障害者雇用の通勤課題を解決!重度障害者等通勤対策助成金とは?

障害者雇用を推進する上で、多くの事業主様が直面する課題の一つが「通勤」です。特に重度の障害を持つ方にとって、毎日の通勤は大きな負担となり、雇用の継続を困難にするケースも少なくありません。この課題を解決するために、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が提供しているのが「重度障害者等通勤対策助成金」です。

この助成金は、事業主が重度障害者等の通勤を容易にするための措置を講じる際に、その費用の一部を助成する制度です。住宅の賃借から通勤用車両の購入まで、幅広い支援メニューが用意されており、企業の経済的負担を軽減し、障害者の安定した雇用を後押しします。

この記事では、重度障害者等通勤対策助成金の8つの支援内容、対象者、支給額、申請方法について、公式情報を基に分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • 重度障害者等の通勤困難を解消するための助成金制度
  • 住宅、バス、自動車、介助者など8種類の多様な支援策
  • 助成率は原則4分の3。バス購入は最大700万円を助成
  • 申請は措置の実施前に必要。e-Govによる電子申請も可能

助成金の対象となる事業主と障害者

本助成金を利用できる事業主と、対象となる障害者の要件を確認しましょう。

対象事業主

重度身体障害者、知的障害者、精神障害者、またはその他通勤が特に困難と認められる身体障害者(以下、重度障害者等)を雇用し、通勤を容易にするための措置を行う以下の事業主が対象です。

  • 対象障害者を雇用する事業主
  • 対象障害者を雇用する事業主が加入する事業主団体

※国、地方公共団体、一部の特殊法人等は対象外です。
※対象障害者の雇用後6か月を超えて申請する場合、原則として対象外となります(中途障害や人事異動など、やむを得ない場合を除く)。

対象障害者

助成金の対象となるのは、以下の障害を持ち、通勤が困難であると認められる方です。措置の種類によって対象となる障害の範囲が異なります。

  • 重度身体障害者(身体障害者手帳1級・2級など)
  • 知的障害者
  • 精神障害者
  • その他、通勤が特に困難と認められる身体障害者(3級の視覚障害、3級・4級の下肢・体幹機能障害など)

8種類の助成金メニューを徹底解説

重度障害者等通勤対策助成金には、具体的な措置内容に応じて8種類のメニューがあります。それぞれの内容、支給額、支給期間などを表にまとめました。

助成金の種類 対象となる措置 助成率・支給限度額 支給期間
①重度障害者等用住宅の賃借助成金 事業主が障害特性に配慮した住宅を借り上げ、対象障害者を入居させる。 助成率: 3/4
限度額: 世帯用 月10万円 / 単身用 月6万円
10年間
②指導員の配置助成金 5人以上の対象障害者が入居する住宅に、通勤援助等を行う指導員を配置する。 助成率: 3/4
限度額: 月15万円(指導員1人あたり)
10年間
③住宅手当の支払助成金 対象障害者が自ら借りた住宅に対し、通常の住宅手当を超える額を支給する。 助成率: 3/4
限度額: 月6万円(対象障害者1人あたり)
10年間
④通勤用バスの購入助成金 5人以上の対象障害者のために通勤用バスを購入する。 助成率: 3/4
限度額: 700万円(バス1台あたり)
一括支給
⑤通勤用バス運転従事者の委嘱助成金 通勤用バスの運転業務を委嘱する。 助成率: 3/4
限度額: 1回6千円
10年間
⑥通勤援助者の委嘱助成金 公共交通機関を利用する際の指導・援助を行う通勤援助者を委嘱する。 助成率: 3/4
限度額: 1回2千円 + 交通費(月3万円まで)
1ヶ月間
⑦駐車場の賃借助成金 対象障害者が自ら運転する自動車通勤のために駐車場を借り上げる。 助成率: 3/4
限度額: 月5万円(対象障害者1人あたり)
10年間
⑧通勤用自動車の購入助成金 対象障害者が自ら運転する自動車を購入する。 助成率: 3/4
限度額: 150万円(両上肢障害1・2級は250万円
一括支給

【注意点】
住宅関連の助成金(①、③)と、通勤手段関連の助成金(④、⑤、⑦、⑧)は、同一の対象障害者に対して併給(同時に受給)することはできません。

申請から受給までの流れ

助成金を受給するためには、定められた手順に沿って申請を行う必要があります。大まかな流れは以下の通りです。

  1. 事前相談(推奨)
    計画している措置が助成金の対象となるか、最寄りの都道府県支部へ事前に相談することをおすすめします。
  2. 受給資格認定申請
    住宅の賃貸借契約や車両の購入契約など、措置を実施する前に「受給資格認定申請書」と必要書類を都道府県支部に提出します。
  3. 認定通知
    JEEDによる審査後、「受給資格認定通知書」が交付されます。この通知を受けてから、計画した措置(契約・購入など)を開始します。
  4. 支給請求
    措置を実施し、費用を支払った後、「支給請求書」と支払いを証明する書類等を提出します。助成金の種類により、支給請求は1回(購入など)または定期的(賃借料など、6ヶ月ごと)に行います。
  5. 助成金の受給
    審査後、指定の口座に助成金が振り込まれます。

令和7年4月から電子申請に対応!

従来は紙媒体での申請が主でしたが、令和7年4月1日からデジタル庁が運営する「e-Gov電子申請サービス」に対応しました。これにより、自宅や職場のパソコンから24時間いつでも申請手続きが可能となり、利便性が大幅に向上しています。

e-Gov電子申請の詳細はこちら(JEED公式サイト)

申請における重要事項と注意点

助成金を確実に受給するため、以下の点にご注意ください。

  • 申請のタイミング: 全ての措置は、JEEDから受給資格の認定を受けた後に行う必要があります。認定前に契約や購入を行った場合、助成金の対象外となります。
  • 不正受給のペナルティ: 偽りの申請など不正受給が発覚した場合、助成金の返還はもちろん、延滞金や違約金が課され、事業者名が公表されるなど厳しい措置が取られます。
  • 雇用継続義務: 施設や車両の購入に関する助成金を受けた場合、一定期間、対象障害者の雇用を継続する義務が生じます。
  • 書類の整備: 申請時だけでなく、受給後も出勤簿や賃金台帳など、雇用状況を明らかにする書類を適切に整備・保管する必要があります。

まとめ:助成金を活用し、誰もが働きやすい職場環境へ

「重度障害者等通勤対策助成金」は、障害を持つ従業員の「働きたい」という意欲と、事業主の「雇用したい」という思いをつなぐ、非常に有効な制度です。通勤のハードルを下げることで、優秀な人材の確保や定着率の向上、さらには企業の社会的責任(CSR)を果たすことにも繋がります。

自社の状況に合わせてどのメニューが活用できるか、まずは最寄りのJEED都道府県支部へ相談してみてはいかがでしょうか。この助成金を活用し、障害の有無にかかわらず誰もが活躍できる職場環境を実現しましょう。