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近年、ランサムウェアや標的型攻撃など、企業を狙ったサイバー攻撃は巧妙化・悪質化の一途をたどっています。特に、専門部署の設置が難しい中小企業は、攻撃者の格好の標的となりやすく、一度被害に遭うと事業継続が困難になるケースも少なくありません。しかし、セキュリティ対策にはコストがかかるため、導入をためらっている経営者の方も多いのではないでしょうか。そこで活用したいのが、国や自治体が提供するサイバーセキュリティ対策に特化した補助金・助成金です。これらの制度を賢く利用すれば、UTM(統合脅威管理)やウイルス対策ソフトなどの導入費用を大幅に抑え、企業の防御力を格段に高めることが可能です。この記事では、全国で利用できる「IT導入補助金」や東京都の「サイバーセキュリティ対策促進助成金」を中心に、対象者、補助額、申請方法、採択のポイントまでを徹底的に解説します。
この記事でわかること
- 中小企業が利用できる主要なサイバーセキュリティ対策補助金の種類と概要
- 「IT導入補助金」や「東京都サイバーセキュリティ対策促進助成金」の具体的な内容
- 多くの補助金で申請要件となる「SECURITY ACTION」自己宣言の方法
- 補助金の申請から受給までの具体的なステップと必要書類
- 採択率をアップさせるための重要なポイントと注意点
なぜ今、中小企業にサイバーセキュリティ対策が必要なのか?
「うちは大企業じゃないから狙われないだろう」という考えは、もはや通用しません。サプライチェーンの脆弱な部分を狙う攻撃が増加しており、取引先への被害拡大の起点となるリスクも高まっています。なぜ今、対策が急務なのでしょうか。
増加するサイバー攻撃の脅威
警察庁の報告によると、ランサムウェアによる被害報告件数は高水準で推移しており、その多くが中小企業です。手口は年々巧妙になり、メールの添付ファイルやVPN機器の脆弱性を突いた侵入など、日常業務に潜むリスクは増大しています。
対策を怠ることで生じる甚大な被害
サイバー攻撃の被害は、単なるデータの損失だけではありません。事業停止による売上機会の損失、顧客情報の漏洩による信用の失墜、取引先への損害賠償、復旧にかかる高額な費用など、経営の根幹を揺るがす事態に発展する可能性があります。
サイバーセキュリティ対策に使える主要な補助金・助成金
コストを抑えつつ強固なセキュリティ体制を築くために、以下の補助金・助成金の活用を検討しましょう。ここでは代表的な制度を比較してご紹介します。
| 制度名 | 対象地域 | 補助上限額 | 補助率 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠) | 全国 | 150万円 | 1/2以内(小規模事業者は2/3) | IPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービス」利用料(最大2年分)が対象。 |
| サイバーセキュリティ対策促進助成金 | 東京都 | 1,500万円 | 1/2以内 | UTM等の機器導入からクラウド利用料まで幅広く対象。SECURITY ACTION「★★二つ星」宣言が必須。 |
| セキュリティ支援補助金 | 神奈川県横須賀市 | 10万円 | 1/2以内(小規模事業者は2/3) | 指定サービス【お助け侍】の導入・利用経費が対象。地域密着型の支援。 |
補助金の申請に必須!「SECURITY ACTION」自己宣言とは?
多くのサイバーセキュリティ関連補助金では、IPA(情報処理推進機構)が実施する「SECURITY ACTION」の自己宣言が申請要件または加点項目となっています。これは、中小企業自らが情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言する制度です。
「一つ星」と「二つ星」の違い
- 「★ 一つ星」:『情報セキュリティ5か条』に取り組むことを宣言します。比較的簡単に宣言できます。
- 「★★ 二つ星」:『情報セキュリティ基本方針』を策定し、外部に公開したことを宣言します。より高度な取り組みが求められ、東京都の助成金などでは必須要件となります。
自己宣言の手順
宣言はオンラインで簡単に行えます。
1. IPAの「SECURITY ACTION」公式サイトにアクセスします。
2. 宣言するレベル(一つ星 or 二つ星)を選択します。
3. 申込フォームに企業情報などを入力し、送信します。
4. 申し込みが受理されると、ロゴマークと自己宣言IDが発行されます。このIDが補助金申請時に必要になります。
【詳細解説】IT導入補助金2025(セキュリティ対策推進枠)
全国の中小企業が利用できる、最も代表的な制度です。サイバー攻撃の潜在的リスクから事業を守ることを目的としています。
補助対象者・条件
日本国内で事業を営む中小企業・小規模事業者が対象です。資本金や従業員数などの定義は公募要領で確認が必要です。また、「SECURITY ACTION」の「一つ星」または「二つ星」の宣言が必須要件です。
補助対象経費
補助対象は、IPAが公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービスの利用料です。これには、端末の監視、不正通信のブロック、緊急時対応支援などが含まれます。サービス利用料(最大2年分)が補助の対象となります。
補助額・補助率
| 区分 | 補助率 | 補助額 |
|---|---|---|
| 中小企業 | 1/2以内 | 5万円~150万円 |
| 小規模事業者 | 2/3以内 |
申請から補助金受給までの流れ
- GビズIDプライムの取得:電子申請に必須のアカウントです。取得に2〜3週間かかるため、早めに手続きしましょう。
- SECURITY ACTIONの自己宣言:上記で解説した手順で宣言し、IDを取得します。
- IT導入支援事業者・ITツールの選定:事務局に登録された事業者と導入したいツールを選び、共同で申請準備を進めます。
- 交付申請:IT導入支援事業者が代理で電子申請を行います。
- ITツールの導入・支払い:交付決定後、契約・導入・支払いを行います。交付決定前の契約・支払いは補助対象外となるため注意が必要です。
- 事業実績報告:導入・支払いの証憑を提出します。
- 補助金交付:報告内容が確定後、補助金が振り込まれます。
【詳細解説】東京都サイバーセキュリティ対策促進助成金
東京都に事業所を持つ中小企業向けの、非常に手厚い助成金です。高額なセキュリティ機器の導入を検討している企業には特におすすめです。
助成対象者・条件
都内に本店または支店があり、都内で実質的に事業を行っている中小企業者が対象です。最大のポイントは、「SECURITY ACTION」の「★★二つ星」を宣言していることが必須である点です。
助成対象経費
IT導入補助金よりも対象範囲が広いのが特徴です。
- 統合型アプライアンス(UTM等)
- ネットワーク脅威対策製品(FW、VPN、不正侵入検知システム等)
- コンテンツセキュリティ対策製品(ウイルス対策、スパム対策等)
- アクセス管理製品(シングル・サイン・オン、本人認証等)
- システムセキュリティ管理製品(アクセスログ管理等)
- 標的型メール訓練
- サーバー入替に伴うサーバーOS及びインストール作業費用
補助金採択率を上げるための3つの重要ポイント
ポイント1:自社の経営課題とセキュリティリスクを明確にする
申請書では「なぜこのツールが必要なのか」を具体的に示す必要があります。「最近、業界内でフィッシングメールの被害が増えている」「テレワーク導入に伴い、社外からのアクセス管理が課題」など、自社の現状とリスクを分析し、導入するツールがその課題をどう解決するのかを論理的に説明しましょう。
ポイント2:加点項目を確実に押さえる
公募要領には、審査で有利になる「加点項目」が記載されています。例えば、賃上げ計画の策定・表明、地域未来牽引企業の認定、健康経営優良法人の認定などが該当します。自社が該当する項目がないか事前に確認し、証明書類を準備することで採択の可能性が高まります。
ポイント3:信頼できるIT導入支援事業者と連携する
特にIT導入補助金では、IT導入支援事業者との連携が不可欠です。事業者の選定は非常に重要で、補助金申請のノウハウが豊富で、自社の課題を理解し、最適なツールを提案してくれるパートナーを見つけることが採択への近道です。
サイバーセキュリティ対策補助金に関するよくある質問(FAQ)
Q1. パソコンやサーバー本体の購入費用は対象になりますか?
A1. 一般的に、ハードウェア本体の購入費用は対象外となることが多いです。IT導入補助金ではソフトウェアやクラウドサービスの利用料が主に対象です。ただし、東京都の助成金のように、サーバー入替に伴うOS費用が対象になるなど、制度によって異なりますので、必ず公募要領で対象経費の詳細を確認してください。
Q2. 「SECURITY ACTION」の宣言はどのくらい時間がかかりますか?
A2. オンラインでの申し込み自体は10分程度で完了します。その後、事務局での確認を経て、通常は数営業日以内に自己宣言IDが発行されます。ただし、申請期限間際は混み合う可能性があるため、早めに手続きを済ませておくことをお勧めします。
Q3. 複数の補助金を併用することはできますか?
A3. 同一の経費に対して、国や自治体の複数の補助金を重複して受給することは原則としてできません。例えば、UTMの導入費用について、IT導入補助金と東京都の助成金を両方受け取ることは不可能です。導入したい経費ごとに、最適な補助金を選択する必要があります。
Q4. GビズIDとは何ですか?取得は必須ですか?
A4. GビズIDは、様々な行政サービスに1つのアカウントでログインできる認証システムです。IT導入補助金や東京都の助成金など、Jグランツを利用した電子申請では「GビズIDプライム」アカウントが必須となります。印鑑証明書と登録印の郵送が必要で、取得に2〜3週間かかるため、補助金申請を検討し始めたら、まず最初に取得手続きを行うことを強く推奨します。
Q5. 補助金はいつもらえますか?
A5. 補助金は、原則として後払い(精算払い)です。交付決定後に事業を実施し、必要な費用を全額支払った後、実績報告書を提出します。その内容が審査され、補助金額が確定した後に、指定の口座に振り込まれます。そのため、事業実施期間中は一時的に資金を立て替える必要があります。
まとめ:補助金を活用して、安全な経営基盤を構築しよう
サイバーセキュリティ対策は、もはや「コスト」ではなく、事業を継続するための「投資」です。今回ご紹介した補助金・助成金を活用すれば、その投資負担を大幅に軽減できます。自社の状況や所在地に合わせて最適な制度を選び、積極的な活用を検討しましょう。
最初に取り組むべきアクション
- GビズIDプライムの取得:電子申請の準備を始めましょう。
- SECURITY ACTIONの自己宣言:まずは「一つ星」からでも宣言し、IDを取得しましょう。
- 公募要領の熟読:利用したい補助金の公式サイトから最新の公募要領をダウンロードし、詳細な要件を確認しましょう。
この記事が、貴社のセキュリティ強化の一助となれば幸いです。不明な点があれば、各補助金の事務局や専門家に相談することをお勧めします。