詳細情報
小児がんや白血病などの治療のために造血細胞移植(骨髄移植など)を受けると、それまでに受けた予防接種で獲得した免疫が低下・消失してしまうことがあります。これにより、子どもたちは再び様々な感染症のリスクに晒されることになります。このリスクを防ぐために推奨されるのが、ワクチンの「再接種」です。しかし、この再接種は任意接種扱いとなり、費用が全額自己負担となるため、家計にとって大きな負担となっていました。この記事では、そうしたご家庭の経済的負担を軽減し、お子様の健康を守るための「造血細胞移植後定期予防接種ワクチン再接種費用助成事業」について、対象者、助成額、申請方法などをどこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。この制度を活用し、安心して再接種を受けられるよう、ぜひ最後までお読みください。
重要:この助成制度は、お住まいの市区町村が実施主体です。申請手続きや助成内容の詳細は自治体によって異なる場合があります。必ず接種を受ける前に、お住まいの市区町村の予防接種担当課へ相談してください。
造血細胞移植後ワクチン再接種費用助成とは?
制度の目的と背景
この制度は、造血細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植)によって、移植前に接種した定期予防接種の免疫効果が失われた方に対し、再度のワクチン接種(再接種)にかかる費用を助成するものです。
目的は、感染症の発生を予防し、患者さんとそのご家族の経済的・精神的負担を軽減することにあります。これまで任意接種として自己負担だった再接種費用を公費で支援する動きが全国の自治体で広まっており、多くの方がこの制度を利用できるようになっています。
実施組織
実際に助成金の申請窓口となり、交付を行うのは、お住まいの市区町村です。都道府県は、その市区町村の取り組みを支援(補助)する形で関わっています。したがって、お問い合わせや申請は、ご自身の住民票がある市区町村の「予防接種担当課」や「健康推進課」などになります。
助成金額・補助率について
助成される金額は、再接種にかかった費用(実費)と、お住まいの自治体が定める上限額を比較して、いずれか低い方の金額となります。多くの場合、自己負担なく再接種が受けられるように設計されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成額 | 医療機関に支払った接種費用(実費)と、市町村が定める基準額のうち、いずれか低い方の額 |
| 補助率 | 実質100%(上限額の範囲内) |
| 計算例 | ・接種費用が15,000円、市の上限額が18,000円の場合 → 15,000円が助成されます。 ・接種費用が20,000円、市の上限額が18,000円の場合 → 18,000円が助成されます。 |
※上限額は、自治体が医療機関と契約している定期予防接種の委託料単価に準じることが一般的です。詳細は必ず自治体にご確認ください。
対象者・条件
助成を受けるためには、以下のすべての条件を満たす必要があります。
- 造血細胞移植を受けたことにより、移植前に接種した定期予防接種で得た免疫が低下または消失したと医師が認めていること。
- 再接種を受ける日において、お住まいの市区町村に住民登録があり、20歳未満であること。
- 移植前に、助成対象となるワクチンの定期接種を完了していること。
一部のワクチン(ヒブ、小児用肺炎球菌、四種混合、BCGなど)には、定期接種として接種できる年齢に上限が定められています。再接種であっても、この年齢を超えると助成対象外となる場合がありますので、特に注意が必要です。早めに医師や自治体と接種スケジュールを相談しましょう。
補助対象となる経費(ワクチン)
助成の対象となるのは、予防接種法で定められたA類疾病の定期予防接種です。具体的には以下のワクチンが該当します。
対象となるワクチン一覧
- ヒブ(Hib)感染症
- 小児の肺炎球菌感染症
- B型肝炎
- 五種混合(ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオ・ヒブ)
- 四種混合(ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオ)
- 二種混合(ジフテリア・破傷風)
- 不活化ポリオ
- MR(麻しん・風しん混合)
- 麻しん
- 風しん
- 水痘(みずぼうそう)
- 日本脳炎
- ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症
対象外となる経費
- ロタウイルスワクチン、BCGワクチン(自治体によっては対象外の場合が多い)
- 任意の予防接種(おたふくかぜ、インフルエンザなど)
- 接種のための診察料、文書料、抗体検査料
- 医療機関までの交通費
申請方法・手順(重要)
手続きの流れは自治体によって異なりますが、一般的には以下のステップで進みます。特に「接種前の手続き」が重要ですので、必ず確認してください。
ステップ1:お住まいの市区町村へ事前相談
まずは電話などで、お住まいの市区町村の予防接種担当課に連絡し、「造血細胞移植後のワクチン再接種費用の助成を受けたい」と伝えます。制度の対象になるか、どのような手続きが必要かを確認しましょう。
ステップ2:医師に「理由書(意見書)」を依頼
主治医に相談し、再接種が必要である旨を証明する「理由書」や「意見書」を作成してもらいます。この書類は自治体指定の様式がある場合がほとんどです。事前に自治体から様式を入手しておきましょう。
ステップ3:【自治体による】助成対象の認定申請(接種前)
久喜市のように、ワクチンを接種する前に「助成対象者」としての認定を受ける必要がある自治体もあります。この場合、ステップ2で作成した医師の意見書などを添えて申請します。認定通知書が届いてから、次のステップに進みます。
ステップ4:医療機関で再接種・費用支払い
医療機関でワクチンを再接種します。費用は一旦、全額自己負担で支払います。その際、「領収書」と「接種内容がわかるもの(予診票の写しや母子健康手帳の記録など)」を必ず受け取ってください。
ステップ5:助成金の交付申請(接種後)
接種が終わったら、必要書類を揃えて市区町村に助成金の交付申請を行います。申請期限は「接種日から1年以内」などと定められていることが多いです。
必要書類一覧(一般的な例)
- 助成金交付申請書兼請求書(自治体の窓口やHPで入手)
- 医師の理由書・意見書(自治体指定の様式)
- 母子健康手帳の写し(移植前の接種履歴と、再接種の履歴が確認できるページ)
- 接種費用の領収書(原本)
- 振込先金融機関の通帳またはキャッシュカードの写し
助成を受けるためのポイント
この助成金は、要件さえ満たせば基本的に受けることができます。スムーズに手続きを進めるためのポイントは以下の通りです。
- ポイント1:とにかく接種前に自治体へ相談する
これが最も重要です。「接種後に申請すればいい」と思い込まず、必ず事前に連絡しましょう。自治体ごとのルール(事前認定の要否など)を確認することで、手戻りを防げます。 - ポイント2:主治医と密に連携する
どのワクチンを、どのタイミングで再接種するかは、主治医の判断が不可欠です。助成制度について主治医と情報を共有し、理由書の作成などをスムーズに進められるように協力をお願いしましょう。 - ポイント3:書類は完璧に揃える
申請書、理由書、領収書、母子手帳のコピーなど、必要書類に漏れや不備がないか、提出前に何度も確認しましょう。特に領収書は「誰が」「いつ」「どのワクチンを」「いくらで」接種したかわかるように記載してもらうことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. どこに問い合わせれば良いですか?
A1. お住まいの市区町村の「予防接種担当課」「健康推進課」「保健センター」など、予防接種を管轄している部署にお問い合わせください。ウェブサイトで「(市町村名) 造血細胞移植 ワクチン」などと検索すると、担当課の情報が見つかることが多いです。
Q2. 接種前に手続きが必要だと知らずに、すでに接種してしまいました。もう助成は受けられませんか?
A2. 自治体によっては、やむを得ない事情として遡って対応してくれる可能性もゼロではありません。諦めずに、まずは事情を説明して担当課に相談してみてください。ただし、原則は事前手続きが必要な場合が多いです。
Q3. 住民票のある市町村とは別の、県外の病院で移植や再接種を受けました。対象になりますか?
A3. はい、対象になります。助成は住民票のある市区町村が行いますが、接種する医療機関の場所に制限はありません。国内の医療機関であれば問題ありません。
Q4. 申請してから助成金が振り込まれるまで、どのくらいかかりますか?
A4. 自治体の事務処理によりますが、一般的には申請書類に不備がなければ、申請から1〜2ヶ月程度で指定の口座に振り込まれることが多いです。
Q5. この再接種で健康被害が起きた場合、補償はありますか?
A5. この制度による再接種は「任意接種」の扱いになります。そのため、万が一健康被害が生じた場合は、予防接種法に基づく救済ではなく、「独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)」の医薬品副作用被害救済制度の対象となります。
まとめ:まずは自治体への一本の電話から
今回は、造血細胞移植後のワクチン再接種費用を支援する助成金制度について解説しました。長期にわたる治療を乗り越えたお子様を感染症から守るための重要な接種です。経済的な理由で再接種をためらう必要はありません。
この記事の重要ポイント
- 造血細胞移植で免疫が低下した20歳未満の方が対象。
- 再接種にかかる費用が、自治体の上限額の範囲で実費助成される。
- 必ず接種前に、お住まいの市区町村の予防接種担当課に相談する。
- 医師の理由書や領収書など、必要書類を確実に揃えることが大切。
手続きが少し複雑に感じるかもしれませんが、一つ一つのステップを確実に踏めば大丈夫です。この記事を参考に、まずは第一歩として、お住まいの市区町村の担当窓口へ連絡してみてください。担当者が親身に相談に乗ってくれるはずです。お子様の健やかな未来のために、この制度をぜひご活用ください。