「親から相続した実家が空き家になっているが、古くて危険なので解体したい」「解体費用が高額で、なかなか踏み出せない」そんなお悩みをお持ちではありませんか?近年、全国的に問題となっている老朽化した危険な空き家。その対策として、多くの自治体が解体費用の一部を補助する制度を実施しています。この制度をうまく活用すれば、数十万円から、場合によっては100万円以上の費用負担を軽減できる可能性があります。この記事では、2025年度の「老朽危険空家除却事業」について、対象となる空き家の条件、補助金額、申請方法から注意点まで、複数の自治体の事例を交えながら網羅的に解説します。あなたの空き家問題解決の第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。

老朽危険空家等除却事業とは?

制度の目的と背景

老朽危険空家等除却事業は、適切に管理されずに放置され、倒壊や部材の落下など、周辺地域に危険を及ぼす可能性のある空き家の解体(除却)を促進するための補助金制度です。多くの自治体が、地域の住環境の改善や安全・安心なまちづくりを目的として実施しています。人口減少や高齢化に伴い全国で空き家が増加する中、特に危険性の高い空き家を減らすことは、防災や景観維持の観点からも重要な課題となっています。

実施している組織

この補助金制度は、国が定めた「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、主にお住まいの市区町村が主体となって実施しています。そのため、制度の名称、補助額、対象条件、申請期間などは自治体ごとに異なります。まずは、ご自身の空き家が所在する市区町村のウェブサイトを確認するか、建築指導課や住宅課などの担当部署に問い合わせることが第一歩となります。

重要ポイント:制度の有無や内容は自治体によって様々です。この記事は一般的な情報を提供するものであり、申請にあたっては必ず管轄の自治体の最新情報をご確認ください。

補助金額と補助率について

補助金の額は、自治体の予算や制度設計によって大きく異なります。一般的には「補助対象経費の〇分の〇、上限〇〇万円」という形で定められています。以下にいくつかの自治体の例を挙げて比較してみましょう。

自治体名 補助率 上限額 備考
松山市(愛媛県) 5分の4 80万円 島しょ部は上限120万円
柳井市(山口県) 2分の1 150万円 補助率が低めでも上限額が高いケース
三原市(広島県) 5分の4 50万円 標準的な補助額
富山市(富山県) 2分の1 50万円 補助率・上限額ともに標準的

計算例

例えば、松山市で補助対象経費(税抜)が150万円の解体工事を行う場合を考えてみましょう。

  • 補助対象経費:150万円
  • 補助率:5分の4
  • 計算:150万円 × 4/5 = 120万円
  • 上限額:80万円
  • 実際の補助金額:80万円(計算額が上限を超えるため、上限額が適用)

この場合、申請者は80万円の補助を受けられ、自己負担額は「150万円 + 消費税 – 80万円」となります。

補助の対象となる条件

補助金を受けるためには、「人(申請者)」と「建物(空き家)」の両方で、定められた条件を満たす必要があります。

対象者(どんな人が申請できる?)

多くの自治体で共通している主な要件は以下の通りです。

  • 対象となる空き家の所有者(個人)、またはその法定相続人であること。
  • 市税等を滞納していないこと。
  • 暴力団員等ではないこと。
  • 他に同様の補助金を受けていないこと。

法人は対象外となるケースが多いです。また、所有者が複数いる場合(共有名義や共同相続)は、全員の同意書が必要になるのが一般的です。

対象となる空き家(どんな建物が対象?)

最も重要なのが、建物が「老朽危険空家」であると自治体に認定されることです。主な判断基準は以下の通りです。

  • 不良度判定の基準を満たすこと:自治体の職員が現地調査を行い、屋根、壁、基礎などの損傷度合いを点数化します。この合計点が一定の基準(例:松山市では100点以上)に達する必要があります。
  • 長期間(例:1年以上)使用されていない居住用の建物であること。
  • 倒壊した場合に、道路や隣接地など周辺に影響を及ぼすおそれがあること。
  • 公共事業の補償対象になっていないこと。

「不良度判定」とは?
建物の状態を客観的に評価するための調査です。職員が外観から「屋根材が剥がれている」「外壁に大きなひび割れがある」「建物が傾いている」といった項目をチェックし、危険度を点数化します。この判定で基準点に満たない場合は、補助金の対象外となります。

補助対象となる経費・ならない経費

補助金の対象となるのは、基本的に建物の解体とそれに伴う廃棄物の処分費用です。何が対象で何が対象外か、しっかり把握しておきましょう。

分類 具体例
対象となる経費
  • 建物の本体(母屋)の解体工事費
  • 附属する納屋や車庫などの解体工事費
  • 解体に伴って発生した木くずやコンクリートがら等の産業廃棄物の運搬・処分費
対象とならない経費
  • 家財道具、家電、車両などの残置物撤去・処分費用
  • 庭木、庭石、ブロック塀、浄化槽などの撤去費用
  • 消費税及び地方消費税
  • アスベスト除去費用(別途専門の補助金がある場合も)

解体業者に見積もりを依頼する際は、補助金の対象経費と対象外経費を分けて記載してもらうようお願いすると、後の申請がスムーズになります。

申請方法と手順(ステップ・バイ・ステップ)

補助金の申請は、正しい手順を踏むことが非常に重要です。特に「交付決定前に契約・着工しない」という点は絶対に守る必要があります。一般的な流れは以下の通りです。

  1. ステップ1:事前相談・事前調査申込
    まずは市役所の担当窓口に相談し、自分の空き家が対象になりそうか確認します。その後、職員による現地調査(不良度判定)を申し込みます。
  2. ステップ2:解体業者の選定と見積取得
    自治体が指定する条件(例:市内業者であること)を満たす解体業者を複数探し、相見積もりを取ります。
  3. ステップ3:補助金交付申請
    申請書や見積書、登記事項証明書など、指定された書類を揃えて期間内に市役所に提出します。
  4. ステップ4:交付決定通知の受領
    市役所での審査後、補助金の交付が決定されると「交付決定通知書」が届きます。この通知書を受け取るまで、絶対に業者と契約したり、工事を始めたりしないでください。
  5. ステップ5:解体工事の契約・着工
    交付決定通知書を受け取ったら、正式に解体業者と工事請負契約を締結し、工事を開始します。
  6. ステップ6:工事完了・支払い
    工事が完了したら、業者に工事費用を支払います。
  7. ステップ7:実績報告と補助金請求
    工事完了後、実績報告書や契約書のコピー、領収書のコピー、工事写真などを市役所に提出し、補助金の支払いを請求します。
  8. ステップ8:補助金の入金
    最終審査後、指定した口座に補助金が振り込まれます。

必要書類一覧

申請には多くの書類が必要です。事前にリストアップし、計画的に準備しましょう。(※自治体により異なります)

  • 【申請時】
    • 補助金交付申請書
    • 事業計画書
    • 解体工事の見積書の写し
    • 建物の登記事項証明書 or 固定資産税課税台帳記載事項証明書
    • 申請者の住民票の写し
    • 市税の完納証明書
    • 建物の現況写真、位置図
    • 確約書・同意書(共有者や相続人がいる場合)
  • 【実績報告時】
    • 実績報告書
    • 工事請負契約書の写し
    • 工事費用の領収書の写し
    • 工事写真(着工前、工事中、完了後)
    • 補助金交付請求書

採択されるためのポイントと注意点

早めの行動が鍵!予算と募集枠

この補助金は自治体の年度予算に基づいており、予算の上限に達した時点で受付が終了します。人気の制度のため、受付開始後すぐに募集枠が埋まってしまうことも少なくありません。年度が始まる前の1月~3月頃から情報収集を開始し、受付開始と同時に申請できるよう準備を進めるのが理想です。

先着順?それとも危険度順?

採択の方式は自治体によって異なります。松山市のように、第1期は危険度が高いものから優先し、第2期は先着順というハイブリッド方式を採用している場合もあります。募集要項をよく読み、どのような基準で採択されるのかを把握しておくことが重要です。

最重要注意点:固定資産税の増加
住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、固定資産税が最大で6分の1に軽減されています。しかし、建物を解体して更地にすると、この特例が適用されなくなり、翌年度からの土地の固定資産税が大幅に上がることがあります。解体後の土地の活用計画も踏まえ、税額がどのくらい変わるのか、事前に市役所の資産税課などで確認しておくことを強くお勧めします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 補助金を使えば自己負担はゼロになりますか?
A1. いいえ、ゼロにはなりません。補助金はあくまで費用の一部を補助するものです。補助率や上限額があるため、必ず自己負担が発生します。また、対象外経費(家財道具の処分費や消費税など)は全額自己負担となります。
Q2. 交付決定前に解体業者と契約してしまいました。対象になりますか?
A2. 残念ながら、対象外となります。これはほとんどの自治体で厳格に定められているルールです。必ず「交付決定通知書」が手元に届いてから、契約・着工するようにしてください。
Q3. どんな業者に解体を依頼しても良いのですか?
A3. 自治体によって条件が定められている場合が多いです。「市内に本店や事業所がある業者」「建設業法に基づく許可や解体工事業の登録を受けている業者」などの指定がありますので、必ず確認してから業者を選定してください。
Q4. 申請手続きが複雑で難しそうです。代理人でも申請できますか?
A4. 可能です。多くの自治体では、委任状を提出することで親族などが代理で申請手続きを行うことを認めています。ただし、申請者本人(所有者など)の意思確認は必要です。
Q5. 解体後の土地はどのように管理すれば良いですか?
A5. 解体後の土地も所有者の管理責任となります。雑草が繁茂して近隣に迷惑をかけないよう、定期的な草刈りなど適切な管理が求められます。売却や駐車場としての活用など、早めに計画を立てておくと良いでしょう。

まとめ:まずは自治体への相談から始めよう

老朽危険空家の解体補助金は、高額な解体費用を大幅に軽減できる非常に有効な制度です。しかし、申請には多くの手順と書類が必要であり、注意すべき点も少なくありません。この記事のポイントを再確認しましょう。

  • 制度の確認:まずはお住まいの自治体に制度の有無、内容を確認する。
  • 早めの準備:予算には限りがあるため、年度初めには申請できるよう計画的に動く。
  • 手順の厳守:「交付決定前」の契約・着工は絶対にNG。
  • 税金の確認:解体後の固定資産税がどうなるか、事前に確認しておく。

危険な空き家を放置することは、ご自身だけでなく、地域全体のリスクとなります。この補助金制度をきっかけに、空き家問題の解決に向けて一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。まずは、あなたの空き家が所在する市区町村の担当窓口へ、気軽に相談してみることから始めましょう。