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ひきこもり支援推進事業とは?自治体の取り組みを国が強力にサポート
近年、ひきこもりは特別な問題ではなく、誰にでも起こりうる身近な課題として認識されています。内閣府の調査では、15歳から64歳までの約50人に1人がひきこもり状態にあると推計されており、その支援は社会全体の急務です。しかし、「どこから手をつければいいのか」「専門知識を持つ人材がいない」「財源の確保が難しい」といった課題を抱える自治体の担当者様も多いのではないでしょうか。
こうした課題を解決し、地域の実情に応じたきめ細やかな支援体制の構築を後押しするのが、厚生労働省の「ひきこもり支援推進事業」です。この事業は、市区町村が主体となって行う相談窓口の設置、居場所づくり、関係機関とのネットワーク構築などを財政的に支援するものです。この記事では、自治体のひきこもり支援ご担当者様に向けて、本事業の概要から具体的な補助対象メニュー、申請の流れ、採択のポイントまでを網羅的に解説します。
この記事のポイント
✓ ひきこもり支援推進事業の目的と全体像がわかる
✓ 自治体が活用できる具体的な補助対象事業メニューがわかる
✓ 申請から事業開始までの流れをステップバイステップで理解できる
✓ 事業計画を立てる上での重要なポイントがわかる
ひきこもり支援推進事業の概要
事業の目的と背景
ひきこもり支援推進事業は、ひきこもり状態にあるご本人やそのご家族が、より身近な地域で安心して相談でき、必要な支援を受けられる環境を整備することを目的としています。ひきこもりの背景や要因は一人ひとり異なり、画一的な支援では対応が困難です。そのため、本事業では市区町村が中心となり、地域の多様な社会資源と連携しながら、個々の状況に応じたオーダーメイドの支援体制を構築することを推進しています。
国は、令和7年度の当初予算案として16億円を計上し、地方自治体の取り組みを強力に支援する姿勢を示しています。
実施組織と全体像
この事業は厚生労働省 社会・援護局 地域福祉課が所管しています。事業の全体像は、住民に最も身近な「市区町村」が支援の最前線を担い、それを「都道府県・指定都市」が専門的な見地からバックアップし、「国」が制度設計や広報、人材育成を担うという重層的な構造になっています。
- 国:制度全体の設計、全国的な広報啓発(ひきこもりVOICE STATION)、支援者向け研修の実施、支援者自身のケア体制構築
- 都道府県・指定都市:ひきこもり地域支援センターの運営、市区町村への後方支援(専門的助言、合同訪問、財政支援)、広域的な連携体制の構築、人材養成研修
- 市区町村:住民からの相談対応、居場所づくり、関係機関ネットワーク(プラットフォーム)の構築、当事者会・家族会の開催支援など、地域に根差した支援の実施
補助金の対象となる事業メニュー
本事業では、市区町村がその地域の実情や支援体制の成熟度に応じて、段階的に取り組みを進められるよう、複数の事業メニューが用意されています。
| 事業メニュー | 主な実施主体 | 概要 |
|---|---|---|
| ひきこもりサポート事業 | 市区町村 | ひきこもり支援の導入として、8つのメニューから任意に選択して実施。相談窓口の周知や実態把握、居場所づくりなど、第一歩として始めやすい。 |
| ひきこもり支援ステーション事業 | 市区町村 | 支援の核となる「相談支援」「居場所づくり」「ネットワークづくり」を一体的に実施する事業。より本格的な支援体制を構築する。 |
| ひきこもり地域支援センター事業 | 都道府県・指定都市・市区町村 | 相談支援から普及啓発までを総合的に実施する地域の拠点。令和4年度から設置主体が市区町村にも拡充された。 |
新規で取り組む市町村への手厚い支援
これから新たにひきこもり支援を開始しようと検討している市区町村に対しては、準備費用への手厚い補助が用意されています。具体的には、地域の実態を把握するための調査費用や、居場所となる拠点の修繕費、必要な備品(PC、机、椅子など)の購入費などが対象となります。これにより、初期投資のハードルを下げ、多くの自治体が支援に乗り出しやすくなっています。
補助金額・補助率・対象経費
補助率について
本事業は「生活困窮者等支援推進事業費等補助金」の一部として交付されます。具体的な補助率は事業メニューや自治体の財政状況によって異なりますが、一般的には国の補助金として対象経費の1/2や2/3などが基準となります。詳細な補助率や上限額については、必ず国や都道府県が発行する最新の交付要綱や公募要領をご確認ください。
補助対象となる経費の具体例
補助の対象となる経費は、ひきこもり支援を直接実施するために必要な費用です。以下に主な例を挙げます。
- 人件費:ひきこもり支援コーディネーター、相談支援員、訪問支援員(サポーター)などの賃金・謝金
- 報償費:研修会の講師や、事例検討会のスーパーバイザーへの謝礼
- 旅費:訪問支援(アウトリーチ)や関係機関との連携会議への参加にかかる交通費
- 需用費:事務用品、パンフレット等の印刷製本費、居場所で提供するお茶代などの消耗品費
- 役務費:広報のための通信運搬費、ホームページ作成委託料、保険料
- 委託料:専門的な知見を持つNPO法人等への事業委託費用
- 使用料及び賃借料:居場所や相談室として使用する物件の賃借料
- 備品購入費:相談室や居場所で使用する机、椅子、PC、パーテーションなどの備品
- 工事請負費:居場所として活用する既存施設のバリアフリー改修などの小規模な修繕費
一方で、土地の取得や建物の新築にかかる費用、職員の恒常的な給与などは原則として対象外となります。
申請方法と事業開始までの流れ
市区町村が本事業を活用する際の一般的な流れは以下の通りです。詳細なスケジュールは都道府県によって異なるため、必ず担当部署にご確認ください。
ステップ1:情報収集と計画策定
まずは、所在する都道府県のひきこもり支援担当課に相談し、事業の詳細やスケジュール、申請の意向を伝えます。並行して、アンケート調査や関係機関へのヒアリングを通じて、地域内のひきこもり当事者の実態やニーズ、利用可能な社会資源を把握し、具体的な事業計画を策定します。
ステップ2:申請手続き
都道府県が定める期限までに、必要な申請書類を提出します。主に以下の書類が求められます。
- 事業計画書
- 収支予算書(経費積算内訳書)
- 実施主体の概要がわかる書類(組織図など)
- その他、都道府県が指定する書類
ステップ3:交付決定と事業開始
都道府県による審査を経て、交付が決定されると「交付決定通知書」が送付されます。この通知を受けて、正式に事業を開始することができます。
ステップ4:事業実施と実績報告
事業計画に沿って支援活動を実施します。事業年度が終了したら、速やかに「実績報告書」を都道府県に提出します。報告書には、事業の実施内容、成果、収支決算などを記載します。報告書に基づき補助金額が確定し、その後、請求手続きを経て補助金が支払われます。
採択されるための3つの重要ポイント
事業計画を策定する上で、特に重視すべきポイントを3つご紹介します。
1. 地域の実情に即した計画であるか
なぜこの事業が必要なのか、地域のどのような課題を解決しようとしているのかを、客観的なデータ(実態調査の結果など)に基づいて説明することが重要です。他の自治体の成功事例をそのまま模倣するのではなく、自分たちの地域の特性(人口、地理的条件、既存の社会資源など)を踏まえた独自の計画であることが求められます。
2. 多様な主体との連携体制が構築されているか
ひきこもり支援は、行政だけで完結するものではありません。福祉、医療、保健、教育、就労など、様々な分野の関係機関や、NPO、当事者会、家族会、民生委員、さらには地域の企業など、多様な主体とどのように連携し、支援のネットワーク(市町村プラットフォーム)を構築していくのかを具体的に示しましょう。それぞれの機関がどのような役割を担うのかを明確にすることがポイントです。
3. 支援の継続性と発展性が見込まれるか
補助金は事業をスタートさせるための起爆剤ですが、事業そのものは継続していくことが前提です。補助期間が終了した後も、どのように事業を継続・発展させていくのか、将来的なビジョンを示すことが重要です。「ひきこもりサポート事業」から始め、将来的には「支援ステーション事業」へ移行するなど、段階的なステップアップの計画も評価されます。
よくある質問(FAQ)
- Q1. NPO法人や個人が直接この補助金を申請することはできますか?
- A1. いいえ、できません。この事業は地方自治体(都道府県、指定都市、市区町村)を対象とした補助金です。ただし、NPO法人などが自治体から事業を受託する形で、ひきこもり支援に参画することは可能です。まずは所在地の市区町村の担当課にご相談ください。
- Q2. 「ひきこもり相談窓口の明確化」とは具体的に何をすればよいですか?
- A2. 自治体のホームページや広報誌などで、「ひきこもりに関する相談はこちら」と専門の窓口(担当課)を住民に分かりやすく示すことです。国は全ての自治体に対して相談窓口の明確化を依頼しており、令和5年度末時点で約85%の自治体が対応済みです。
- Q3. どのような人材を配置すればよいですか?
- A3. ひきこもり地域支援センターなどでは、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師などの専門資格を持つ「ひきこもり支援コーディネーター」の配置が推奨されています。また、訪問支援などを行う「ひきこもりサポーター」の養成も事業の対象となります。
- Q4. 国が作成した支援の参考資料はありますか?
- A4. はい、厚生労働省は支援者が支援を行う上での拠り所となる「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」を公開しています。支援の基本的な考え方や価値・倫理、具体的な支援のポイントなどが網羅されており、事業計画策定の際にも大変参考になります。
- Q5. 相談件数などの成果目標はありますか?
- A5. 国の事業評価としては、ひきこもり地域支援センターが関係機関へつないだ件数や、ひきこもりサポーターの活動件数などが指標として用いられています。ただし、最も重要なのは数字だけでなく、一人ひとりに寄り添った支援の質です。計画策定時には、数値目標(アウトプット)と、それによって目指す状態(アウトカム)の両方を設定することが望ましいです。
まとめ:ひきこもり支援の第一歩を踏み出すために
ひきこもり支援推進事業は、財源やノウハウの面で課題を抱える自治体にとって、地域に根差した支援体制を構築するための強力なツールです。この事業を活用することで、相談窓口の設置、安心して過ごせる居場所の提供、そして孤立しがちな当事者や家族を社会とつなぐネットワークの構築が可能になります。
まずは、貴自治体の現状を把握し、都道府県の担当課と連携することから始めてみてはいかがでしょうか。この記事が、ひきこもり状態にある方々が安心して暮らせる地域社会を実現するための一助となれば幸いです。
お問い合わせ先
厚生労働省 社会・援護局 地域福祉課
公式サイト:ひきこもり支援に関する取組
ひきこもり支援ポータルサイト:ひきこもりVOICE STATION