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はじめに:賃上げと生産性向上の悩みを解決する「業務改善助成金」
「従業員の給与を上げたいが、経営が厳しい」「最低賃金の引き上げに対応しつつ、会社の成長も実現したい」——多くの中小企業・小規模事業者の経営者が抱えるこの大きな課題。この悩みを解決する強力な味方が、厚生労働省の「業務改善助成金」です。この制度は、事業場内の最低賃金を引き上げることを条件に、生産性向上に繋がる設備投資などの費用を最大600万円まで助成するものです。この記事では、2025年度(令和7年度)の業務改善助成金について、対象者、助成額、申請方法から採択されるためのポイントまで、どこよりも分かりやすく徹底解説します。賃上げを会社の成長への投資に変えるチャンスを、ぜひご活用ください。
① 業務改善助成金の概要
制度の目的と仕組み
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを後押しすることを目的としています。具体的には、「生産性向上のための設備投資」と「事業場内最低賃金の引き上げ」をセットで行う事業者を支援する制度です。先に計画を申請し、交付決定後に設備投資と賃上げを実施、その後にかかった費用の一部が助成されるという流れになります。
- 正式名称: 業務改善助成金
- 実施組織: 厚生労働省(申請窓口は各都道府県労働局)
- 目的: 中小企業の生産性向上と持続的な賃上げの実現
② 助成金額・助成率
助成額は、賃金の「引き上げ額」と「対象となる労働者数」によって決まります。計画的に賃上げを行うことで、より多くの助成を受けることが可能です。
助成上限額
賃金の引き上げ額に応じて4つのコースが設定されており、引き上げる労働者の人数が多いほど上限額も高くなります。最大で600万円の助成が受けられます。
| コース(引上額) | 引上労働者数 | 助成上限額 |
|---|---|---|
| 30円コース | 1人 | 30万円 |
| 30円コース | 7人以上 | 100万円 |
| 45円コース | 1人 | 45万円 |
| 45円コース | 7人以上 | 150万円 |
| 60円コース | 1人 | 60万円 |
| 60円コース | 7人以上 | 230万円 |
| 90円コース | 1人 | 90万円 |
| 90円コース | 10人以上(特例事業者) | 600万円 |
ポイント:事業場の労働者数が30人未満の場合や、特定の要件を満たす「特例事業者」に該当する場合、助成上限額がさらに拡充されます。特に10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合は、特例事業者の要件を満たすことで最大600万円のコースを選択できます。
助成率
助成率は、申請前の事業場内最低賃金の金額によって決まります。
| 事業場内最低賃金 | 助成率 |
|---|---|
| 1,000円未満 | 4/5 (80%) |
| 1,000円以上 | 3/4 (75%) |
計算例
実際に支給される額は、「設備投資費用 × 助成率」と「助成上限額」を比較して、いずれか低い方の金額となります。
- 条件:事業場内最低賃金980円の事業者が、8人の労働者の賃金を90円以上引き上げ(90円コース)、生産性向上のために600万円の設備投資を行った場合。
- 助成率:最低賃金が1,000円未満なので 4/5
- 助成上限額:90円コースで8人引上げなので 450万円
- 計算:設備投資額600万円 × 助成率4/5 = 480万円
- 支給額:計算結果(480万円)が助成上限額(450万円)を上回るため、支給額は 450万円 となります。
③ 対象者・条件
助成金を利用するには、以下の主要な要件をすべて満たす必要があります。
- 中小企業・小規模事業者であること:資本金や従業員数に規定があります。
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること:これが最も重要な要件の一つです。例えば、地域の最低賃金が1,000円の場合、事業場内の最低賃金が1,050円以下である必要があります。
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと:申請前後の一定期間に、会社都合の解雇などを行っていないことが求められます。
特例事業者について
以下のいずれかに該当する場合、「特例事業者」として助成上限額の拡大や対象経費の拡充といった優遇措置が受けられます。
- 賃金要件:事業場内最低賃金が1,000円未満の事業者。
- 物価高騰等要件:原材料費の高騰などにより、直近3ヶ月間のうち任意の1ヶ月の利益率が前年同月比で3%ポイント以上低下している事業者。
特に「物価高騰等要件」に該当する場合、通常は対象外となる自動車やパソコン、スマートフォン等の新規導入も助成対象経費となるため、該当する事業者は積極的に活用を検討しましょう。
④ 補助対象経費
助成の対象となるのは、生産性向上や労働能率の増進に役立つ設備投資などです。自社の課題解決に繋がる投資を計画しましょう。
- 機器・設備の導入:POSレジシステム、自動釣銭機、食器洗浄機、業務用の車両、勤怠管理システムなど
- 経営コンサルティング:専門家による業務フローの見直しやマーケティング戦略の策定支援など
- 人材育成・教育訓練:従業員のスキルアップのための研修費用など
【対象外経費の例】
事務所の家賃、従業員の給与、汎用性が高く目的外使用になりうるもの(通常の乗用車やPCなど。ただし特例事業者を除く)は対象外です。
⑤ 申請方法・手順
申請は、計画の策定から助成金の受領まで、いくつかのステップを踏む必要があります。スケジュールに余裕を持って進めましょう。
- Step 1: 交付申請
事業実施計画書などを作成し、管轄の都道府県労働局に提出します。この段階で、どのような設備を導入し、誰の賃金をいくら上げるのかを具体的に計画します。 - Step 2: 交付決定
労働局が申請内容を審査し、問題がなければ「交付決定通知書」が届きます。設備の発注・購入は必ずこの通知書が届いた後に行ってください。 - Step 3: 事業の実施
計画に沿って、設備投資と賃金の引き上げを実施します。支払いの証拠となる領収書や、賃上げが確認できる賃金台帳などを保管しておきます。 - Step 4: 事業実績報告
事業完了後、期限内に労働局へ実績報告書と支給申請書を提出します。 - Step 5: 助成金の受領
報告内容が審査され、適正と認められれば助成金額が確定し、指定の口座に振り込まれます。
申請期限・スケジュール
令和7年度の申請期間は、賃金引き上げの時期によって分かれています。
- 第1期:令和7年4月14日~令和7年6月13日
- 第2期:令和7年6月14日~申請事業場に適用される地域別最低賃金改定日の前日
例年10月頃に地域別最低賃金が改定されるため、第2期の申請を検討している場合は、自社の所在地の改定日を早めに確認し、計画的に準備を進めることが重要です。
必要書類
申請には多くの書類が必要です。厚生労働省のウェブサイトから最新の様式をダウンロードして準備しましょう。
- 交付申請書、事業実施計画書
- 導入する設備の相見積書
- 賃金台帳(申請前3か月分)
- 労働者名簿
- (特例事業者の場合)事業活動の状況に関する申出書 など
⑥ 採択のポイント
審査を通過し、採択されるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
- 生産性向上への貢献度を明確に:「なぜこの設備投資が、自社の生産性向上に繋がるのか」を具体的かつ論理的に説明することが不可欠です。「POSレジ導入で棚卸し時間が〇時間削減でき、その時間を接客に充てることで売上〇%向上を目指す」など、数値目標を盛り込むと説得力が増します。
- 要件の事前確認を徹底する:特に「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内」という要件を見落としがちです。申請前に必ず自社の賃金体系を確認しましょう。
- 書類の不備をなくす:記入漏れや添付書類の不足は不採択の大きな原因です。提出前に複数人でダブルチェックすることをお勧めします。
よくある不採択理由
- 交付決定前に設備を発注・購入してしまった(フライング)。
- 申請要件(賃金差50円以内など)を満たしていなかった。
- 事業計画書の内容が抽象的で、生産性向上との関連性が不明確。
- 提出書類に不備や矛盾があった。
⑦ よくある質問(FAQ)
- Q1. パートやアルバイトも賃上げの対象に含める必要はありますか?
- A1. はい、含める必要があります。この助成金は「事業場内」で最も低い賃金を引き上げることが目的のため、雇用形態に関わらず、事業場で働くすべての労働者(雇入れ後6か月を経過した者)が対象となります。
- Q2. 過去にこの助成金を利用しましたが、再度申請できますか?
- A2. はい、申請可能です。ただし、同一事業場からの申請は一年度に一回限りです。前年度に活用した場合でも、翌年度に新たな計画で申請することができます。
- Q3. 申請から入金まで、どのくらいの期間がかかりますか?
- A3. 状況によりますが、近年申請が急増しているため、審査に通常より時間がかかる傾向にあります。交付決定まで数ヶ月、事業実施後の支給決定までさらに数ヶ月かかることも想定し、資金繰りには余裕を持った計画を立ててください。
- Q4. 「事業場内最低賃金」の計算方法が複雑で分かりません。
- A4. 月給制や日給制の場合、所定労働時間で割って時給換算する必要があります。通勤手当や時間外手当など、算入しない手当もあるため注意が必要です。不明な点は、管轄の労働局や業務改善助成金コールセンターに相談することをお勧めします。
- Q5. 複数の事業所(店舗)がある場合、どのように申請すればよいですか?
- A5. 申請は事業場ごと(工場、店舗、事務所など)に行います。それぞれの事業場で要件を満たしていれば、複数の事業場で申請することも可能です。
⑧ まとめ・行動喚起
業務改善助成金は、賃上げという社会的要請に応えながら、自社の生産性を高め、競争力を強化するための絶好の機会です。最後に重要なポイントを再確認しましょう。
- 目的:「賃上げ」と「生産性向上」をセットで支援。
- 助成額:最大600万円。賃上げ額と対象人数で変動。
- 最重要要件:事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差が50円以内。
- 注意点:設備投資は必ず「交付決定後」に行う。
- 活用メリット:特例事業者要件を満たせば、PCや自動車も対象に。
この制度を最大限に活用するためには、事前の情報収集と計画的な準備が不可欠です。まずは自社が対象になるかを確認し、どのような設備投資が生産性向上に繋がるかを検討することから始めましょう。不明な点があれば、専門家や下記のコールセンターへ相談することをお勧めします。
【お問い合わせ先】
業務改善助成金コールセンター
電話番号:0120-366-440(受付時間 平日 9:00~17:00)