詳細情報
「障がいがあっても、意欲と能力を活かして働きたい」そう願う方を力強くサポートする制度が、大阪市と堺市で実施されている「重度障がい者等就業支援事業」です。この事業は、重度の障がいがある方が働くうえで直面する、通勤中や職場での介助の課題を解決することを目的としています。具体的には、就業中に必要となる日常生活上の支援(ヘルパーによる介助など)にかかる費用を自治体が支援するものです。これにより、これまで就労を諦めていた方も、安心して社会参加への一歩を踏み出すことが可能になります。この記事では、大阪市・堺市の重度障がい者等就業支援事業について、対象者や支援内容、申請方法などを誰にでも分かりやすく徹底解説します。
この記事のポイント
- 大阪市・堺市在住の重度障がいがある方の就労を支援する制度
- 通勤中や職場での日常生活上の介助費用をサポート
- 民間企業で働く方だけでなく、自営業者も対象
- 国の助成金と連携し、手厚い支援体制を構築
- 利用者負担は原則1割で、所得に応じた上限額あり
① 重度障がい者等就業支援事業の概要
まずは、この事業がどのようなものなのか、全体像を掴んでいきましょう。
正式名称と実施組織
この事業は、各自治体が主体となって実施しています。
- 正式名称: 大阪市重度障がい者等就業支援事業 / 堺市重度障害者等就業支援事業
- 実施組織: 大阪市 / 堺市
目的・背景
本事業の目的は、働く意欲と能力がありながらも、障がいを理由に働くことが困難な方々を支援することです。通勤や職場での食事、排泄、移動などに介助が必要な場合、その支援を公的に提供することで、障がいのある方の就労機会を拡大し、積極的な社会参加を促進することを目指しています。
国の助成金との連携がカギ!
民間企業で働く場合、この事業は国の雇用施策と連携して行われます。具体的には、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が実施する「重度訪問介護サービス利用者等職場介助助成金」や「重度訪問介護サービス利用者等通勤援助助成金」をまず活用します。そして、その国の助成金だけではカバーしきれない部分を、この市区町村の事業が補うという、二段構えの手厚い支援体制が特徴です。
② 支援内容と利用者負担額
具体的にどのような支援が受けられ、自己負担はどれくらいになるのかを見ていきましょう。
支援される内容(補助対象サービス)
支援の対象となるのは、就業中、通勤中、休憩時間中における日常生活上の介助です。重要なのは、仕事の業務そのものを代行するのではなく、あくまで業務を遂行するために必要な身体的な介助や移動の支援が中心となる点です。
- 食事や水分補給の介助
- トイレへの移動、排泄の介助
- 着替えの介助
- 職場内での移動支援
- 通勤時の移動支援(公共交通機関の乗降など)
- 喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケア
- 体位の変換(デスクワーク中の姿勢変更など)
一方で、電話対応や書類作成、データ入力といった業務そのものは支援の対象外となります。
利用者負担額(自己負担)
サービスの利用にかかる費用のうち、原則として1割が自己負担となります。ただし、家計への負担が重くなりすぎないよう、所得に応じた月額の負担上限額が設けられています。これは通常の障がい福祉サービスとは別の負担額となります。
| 所得区分 | 大阪市の負担上限月額 | 堺市の負担上限月額 |
|---|---|---|
| 生活保護世帯 | 0円 | 0円 |
| 市町村民税非課税世帯 | 0円 | 0円 |
| 市町村民税課税世帯 | 3,000円 | 4,000円 |
このように、大阪市と堺市で課税世帯の負担上限額に違いがあります。ご自身の状況に合わせてご確認ください。
③ 対象者・条件
この事業を利用できるのは、以下のすべての要件を満たす方です。
- 居住地: 大阪市内または堺市内にお住まいの方
- 障がい福祉サービス: 重度訪問介護、同行援護、行動援護のいずれかの支給決定を受けている方(または同等の要件を満たす方)
- 就労形態: 以下のいずれかに該当する方
- 民間企業に雇用されている方: 1週間の所定労働時間が10時間以上であること。(※今後10時間以上になる見込みの場合も対象となることがあります)
- 自営業者の方: 1週間の従事時間が10時間以上で、事業により所得の向上が見込まれること。
対象外となるケース
・公務員の方
・就労継続支援A型事業所の利用者の方
④ 申請方法・手順
申請手続きは、「民間企業で働く方」と「自営業者の方」で流れが少し異なります。ここではそれぞれのケースに分けて、ステップバイステップで解説します。
ケース1:民間企業にお勤めの方
民間企業の場合は、国の助成金制度との連携が必須となります。
- 関係者による協議と支援計画書の作成:
まず、ご本人、勤務先の企業、市区町村の担当者、相談支援専門員、サービス提供事業者などが集まり、どのような支援がどれくらい必要かを話し合います。その内容を「支援計画書」にまとめます。 - 企業からJEEDへ国の助成金申請:
作成した支援計画書を添付し、勤務先の企業がJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)へ国の助成金を申請します。 - JEEDによる計画書の確認:
JEEDが支援計画書の内容を確認します。 - ご本人から市区町村へ事業の利用申請:
JEEDの確認を受けた支援計画書を添えて、お住まいの市区町村の担当窓口(区役所など)に本事業の利用を申請します。 - 市区町村による審査・支給決定:
市区町村が申請内容を審査し、利用が決定されると「支給決定通知書」と「受給者証」が交付されます。 - サービス利用開始:
受給者証をサービス提供事業者に提示し、契約を結んで支援がスタートします。
ケース2:自営業者の方
自営業者の場合は、国の助成金の対象外となるため、市区町村の事業単独での支援となります。手続きはよりシンプルです。
- 関係者による協議と支援計画書の作成:
ご本人、市区町村の担当者、相談支援専門員、サービス提供事業者などで必要な支援内容を協議し、「支援計画書」を作成します。 - ご本人から市区町村へ事業の利用申請:
作成した支援計画書などを添えて、お住まいの市区町村の担当窓口に事業の利用を申請します。 - 市区町村による審査・支給決定:
市区町村が申請内容を審査し、利用が決定されると「支給決定通知書」と「受給者証」が交付されます。 - サービス利用開始:
受給者証をサービス提供事業者に提示し、契約を結んで支援がスタートします。
必要書類リスト
- 重度障がい者等就業支援費支給申請書(各市の様式)
- 支援計画書
- 障がい福祉サービス受給者証の写し
- サービス等利用計画書の写し
- 雇用契約書の写しなど(民間企業雇用の場合)
- 個人事業の開業届の写しなど(自営業の場合)
- その他、市区町村が必要と認める書類
⑤ 採択のポイント
この事業をスムーズに利用するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
「支援計画書」の具体性が最も重要
審査の核となるのが「支援計画書」です。「いつ」「どこで」「誰が」「どのような支援を」「何時間」行うのかを、具体的かつ明確に記載する必要があります。曖昧な計画では、本当にその支援が必要なのかが伝わらず、審査が難航する可能性があります。ご本人、企業、支援者が一体となって、現実的で詳細な計画を練り上げることが採択への近道です。
関係機関との密な連携
特に民間企業で働く場合、企業側の理解と協力が不可欠です。国の助成金申請は企業が行うため、人事や総務の担当者と日頃からコミュニケーションを取り、制度について説明しておくことが大切です。また、相談支援専門員や利用予定のサービス提供事業者にも早めに相談し、チームとして申請準備を進めることが成功の鍵となります。
よくある不採択・遅延理由
- 要件不備: 労働時間が週10時間に満たない、対象となる障がい福祉サービスを受けていないなど。
- 支援計画書の不備: 支援内容が曖昧、必要性が不明確、業務内容そのものの支援が含まれているなど。
- 書類の不足: 必要な書類が揃っていない。
- 国の助成金との連携不足: 民間企業雇用にもかかわらず、JEEDへの申請手続きが進んでいない。
⑥ よくある質問(FAQ)
- Q1. 週10時間未満のパートでも対象になりますか?
- A1. 原則として週10時間以上が要件ですが、申請年度の末までに10時間以上に引き上げられることが見込まれる場合は対象となる可能性があります。勤務先と相談の上、市区町村の担当窓口にご確認ください。
- Q2. 国の助成金(JEED)との違いは何ですか?
- A2. 国の助成金は、障がい者を雇用する「企業」に対して支給されるものです。一方、市区町村の就業支援事業は、サービスを利用する「障がい者本人」に対して支援費を支給する(代理受領が一般的)制度です。民間企業で働く方は、これら二つの制度を組み合わせて利用することで、より手厚い支援を受けることができます。
- Q3. 申請から利用開始までどれくらいかかりますか?
- A3. 関係者との調整や支援計画書の作成、審査などに時間がかかるため、数ヶ月程度を見込んでおくとよいでしょう。特に民間企業の場合はJEEDとの手続きも挟むため、余裕を持ったスケジュールで準備を始めることをお勧めします。
- Q4. 支援してくれるヘルパー(従事者)は自分で探すのですか?
- A4. はい、普段利用している重度訪問介護などのサービス提供事業者の中から、この事業に対応してくれる事業者を探し、契約する必要があります。まずは担当の相談支援専門員やケアマネジャー、現在利用中の事業所に相談してみましょう。
- Q5. テレワーク(在宅勤務)でも利用できますか?
- A5. 在宅での就業中に、業務遂行に必要な日常生活上の介助(食事や排泄の介助など)が必要な場合は、対象となる可能性があります。ただし、私的な生活時間との切り分けなど、支援計画書で明確にする必要がありますので、詳しくは市区町村の担当窓口にご相談ください。
⑦ まとめ・行動喚起
大阪市・堺市の「重度障がい者等就業支援事業」は、障がいのある方の「働きたい」という思いを具体的に形にするための、非常に価値ある制度です。
重要ポイントの再確認
- 対象者: 大阪市・堺市在住で重度訪問介護などを利用し、週10時間以上働く(または働く見込みの)方。
- 支援内容: 通勤・就業中の日常生活介助にかかる費用の9割を支援。
- 自己負担: 原則1割。所得に応じた月額上限あり(大阪市3,000円、堺市4,000円)。
- 申請の鍵: 具体的な「支援計画書」の作成と、企業や支援者との連携。
この制度を活用することで、これまで介助の問題で就労を躊躇していた方も、新たな可能性の扉を開くことができます。もし少しでも興味を持たれたら、まずは第一歩として、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、担当の相談支援専門員に相談してみてください。専門家があなたの状況に合わせたアドバイスをしてくれるはずです。
問い合わせ先
- 大阪市にお住まいの方:
福祉局 障がい者施策部 障がい支援課
電話: 06-6208-8245 - 堺市にお住まいの方:
健康福祉局 障害福祉部 障害福祉サービス課
電話番号: 072-228-7510