はじめに:なぜ今、本社機能の地方移転が注目されるのか?
働き方改革の推進、リモートワークの普及、そして事業継続計画(BCP)の重要性の高まりを背景に、多くの企業が本社の地方移転や機能分散を検討しています。首都圏一極集中から脱却し、コスト削減や優秀な人材の確保、新たなビジネスチャンスの創出を目指す動きが加速しているのです。このような企業の挑戦を後押しするため、国や多くの地方自治体が大規模な補助金・助成金制度を用意しています。本記事では、2025年度(令和7年度)に活用できる「本社機能移転補助金」について、全国の具体的な事例を交えながら徹底解説します。
本社機能移転補助金の概要と対象経費
本社機能移転補助金は、企業が本社機能(企画、総務、経理、研究開発など)を地方へ移転または新設する際に、その経費の一部を支援する制度です。自治体によって制度の名称や内容は異なりますが、主に以下のような経費が対象となります。
- オフィス改修・整備費: 移転先のオフィスの内装工事、電気設備工事、通信環境整備などにかかる費用。
- オフィス賃借料: 移転後のオフィス賃料や共益費。一定期間(例:24ヶ月間)の賃料が補助対象となるケースが多いです。
- 雇用関連費用: 移転に伴う新規雇用や、移住する従業員の給与・手当など。人件費を直接補助する珍しい制度もあります。
- 設備投資費用: 事業に必要な機械設備やIT機器の購入費用。
これらの支援を活用することで、企業は初期投資を大幅に抑え、スムーズな地方展開を実現できます。
【2025年度版】全国の自治体別・本社機能移転補助金 事例紹介
ここでは、全国の自治体が実施している特徴的な本社機能移転補助金の事例を5つご紹介します。自社の計画に合った制度を見つける参考にしてください。
1. 岡山県倉敷市「本社機能移転等促進奨励金」
最大5,000万円という非常に高額な支援が魅力の制度です。本社機能だけでなく、研究所や研修施設の移転も対象としています。
- ■ 補助額: 最大5,000万円
- ■ 対象者: 市外から本社機能等を移転する企業、市内に本社を置く企業の機能強化
- ■ 対象経費: オフィス賃借料、市内での雇用促進費用など複数の奨励金メニューがあります。
- ■ 特徴: 補助額が大きく、大企業の大型移転にも対応可能です。
2. 大阪府大阪市「本社機能立地促進助成金」
大都市でありながら、積極的な企業誘致を行っている事例です。オフィス賃料に特化した支援が特徴です。
- ■ 補助額: 月額最大100万円(最長24ヶ月)
- ■ 対象者: 設立5年超、資本金1,000万円以上で、市内に新たに本社機能を有する事業所を設置する会社。
- ■ 対象経費: 新規設置した拠点の建物賃借料(補助率1/2)
- ■ 特徴: 賃料補助に特化しており、ランニングコストを大幅に削減できます。
3. 三重県「事業所機能新設・移転促進補助金」
従業員の給与(人件費)を直接補助するという、全国的にも珍しい制度です。雇用創出に力を入れていることが伺えます。
- ■ 補助額: 最大600万円/年(最長60ヶ月)
- ■ 対象者: 県内へ新たに本社機能を有する事業所を設置する法人。
- ■ 対象経費: 従業員の給与(補助率1/3、県南部地域は1/2)
- ■ 特徴: 人件費を直接補助するため、雇用拡大を目指す企業にとって非常に有利な制度です。
4. 広島県尾道市「オフィス移転等促進奨励金」
本社機能の移転だけでなく、シェアオフィス等を整備する事業者も支援対象としている点がユニークです。
- ■ 補助額: 最大250万円(本社機能移転)、最大125万円(オフィス環境整備)
- ■ 対象者: 県外から本社機能を移転する法人、または市内の空き物件を改修しシェアオフィス等を開設する中小企業者(個人事業主含む)。
- ■ 対象経費: オフィスの改修費、賃料、通信回線使用料(補助率1/2)
- ■ 特徴: 個人事業主も対象となるメニューがあり、多様な働き方や小規模な事業展開を支援しています。
5. 山口県周南市「本社機能移転等促進補助金」
コンビナートで知られる工業都市ですが、オフィス系の企業誘致にも力を入れています。設備投資や店舗出店など、幅広い支援制度を用意しています。
- ■ 補助額・対象経費: 詳細は市のウェブサイトで要確認ですが、本社機能移転に特化した補助金が用意されています。
- ■ 特徴: 本社機能移転以外にも、「まちなかオフィス立地促進事業」や「情報・通信産業等支援補助金」など、関連する支援制度が充実しており、事業内容に応じて最適な制度を選択できます。
補助金申請の一般的な流れと成功のポイント
本社機能移転補助金の申請は、一般的に以下の流れで進みます。
- 事前相談: 計画段階で必ず自治体の担当窓口に相談しましょう。制度の対象になるか、どのような計画が評価されるかなど、重要な情報を得られます。
- 交付申請: 公募期間内に、事業計画書や収支予算書などの必要書類を提出します。注意点として、多くの制度では賃貸借契約や工事着工「前」の申請が必須です。
- 審査・交付決定: 提出された事業計画書を基に審査が行われます。地域経済への貢献度や事業の継続性、雇用の創出などが評価のポイントとなります。
- 事業実施: 交付決定通知を受けた後、計画に沿ってオフィスの契約や改修、移転を実施します。
- 完了報告・請求: 事業が完了したら、実績報告書や経費の支払いを証明する書類を提出します。その後、補助金額が確定し、指定口座に振り込まれます。
成功のポイントは、地域との連携や地域経済への貢献を具体的に示す事業計画を作成することです。 なぜその地域を選んだのか、地域でどのような人材を雇用し、どのように事業を展開していくのかを明確にアピールすることが採択への鍵となります。
まとめ
本社機能の地方移転は、企業にとって大きな経営判断ですが、今回ご紹介したような補助金を活用することで、移転に伴う経済的な負担を大幅に軽減できます。各自治体は独自の魅力的な制度を用意して企業を待っています。自社のビジョンと移転先の地域性がマッチする場所を探し、補助金制度を最大限に活用して、新たな成長のステージへと踏み出してみてはいかがでしょうか。