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「ひとりで外出するのが不安」「もっと気軽に社会参加したい」そうお考えの障がいのある方や、そのご家族を力強くサポートするのが「移動支援事業」です。この制度は、障がい者総合支援法に基づき、各市区町村が実施している地域生活支援事業の一つで、ヘルパーが外出に付き添い、移動のサポートや必要な介助を行います。この記事では、移動支援事業の基本的な内容から、自治体ごとに異なる対象者や利用料金、具体的な申請手順まで、わかりやすく徹底解説します。公的な手続きから休日のレジャーまで、あなたの「行きたい」を叶えるための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。
この記事でわかること
- 移動支援事業の目的とサービス内容
- 同行援護・行動援護との明確な違い
- 自治体ごとの対象者や利用料金の比較
- どんな外出に利用できるかの具体例
- 申請からサービス利用開始までの具体的な流れ
移動支援事業とは?障がいのある方の社会参加を支える重要なサービス
制度の目的と根拠法
移動支援事業は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」に基づき、市区町村が主体となって実施する「地域生活支援事業」の一つです。その主な目的は、屋外での移動に困難がある障がい者(児)に対し、ガイドヘルパーを派遣することで、地域での自立した生活と積極的な社会参加を促進することにあります。
具体的には、社会生活上必要不可欠な外出(例:役所での手続き、買い物)や、余暇活動(例:映画鑑賞、イベント参加)の際に、ヘルパーが付き添い、移動中の安全確保やコミュニケーション支援、排泄・食事等の介助を一体的に行います。
同行援護・行動援護との違い
障がいのある方の外出を支援するサービスには、移動支援の他に「同行援護」と「行動援護」があります。これらは国の制度(介護給付)であり、移動支援(市区町村の制度)とは対象者や支援内容が異なります。混同されやすいため、違いをしっかり理解しておきましょう。
| サービス名 | 主な対象者 | 主な支援内容 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 移動支援 | 身体・知的・精神障がい者、難病患者等(自治体により異なる) | 社会参加や余暇活動のための外出支援全般 | 地域生活支援事業(市町村) |
| 同行援護 | 視覚障がい者 | 移動時の情報提供(代読・代筆)、安全確保 | 介護給付(国) |
| 行動援護 | 知的・精神障がい者(行動上の著しい困難がある方) | 行動上の問題(自傷・他害等)を予防・回避するための援護 | 介護給付(国) |
ポイント:原則として、同行援護や行動援護の支給決定を受けている方は、移動支援の対象外となります。どちらのサービスが適切か、市区町村の窓口や相談支援専門員とよく相談することが重要です。
【自治体別】移動支援事業の対象者と利用条件
移動支援事業の対象者は、国が示す大枠のガイドラインを基に、各市区町村が独自に定めています。そのため、お住まいの自治体によって要件が異なる点に注意が必要です。ここでは、いくつかの市の例を挙げて比較してみましょう。
各市の具体的な対象者要件比較
| 自治体 | 障がい種別ごとの主な要件 |
|---|---|
| 福岡市 |
|
| 金沢市 |
|
| 杉並区 |
|
このように、障がいの種別だけでなく、手帳の等級や「単独での外出が困難」といった具体的な状態像が要件に含まれることがわかります。ご自身が対象になるか不明な場合は、必ずお住まいの市区町村の障害福祉担当課に確認しましょう。
利用料金と利用者負担の仕組み
原則1割負担と負担上限月額
移動支援事業を利用した際の料金は、サービスにかかった費用の原則1割が利用者負担となります。ただし、家計に過度な負担がかからないよう、世帯の所得(市町村民税の課税状況)に応じて、1ヶ月あたりの負担額に上限が設けられています(負担上限月額)。
- 生活保護受給世帯: 0円
- 市町村民税非課税世帯: 0円
- 市町村民税課税世帯: 所得に応じて段階的な上限額が設定されます(例: 4,600円、9,300円、37,200円など)。
自治体による利用者負担額の比較例
利用者負担の具体的な金額や体系も自治体によって異なります。例えば、時間単位の料金設定や、加算制度などが設けられている場合があります。
| 自治体 | 利用者負担の例(課税世帯) | 特徴 |
|---|---|---|
| 金沢市 | 負担上限月額: 4,600円〜18,600円 | 重度の障害者手帳(身体1・2級、療育A、精神1級)所持者は無料。 |
| 杉並区 | サービス費用の3% | 負担割合が3%と低めに設定されている。 |
| 大津市 | 30分以内: 260円、1時間以内: 410円など | 時間刻みで具体的な負担額が定められている。 |
どんな外出に使える?対象となるサービス内容
移動支援は、大きく分けて「社会生活上必要不可欠な外出」と「余暇活動等の社会参加のための外出」に利用できます。ただし、利用できないケースもあるため、注意が必要です。
対象となる外出の例
- 社会生活上必要不可欠な外出: 官公署や金融機関での手続き、日用品の買い物、冠婚葬祭への出席、病院へのお見舞いなど。
- 余暇活動等の社会参加のための外出: 映画鑑賞、コンサート、スポーツ観戦、講演会や展覧会への参加、散歩、公園での運動、プールや銭湯の利用(※事業者の体制による)など。
対象とならない外出の例
- 通勤、営業活動などの経済活動に係る外出
- 学校への通学や事業所への通所など、通年かつ長期にわたる外出(※例外あり)
- ギャンブルや飲酒など、社会通念上不適当とされる外出
- ヘルパーが同行できない、または安全が確保できない活動(例:登山、海水浴)
通学・通院の例外ケース:原則として通学や定期的な通院は対象外ですが、主たる介護者(家族など)が病気や入院で一時的に送迎できない場合や、突発的な体調不良で病院に行く必要がある場合など、緊急性が高いと判断されれば例外的に利用が認められることがあります。詳しくは自治体にご相談ください。
申請から利用開始までの5ステップ
移動支援事業を利用するためには、事前の申請と支給決定が必要です。ここでは、一般的な手続きの流れを5つのステップで解説します。
- 市区町村の窓口へ相談: まずは、お住まいの市区町村の障害福祉担当課や相談支援事業所に相談し、制度の詳細や申請に必要なものを確認します。
- 支給申請書と必要書類の提出: 申請書に必要事項を記入し、障害者手帳の写しなどの必要書類を添えて窓口に提出します。
- 審査・支給決定・受給者証の交付: 市区町村が申請内容を審査し、利用の必要性を判断します。利用が認められると、利用できる時間数(支給量)などが記載された「受給者証」が交付されます。
- 事業者を選んで利用契約: 自治体のウェブサイトなどで公開されている移動支援事業者一覧から、利用したい事業者を選び、直接連絡してサービス内容の説明を受け、利用契約を結びます。
- 利用開始: 事業者と具体的な外出計画を立て、サービスの利用を開始します。利用の際は、必ず受給者証を事業者に提示してください。
申請に必要な書類一覧(一般的な例)
- 地域生活支援事業支給申請書
- 障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳など)の写し
- 世帯の所得状況がわかる書類(課税証明書など)
- 移動支援計画書(利用目的、時間、場所などを記載)※自治体による
- その他、自治体が必要と認める書類(例:医師の意見書など)
移動支援事業に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 同行援護や行動援護との違いは何ですか?
A1. 同行援護は視覚障がい者、行動援護は行動に著しい困難がある知的・精神障がい者を対象とした国の制度です。一方、移動支援はより幅広い障がいのある方を対象とし、社会参加や余暇活動など柔軟な目的で利用できる市区町村の制度です。原則として、同行援護・行動援護の対象者はそちらが優先されます。
Q2. 毎月の利用時間に上限はありますか?
A2. はい、多くの自治体で1ヶ月あたりの利用時間の上限(支給量)が定められています。例えば、金沢市では基本21時間(最大30時間)、杉並区では18歳以上で月50時間などが目安とされています。支給量は、本人の状況や必要性に応じて審査の上で決定されます。
Q3. 学校への送り迎え(通学)にも利用できますか?
A3. 原則として、通学や通所のような日常的・長期的な利用は対象外です。スクールバスや施設の送迎サービス、家族による送迎が基本となります。ただし、保護者の入院など、やむを得ない事情がある場合に限り、一時的に認められることがありますので、自治体にご相談ください。
Q4. ヘルパーさんと一緒にプールに入ることはできますか?
A4. 自治体や事業者によりますが、可能な場合があります。例えば金沢市では、事業者が損害保険への加入や救命講習の受講など、安全確保のための要件を満たしていれば、プールや銭湯内での介助も移動支援の対象としています。利用したい場合は、対応可能な事業者を探す必要があります。
Q5. 申請してからどのくらいで利用できますか?
A5. 自治体の審査期間や手続きによりますが、一般的には申請から支給決定まで数週間から1ヶ月程度かかることが多いです。その後、事業者との契約手続きがあるため、利用したい時期が決まっている場合は、早めに相談・申請を行うことをお勧めします。
まとめ:まずは、お住まいの自治体に相談してみよう
移動支援事業は、障がいのある方の行動範囲を広げ、豊かな社会生活を送るための心強い味方です。この記事で解説したように、制度の内容は市区町村によって様々です。だからこそ、最初の一歩として、お住まいの市区町村の障害福祉担当課や、地域の相談支援事業所に問い合わせてみることが何よりも大切です。
ご自身の状況や「こんな外出がしたい」という希望を伝えることで、移動支援事業が利用できるか、また、他に利用できるサービスはないかなど、専門的なアドバイスをもらうことができます。この制度を上手に活用し、あなたの世界をさらに広げていきましょう。