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「子どもを授かりたい」と願う夫婦にとって、不妊治療は大きな希望ですが、同時に経済的な負担も決して小さくありません。特に、2022年4月から不妊治療の多くが保険適用となりましたが、より高度な技術である「先進医療」は保険適用外となり、高額な自己負担が発生するケースがあります。この記事では、そんな先進医療にかかる費用負担を軽減するための「不妊治療費助成事業(先進医療分)」について、制度の概要から対象者、申請方法、必要書類まで、誰にでもわかるように徹底的に解説します。お住まいの自治体の制度を活用し、経済的な不安を少しでも和らげ、安心して治療に専念するための一助となれば幸いです。
この記事のポイント
- 不妊治療の「先進医療」にかかる費用の一部が助成される制度
- 助成額は自治体により異なり、1回あたり最大5万円~7万円程度が目安
- 治療開始時の妻の年齢が43歳未満などの条件がある
- 申請には医療機関が発行する証明書や住民票などが必要
- お住まいの都道府県・市区町村が申請窓口
不妊治療(先進医療)助成金の概要
この助成金は、保険適用となった体外受精・顕微授精などの生殖補助医療と組み合わせて実施される「先進医療」の費用負担を軽減することを目的としています。国の方針に基づき、各都道府県や市区町村が主体となって実施している制度です。
制度の目的と背景
2022年4月から、これまで自由診療だった多くの不妊治療が公的医療保険の対象となりました。これにより、多くの方の経済的負担は軽減されました。しかし、タイムラプスやPGT-A(着床前胚異数性検査)といった、より高度で新しい治療技術である「先進医療」は保険の対象外です。これらの治療を受ける場合、保険診療分とは別に、先進医療の技術料が全額自己負担となります。この自己負担分を支援し、子どもを望む夫婦が多様な選択肢の中から最適な治療を受けられる環境を整えることが、本制度の目的です。
実施組織
この助成金は、お住まいの都道府県や市区町村が実施しています。申請窓口は、自治体のこども家庭課、保健所、子育て支援課などになります。制度の有無や内容は自治体によって異なるため、まずはお住まいの自治体の公式サイトを確認するか、担当窓口に問い合わせることが重要です。
助成金額・補助率
助成される金額や補助率は、自治体によって大きく異なります。ここではいくつかの例を挙げて比較します。ご自身の自治体の制度を確認する際の参考にしてください。
| 自治体 | 助成内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 山形県 | 治療内容に応じた定額助成 ・採卵術:5万円 ・胚移植術:4万円 ・精巣内精子採取術:9万円 |
保険適用の自己負担分への助成 |
| 仙台市 | 先進医療にかかる費用に対し、1回あたり上限5万円 | 文書作成料も対象 |
| 長崎県 | 先進医療費用の7割を助成(上限5万円) | 治療開始時の妻の年齢が42歳以下 |
| 沖縄県 | 先進医療費用の7割を助成(上限7万円) | 令和5年4月1日以降開始の治療から上限額設定 |
| 富谷市 | 1回あたり上限6万円 | 不妊検査費助成(上限4万円)も別途あり |
※上記は一例です。最新の情報は必ず各自治体の公式サイトでご確認ください。
対象者・条件
助成を受けるためには、いくつかの要件をすべて満たす必要があります。多くの自治体で共通している主な要件は以下の通りです。
- 法律上の婚姻関係、または事実婚関係にある夫婦であること。
- 治療開始日時点の妻の年齢が43歳未満であること。(長崎県のように42歳以下など、自治体によって異なる場合があります)
- 申請日時点で、夫婦のどちらか一方または双方が対象の自治体に住民票を置いていること。
- 公的医療保険が適用される不妊治療(生殖補助医療)と組み合わせて先進医療を受けていること。
- (自治体によっては)市税等の滞納がないこと。
助成回数について
助成を受けられる回数には上限があり、保険診療のルールに準じます。一般的には以下の通りです。
- 初めて助成を受ける治療の開始日における妻の年齢が40歳未満の場合:1子ごとに通算6回まで
- 初めて助成を受ける治療の開始日における妻の年齢が40歳以上43歳未満の場合:1子ごとに通算3回まで
なお、出産した場合や妊娠12週以降に死産に至った場合は、これまでの助成回数をリセットし、再度上限回数まで助成を受けられる場合があります。
補助対象経費
助成の対象となるのは、保険診療と組み合わせて実施された先進医療にかかる費用です。先進医療単独での実施は対象外となります。
対象となる先進医療技術の例
- タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養: 受精卵を培養器から出さずに連続観察する技術
- PICSI(ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術): 成熟した精子を選別する技術
- ERA(子宮内膜受容能検査): 胚移植に最適な時期(着床の窓)を特定する検査
- EMMA/ALICE(子宮内細菌叢検査): 子宮内の細菌環境を調べ、着床に適した状態かを確認する検査
- PGT-A(着床前胚異数性検査): 胚の染色体数を調べ、正常な胚を選んで移植する技術
- SEET法(子宮内膜刺激術): 胚移植の前に培養液を子宮に注入し、着床しやすい環境を整える方法
- 二段階胚移植法: 初期胚と胚盤胞を2回に分けて移植する方法
対象外となる経費
以下の費用は一般的に助成の対象外となります。
- 保険診療分の自己負担額(山形県のように、ここに助成する自治体もあります)
- 入院時の差額ベッド代、食事代
- 凍結胚の管理料(保存料)
- 証明書等の文書作成料(仙台市のように対象となる場合もあります)
申請方法・手順
申請は、治療が終了してから行います。期限が定められているため、計画的に進めましょう。
- ステップ1:必要書類の準備
お住まいの自治体のホームページから申請書等の様式をダウンロードします。医療機関に作成を依頼する「受診等証明書」は、作成に時間がかかる場合があるため、治療終了後すぐに依頼しましょう。 - ステップ2:医療機関へ証明書作成を依頼
治療を受けた医療機関に「不妊治療費助成事業受診等証明書」の作成を依頼します。領収書や明細書も必ず保管しておきましょう。 - ステップ3:その他書類の取得
役所等で住民票や戸籍謄本(必要な場合)を取得します。発行から3ヶ月以内など、有効期限が定められていることが多いので注意が必要です。 - ステップ4:申請書類の提出
すべての書類が揃ったら、指定された窓口へ郵送または持参して提出します。最近では山形県のように電子申請(オンライン申請)が可能な自治体も増えています。 - ステップ5:審査・決定・振込
提出された書類に基づき審査が行われます。審査に通ると「承認決定通知書」が届き、その後、指定した口座に助成金が振り込まれます。申請から振込までは、おおむね2~3ヶ月程度かかるのが一般的です。
必要書類リスト
一般的に必要となる書類は以下の通りです。自治体によって異なるため、必ず公式サイトで確認してください。
- □ 不妊治療費助成事業申請書(様式第1号など)
- □ 不妊治療費助成事業受診等証明書(様式第2号など、医療機関が記入)
- □ 医療機関発行の領収書および明細書のコピー
- □ 住民票の写し(続柄記載、マイナンバー記載なしのもの)
- □ 戸籍謄本(初回申請時、夫婦別世帯、事実婚の場合など)
- □ 振込先口座の通帳またはキャッシュカードのコピー
- □ (事実婚の場合)事実婚関係に関する申立書
- □ (必要な場合)市税の滞納がないことの証明書
申請期限
申請期限は「治療が終了した日の属する年度の末日(3月31日)」と定められていることがほとんどです。例えば、令和7年10月に治療が終了した場合、申請期限は令和8年3月31日となります。期限を過ぎると受け付けてもらえないため、治療が終わったら速やかに申請準備を始めましょう。
申請で注意すべきポイント
この助成金は要件を満たしていれば基本的に交付されますが、書類の不備などで手続きが遅れることもあります。スムーズに助成を受けるためのポイントを押さえておきましょう。
- 期限に余裕を持つ: 申請期限ギリギリだと、書類に不備があった場合に対応できません。治療終了後、1ヶ月以内には申請するくらいの気持ちで進めましょう。
- 記入漏れ・ミスをなくす: 申請書や証明書の記入漏れ、押印忘れはよくあるミスです。提出前に夫婦でダブルチェックしましょう。
- 領収書・明細書は必ず保管: 治療にかかった費用の証明として、領収書と明細書は必須です。失くさないようにファイルなどで整理しておきましょう。
- 不明点はすぐに確認: 申請方法や書類の書き方でわからないことがあれば、自己判断せず、必ず自治体の担当窓口に電話などで確認しましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 県外の医療機関で治療を受けましたが、対象になりますか?
- A1. はい、対象になります。厚生労働省に先進医療の実施機関として届け出ている医療機関であれば、所在地は問いません。ただし、申請はご自身が住民票を置く自治体に行います。
- Q2. 事実婚でも申請できますか?
- A2. はい、多くの自治体で事実婚も対象としています。その場合、通常の書類に加えて、夫婦それぞれの戸籍謄本(重婚でないことの証明)や「事実婚関係に関する申立書」の提出が必要となります。
- Q3. 申請から振込までどのくらいかかりますか?
- A3. 自治体や申請時期によりますが、書類に不備がなければ、申請受付からおおむね2~3ヶ月程度で振り込まれるのが一般的です。年度末などの繁忙期はさらに時間がかかる場合があります。
- Q4. 夫(妻)が単身赴任で住民票が別ですが、申請できますか?
- A4. はい、申請できます。夫婦のどちらか一方がその自治体に住民票を置いていれば対象となる場合がほとんどです。申請者(書類を提出する人)は、その自治体に住民票がある方になります。夫婦関係を証明するために戸籍謄本の提出を求められます。
- Q5. 医療費控除と併用できますか?
- A5. はい、併用できます。ただし、確定申告で医療費控除を申請する際は、支払った医療費の総額から、この助成金で補填された金額を差し引いて申告する必要があります。助成金の「承認決定通知書」は大切に保管しておきましょう。
まとめ:まずは自治体の窓口に相談を
不妊治療における先進医療は、治療の選択肢を広げる一方で、経済的な負担が伴います。今回ご紹介した助成金は、その負担を大きく軽減してくれる心強い制度です。
重要なのは、制度の内容が自治体によって異なるという点です。助成額や対象要件、申請手続きの詳細も様々です。治療を始める前や、申請を検討している段階で、まずはお住まいの市区町村や都道府県の担当窓口(保健所、こども家庭課など)のウェブサイトを確認し、不明な点があれば電話で問い合わせてみましょう。
次に行うべきアクション
- ご自身の住民票がある都道府県・市区町村の公式サイトで「不妊治療 先進医療 助成」と検索する。
- 制度の対象者、助成額、申請期限などの詳細を確認する。
- 治療を受けている(または受ける予定の)医療機関が、助成対象の先進医療を実施しているか確認する。
- 不明点があれば、自治体の担当窓口に問い合わせる。
この制度を賢く活用し、経済的な心配を少しでも減らして、前向きに治療に取り組んでいきましょう。