは窓口に相談してみてください。
各自治体の事例紹介
参考として、いくつかの自治体の制度をご紹介します。お住まいの地域でも同様の制度があるか、ぜひご確認ください。
| 自治体 | 申請先 | 申請期限(目安) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 愛知県豊田市 | 市役所障がい福祉課 | 個人:10日前 事業者:3週間前 |
事業者向け派遣を経過措置で公費負担。電子申請対応。 |
| 新潟県 | 新潟県聴覚障害者協会 | 早めに申込 | 事業者等からの申請を受け付け。費用負担(報償費・旅費)が明確。 |
| 栃木県宇都宮市 | 手話:障害者福祉会連合会 要約筆記:社会福祉協議会 |
ー | 夜間・休日の緊急派遣(FAX・メール)に対応。市役所窓口に設置通訳者あり。 |
| 神奈川県平塚市 | 市役所障がい福祉課 | 7日前 | 電子申請対応。市役所窓口に設置通訳者あり。 |
| 東京都中央区 | 中央区社会福祉協議会 | 5日前 | 月20時間以内の時間制限あり。通訳者の交通費は利用者負担。 |
まとめ
意思疎通支援者派遣事業は、聴覚に障がいのある方の社会参加を支えるとともに、合理的配慮の提供が義務化された事業者にとっても、共生社会を実現するための重要なツールです。この制度をうまく活用することで、より多くの人が安心して社会活動に参加できる環境が整います。
「自分のまちにも制度があるだろうか?」「こんな場面でも使えるだろうか?」と思ったら、まずはお住まいの市区町村の障がい福祉担当課に問い合わせてみましょう。必要な情報を得て、ぜひこの制度をご活用ください。