「子どもの聞こえが少し心配…」「お医者さんから補聴器を勧められたけど、費用が高くて…」そんな悩みを抱える保護者の方も多いのではないでしょうか。特に、身体障害者手帳の対象にはならない軽度・中等度の難聴の場合、公的な支援が受けにくいと感じるかもしれません。しかし、ご安心ください。多くの自治体では、そのようなお子様を対象とした「軽度・中等度難聴児補聴器購入費助成事業」を実施しています。この制度を活用すれば、補聴器の購入や修理にかかる費用の大部分(多くの場合3分の2)の助成を受けることが可能です。この記事では、お子様の言葉の発達やコミュニケーションをサポートするための大切な制度について、対象者や助成金額、申請方法などを分かりやすく徹底的に解説します。経済的な負担を軽減し、お子様に最適な聞こえの環境を整えるための一歩を、ここから始めましょう。

この記事のポイント

  • 身体障害者手帳の対象外となる18歳未満の軽度・中等度難聴児が対象
  • 補聴器の購入・更新・修理費用の最大3分の2が助成される
  • 申請には医師の意見書販売店の見積書が必要
  • 必ず購入前にお住まいの市町村へ申請が必要
  • 自治体によって所得制限や助成内容が異なるため事前の確認が重要

① 軽度・中等度難聴児補聴器購入費助成事業とは?

制度の目的と背景

この制度は、聴覚障害による身体障害者手帳の交付対象とならない、軽度または中等度の難聴を持つお子様(18歳未満)を対象としています。子どもの時期は、言葉を覚え、コミュニケーション能力を育む上で非常に重要な期間です。この時期に適切な聞こえのサポートがないと、言語の発達や学習、社会性の形成に影響が出る可能性があります。そこで、補聴器の装用によって聞こえを補い、お子様の健全な発達を支援することを目的として、補聴器の購入や修理にかかる費用の一部を国や自治体が助成するものです。

実施主体

この事業の実施主体は、基本的にお住まいの市区町村です。都道府県がその費用の一部を補助する形で運営されています。そのため、申請の窓口や手続きの詳細は、各市区町村の障害福祉担当課などになります。政令指定都市(例:岡山市、大阪市など)では、市が直接事業を行っている場合があります。

② 助成金額と自己負担額はいくら?

補助率と負担割合

多くの自治体では、補聴器の購入費用(基準価格内)に対して3分の2が助成され、自己負担は3分の1となります。これは、国(または都道府県)が3分の1、市町村が3分の1、本人が3分の1を負担するという考え方に基づいています。

ただし、大阪市のように自己負担が1割の自治体や、生活保護受給世帯や住民税非課税世帯の場合は自己負担が免除されるなど、自治体によって負担割合が異なる場合があります。

【重要】助成額は、自治体が定める「基準価格」と「実際の購入価格」を比較し、いずれか低い方の金額を基に計算されます。基準価格を超える高価な補聴器を購入した場合、差額は全額自己負担となるので注意が必要です。

補聴器の種類別 基準価格と助成限度額の例

助成額の計算の基となる基準価格は、補聴器の種類によって定められています。以下は、岡山県や広島県の例を参考にした基準価格と助成限度額(基準価格の2/3)の一覧です。お住まいの自治体の正確な金額は必ずご確認ください。

補聴器の名称 1台あたりの基準価格(円) 助成限度額(円)
軽度・中等度難聴用 耳かけ型 55,900 37,200
重度難聴用 耳かけ型 80,700 53,800
耳あな型(オーダーメイド) 144,900 96,600
骨導式ポケット型 74,100 49,400
補聴援助システム(送信機) 135,400 90,200
補聴援助システム(受信機) 97,300 64,800

※イヤモールド(耳の型に合わせて作る耳栓)が必要な場合は、別途基準価格が加算されることがあります。
※耐用年数は原則として5年です。5年経過後には、更新のための再申請が可能です。

③ 誰が対象になるの?(対象者・条件)

この助成制度の対象となるには、以下のすべての要件を満たす必要があります。ただし、細かな基準は自治体によって異なるため、必ずお住まいの市町村にご確認ください。

  • 年齢:お住まいの自治体に住民登録がある18歳未満の児童(18歳に達する日以降の最初の3月31日まで)。
  • 聴力レベル:両耳の聴力レベルが、原則として30デシベル以上で、身体障害者手帳(聴覚障害)の交付対象とならないこと。
  • 医師の判断:指定の医師(身体障害者福祉法第15条指定医など)の診察により、補聴器の装用が必要であり、それによって言語の習得などに一定の効果が期待できると判断されていること。
  • 所得制限:自治体によっては、世帯の所得に制限が設けられている場合があります(例:神奈川県)。一方で、所得制限を撤廃している自治体もあります(例:大阪市)。これは重要なポイントなので、必ず確認しましょう。
  • 他の制度との重複:労働者災害補償保険など、他の法令によって同様の助成が受けられる場合は対象外となります。

④ 何に使えるの?(補助対象経費)

助成の対象となるのは、主に以下の経費です。

  • 新規の補聴器購入費:初めて補聴器を購入する際の費用です。
  • 補聴器の更新費:耐用年数(原則5年)を経過した後に、新しい補聴器に買い替える際の費用です。
  • 補聴器の修理費:故障した際の修理費用も対象となります。ただし、同一年度内に1回限りなど、回数に制限がある場合があります。
  • イヤモールドの購入・交換費:子どもの成長に合わせて作り直しが必要になるイヤモールドの費用も対象です。
  • 補聴援助システム:学校の授業などで先生の声を直接補聴器に届けるためのFMマイクシステムなどの購入費も対象となる場合があります。

対象外となる経費の例
・診察料、検査料、意見書作成料
・補聴器の調整料
・付属品(空気電池、乾燥ケースなど)の日常的な購入費
・基準価格を超えた部分の金額

⑤ どうやって申請するの?(申請方法・手順)

申請手続きは、必ず補聴器を購入する前に行う必要があります。購入後の申請は認められませんので、絶対に注意してください。一般的な流れは以下の通りです。

  1. 市町村の窓口へ相談:まず、お住まいの市町村の障害福祉担当課へ連絡し、制度の詳細や必要書類について確認します。
  2. 指定医の受診:自治体が指定する医療機関(身体障害者福祉法第15条指定医など)を受診し、診察と検査を受け、「難聴児補聴器購入費等助成金交付意見書」を作成してもらいます。
  3. 見積書の取得:医師の意見書(処方)に基づき、補聴器販売店(テクノエイド協会認定補聴器専門店など)で補聴器を選び、「見積書」を作成してもらいます。
  4. 申請書類の提出:以下の必要書類を揃えて、市町村の窓口に提出します。
    • 助成金交付申請書(窓口で配布)
    • 医師の意見書
    • 補聴器販売店の見積書
    • 世帯の所得を証明する書類(課税証明書など)※必要な場合
    • その他、自治体が必要とする書類
  5. 交付決定:市町村で審査が行われ、助成が決定すると「交付決定通知書」が届きます。
  6. 補聴器の購入:交付決定通知書を受け取った後、見積書を依頼した販売店で補聴器を購入し、代金を支払います。この際、必ず領収書をもらってください。
  7. 助成金の請求:市町村の窓口に「請求書」と「領収書」を提出します。後日、指定した口座に助成金が振り込まれます。(自治体によっては、自己負担額のみを支払う「代理受領方式」が可能な場合もあります)

⑥ 採択されるためのポイント

この助成金は、要件を満たしていれば基本的に交付されるものですが、スムーズに手続きを進めるために以下の点に注意しましょう。

申請書作成のコツ

  • 医師の意見書が最も重要:助成の可否は、医師が補聴器の必要性を認めているかどうかにかかっています。指定医にしっかりと相談し、適切な意見書を作成してもらうことが大前提です。
  • 書類の不備をなくす:申請書への記入漏れや、必要書類の不足がないように、提出前に何度も確認しましょう。特に、見積書の内容が医師の意見書と一致しているかを確認することが大切です。
  • 早めに相談・行動する:医師の予約や書類の準備には時間がかかることがあります。補聴器が必要だと分かったら、すぐに市町村の窓口へ相談を始めることをお勧めします。

よくある不採択・トラブルの理由

  • 購入後の申請:最も多い失敗例です。繰り返しになりますが、必ず購入前に申請を完了させてください。
  • 対象外の聴力レベル:聴力検査の結果、助成対象の基準(例:30dB以上)を満たしていなかった場合。
  • 所得制限の超過:所得制限がある自治体で、世帯の所得が基準額を上回っていた場合。
  • 指定医以外の意見書:自治体が定めた指定医以外が作成した意見書は無効となる場合があります。

⑦ よくある質問(FAQ)

Q1. 身体障害者手帳を持っていても使えますか?

A1. いいえ、この制度は身体障害者手帳の交付対象とならない軽度・中等度の難聴児を対象としています。手帳をお持ちの場合は、「補装具費支給制度」という別の制度を利用することになります。

Q2. 補聴器を買ってしまってから申請できますか?

A2. できません。必ず購入前に申請し、「交付決定通知」を受け取ってから購入手続きを進めてください。事後申請は一切認められないので、最も注意すべき点です。

Q3. どこに相談すればいいですか?

A3. まずは、お住まいの市区町村の「障害福祉課」「子ども福祉課」などの担当窓口にご相談ください。制度の有無や詳細な手続きについて教えてもらえます。

Q4. 両耳とも助成の対象になりますか?

A4. はい、医師が両耳の装用が必要と判断すれば、両耳分の補聴器が助成対象となります。助成額は1台ごとに計算されます。

Q5. 更新は何年ごとにできますか?

A5. 補聴器の耐用年数は原則として5年と定められています。そのため、前回購入してから5年が経過すれば、再度申請して新しい補聴器の購入費助成を受けることができます。

⑧ まとめと次のアクション

今回は、軽度・中等度難聴児向けの補聴器購入費助成制度について詳しく解説しました。この制度は、高価な補聴器の購入負担を大きく軽減し、お子様の成長をサポートしてくれる非常に心強い味方です。

重要ポイントの再確認

  • 対象者:18歳未満で手帳対象外の難聴児
  • 助成額:購入費用の最大3分の2(上限あり)
  • 注意点:必ず「購入前」に申請すること!
  • 窓口:お住まいの市区町村の障害福祉担当課

お子様の聞こえについて少しでも気になることがあれば、まずは専門の耳鼻咽喉科医に相談し、その上でこの制度の活用を検討してみてください。最初の一歩は、お住まいの市町村のウェブサイトで制度の有無を確認するか、直接担当窓口に電話で問い合わせてみることです。この記事が、お子様の未来の可能性を広げる一助となれば幸いです。