詳細情報
2022年4月から不妊治療の多くが保険適用となり、経済的な負担は大きく軽減されました。しかし、より妊娠の可能性を高めるための「先進医療」は保険適用外であり、高額な自己負担が発生することが少なくありません。こうした経済的負担を理由に、必要な治療をためらってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな中、東京都では、保険診療と併用して行われる先進医療の費用の一部を助成する制度を実施しています。この制度を活用することで、経済的な不安を和らげ、安心して治療に専念することが可能になります。
この記事では、東京都の「特定不妊治療費(先進医療)助成事業」について、対象者や助成額、申請方法から注意点まで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。ご自身が対象になるかを確認し、スムーズな申請準備を進めるための一助となれば幸いです。
東京都の不妊治療(先進医療)助成金の概要
まずは、制度の全体像を把握しましょう。この助成金は、体外受精や顕微授精といった特定不妊治療(保険適用)と組み合わせて実施される「先進医療」の費用負担を軽減することを目的としています。
制度のポイント早わかり表
複雑な制度内容を、まずは以下の表でご確認ください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業 |
| 実施組織 | 東京都福祉局 |
| 助成額 | 先進医療費の10分の7(上限15万円) |
| 対象治療 | 保険適用の特定不妊治療と併用して実施した先進医療 |
| 対象者 | 都内在住で、治療開始時の妻の年齢が43歳未満の夫婦など(詳細は後述) |
| 申請期限 | 治療が終了した日の属する年度末(3月31日)まで |
助成金額・補助率について
この制度で最も気になるのが、いくら助成されるのかという点でしょう。ここでは、助成額の計算方法と具体的な例を詳しく見ていきます。
助成額の上限と計算方法
助成額は、1回の治療でかかった先進医療の合計費用に対して、以下の計算式で算出されます。
助成額 = 先進医療にかかった費用 × 7/10
ただし、この計算結果が15万円を超える場合は、上限額である15万円が助成されます。
具体的な計算例
2つのケースで実際に計算してみましょう。
- 【例1】先進医療の費用が合計100,000円だった場合
100,000円 × 0.7 = 70,000円
→ 助成額は7万円となります。 - 【例2】先進医療の費用が合計220,000円だった場合
220,000円 × 0.7 = 154,000円
→ 計算結果は15万円を超えますが、上限が適用されるため、助成額は15万円となります。
対象者・条件
助成を受けるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。申請前に必ずご自身が該当するかを確認してください。
4つの必須要件
- 夫婦関係と住民票の要件
法律婚または事実婚の夫婦であり、治療初日から申請日まで、夫婦のいずれかが継続して東京都内に住民登録をしていること。 - 治療内容の要件
保険診療として特定不妊治療(体外受精・顕微授精)を受け、それと併用して先進医療を登録医療機関で受診していること。(全額自費の治療は対象外です) - 他の助成金の要件
申請する治療に関して、他の自治体などから同様の医療費助成を受けていないこと。 - 年齢の要件
「1回の治療」の開始日における妻の年齢が43歳未満であること。
助成回数について
助成を受けられる回数は、保険診療の適用回数に準じます。これは、子供一人につき以下の回数が上限となります。
- 治療開始日の妻の年齢が39歳までの夫婦:通算6回まで
- 治療開始日の妻の年齢が40歳から42歳までの夫婦:通算3回まで
【重要】出産した場合は、助成回数をリセットして、次の子供のために新たに助成を受けることが可能です。ただし、東京都への申請回数が上限に達している場合は、リセット後も新たな申請はできませんのでご注意ください。
対象となる先進医療
どのような治療が助成の対象になるのでしょうか。対象となる先進医療と、注意すべき医療機関の要件について解説します。
助成対象となる先進医療の一覧
現在、助成対象として告示されている主な先進医療は以下の通りです。これらは技術の進歩により変更される可能性があるため、最新情報は厚生労働省のウェブサイトで確認することが重要です。
- SEET法
- タイムラプス
- 子宮内膜スクラッチ
- PICSI(ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術)
- ERA / ERPeak(子宮内膜受容能検査)
- EMMA / ALICE(子宮内細菌叢検査)
- IMSI(強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術)
- 二段階胚移植法
- PGT-A(着床前胚異数性検査) など
重要:対象となる医療機関について
助成の対象となるのは、厚生労働省から先進医療の実施医療機関として指定を受けている施設で実施した治療のみです。指定を受けていない医療機関で同様の治療を受けても助成対象外となりますので、治療開始前に必ず医療機関に確認するか、厚生労働省のウェブサイトで「先進医療を実施している医療機関の一覧」をご確認ください。
申請方法・手順
ここでは、申請から助成金が振り込まれるまでの具体的な流れを、ステップごとに解説します。
申請の全体像(ステップ・バイ・ステップ)
- 治療終了:胚移植後の妊娠確認、または医師の判断による治療中止をもって「1回の治療」が終了します。
- 書類準備①:治療を受けた医療機関に「特定不妊治療費(先進医療)助成事業 受診等証明書」の作成を依頼します。
- 書類準備②:区市町村役場で「住民票の写し」と「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)」を取得します。
- オンライン申請:東京都の電子申請フォームにアクセスし、必要事項を入力、準備した書類のデータを添付して送信します。
- 審査・通知:東京都で申請内容が審査され、後日「承認(または不承認)決定通知書」が郵送されます。
- 振込:承認決定後、指定した口座に助成金が振り込まれます。
申請期限はいつまで?
申請期限は非常に厳格です。原則として、「1回の治療」が終了した日の属する年度の末日(3月31日)までです。(消印有効)
【特例】1月1日から3月31日までに治療が終了した場合に限り、申請期限は同年6月30日まで延長されます。
いかなる理由があっても期限を過ぎた申請は受理されません。治療終了後は速やかに申請準備を進めましょう。
必要書類一覧
| 書類名 | 入手先 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1. 受診等証明書 | 治療を受けた医療機関 | 原本の提出が必要です。作成に時間がかかる場合があるので早めに依頼しましょう。 |
| 2. 住民票の写し | 区市町村役場 | 申請日から3ヶ月以内発行の原本。続柄省略不可、マイナンバー記載不要。 |
| 3. 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 本籍地の市区町村役場 | 申請日から3ヶ月以内発行の原本。初回申請時や事実婚の場合は毎回必要です。 |
採択のポイント・注意点
この助成金は、要件を満たしていれば原則として助成されます。しかし、書類の不備や勘違いで不承認とならないよう、以下のポイントをしっかり押さえておきましょう。
申請前に必ず確認すべき5つのこと
- 申請期限は過ぎていないか?:治療終了日を正確に把握し、期限から逆算して準備を進めましょう。
- 対象者要件はすべて満たしているか?:特に妻の年齢(治療開始日時点)と夫婦の住民票の所在地は重要です。
- 受けた治療は対象か?:「保険診療+先進医療」の組み合わせであることを確認してください。
- 書類はすべて揃っているか?:原本が必要な書類をコピーで提出していないか、発行日が古すぎないかを確認しましょう。
- 証明書の内容は正しいか?:医療機関に記載してもらった内容に誤りがないか、提出前に自分でも確認しましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 夫(または妻)だけ都外に住んでいますが対象になりますか?
- A1. はい、対象になります。治療初日から申請日まで、夫婦のどちらか一方が継続して東京都内に住民登録をしていれば要件を満たします。その場合、申請者は都内在住の方となります。
- Q2. 治療の途中で43歳になりました。対象になりますか?
- A2. 「1回の治療」の開始日時点で43歳未満であれば対象となります。治療期間中に誕生日を迎えて43歳になっても問題ありません。
- Q3. 複数の先進医療を受けましたが、まとめて申請できますか?
- A3. はい、「1回の治療(採卵準備から妊娠確認まで)」の中で実施した複数の先進医療は、まとめて1回の申請となります。かかった費用の合計額に対して助成額が計算されます。
- Q4. 申請してから振り込まれるまでどのくらいかかりますか?
- A4. 東京都の公式情報によると、申請受理から承認決定通知書の発送までに2〜3ヶ月、そこから振込までに約1ヶ月が目安とされています。書類に不備があるとさらに時間がかかる場合があります。
- Q5. 医療費控除と併用できますか?
- A5. 併用可能です。ただし、確定申告で医療費控除を申請する際は、支払った医療費の総額からこの助成金で補填された金額を差し引く必要があります。助成金の決定通知書は大切に保管してください。
まとめと次のステップ
今回は、東京都が実施する不妊治療の先進医療に関する助成金制度について詳しく解説しました。最後に、重要なポイントをもう一度確認しましょう。
- 助成内容:保険診療と併用した先進医療費の10分の7、上限15万円を助成。
- 対象者:都内在住で、治療開始時の妻の年齢が43歳未満の夫婦が主な対象。
- 申請期限:治療終了年度の3月31日まで。期限厳守。
- 申請方法:原則としてオンライン申請。必要書類を事前に準備することが重要。
経済的な負担は、不妊治療を進める上での大きな課題の一つです。この助成金制度を正しく理解し、有効に活用することで、少しでも安心して治療に臨める環境を整えることができます。
次のステップとして、まずは東京都の公式サイトで最新の情報を再確認し、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。不明な点があれば、ためらわずに担当窓口へ問い合わせましょう。また、治療に関する悩みや不安は、「東京都不妊・不育ホットライン」などの専門相談窓口に相談するのも一つの方法です。