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「妊娠はするけれど、流産や死産を繰り返してしまう…」そんな不育症の悩みを抱え、心身ともに大きな負担を感じている方も少なくないでしょう。さらに、不育症の原因を特定するための検査や治療には、高額な費用がかかることもあり、経済的な不安がのしかかります。この記事では、そうした経済的負担を軽減するために国や地方自治体が設けている「不育症治療費助成事業」について、制度の概要から申請方法、注意点までを網羅的に解説します。ご自身が対象になるかを確認し、安心して治療に専念するための一助として、ぜひ最後までお読みください。
この記事のポイント
- 不育症治療費助成金は、流産・死産を繰り返す方の経済的負担を軽減する制度
- 助成額は自治体により異なり、最大30万円のケースも
- 対象となる検査・治療、申請条件、必要書類などを詳しく解説
- 申請期限の厳守が最も重要!治療が終わったらすぐに準備を
不育症治療費助成事業とは?
制度の目的と背景
不育症治療費助成事業は、妊娠はするものの2回以上の流産、死産、あるいは早期新生児死亡などを繰り返して、結果的に子どもを持つことができない「不育症」に悩む夫婦の経済的負担を軽減することを目的としています。原因を特定するための検査や、その後の治療にかかる費用の一部を国や自治体が助成することで、安心して子どもを産み育てられる社会環境の整備を目指す、少子化対策の一環としても位置づけられています。
実施主体はどこ?
この助成事業は、主に都道府県や市区町村が主体となって実施しています。そのため、お住まいの自治体によって、助成内容(助成額、対象となる治療の範囲、申請要件など)が異なります。申請を検討する際は、必ずご自身が住民登録をしている自治体の公式ホームページを確認するか、担当窓口(保健所や子育て支援課など)に問い合わせることが不可欠です。
【自治体別比較】助成金額・補助率はいくら?
助成される金額や補助率は、自治体によって大きく異なります。ここでは、いくつかの主要な自治体の例を比較してみましょう。ご自身の地域ではどのような支援が受けられるのか、調べる際の参考にしてください。
【重要】掲載している情報は記事作成時点のものです。最新かつ正確な情報は、必ずお住まいの自治体の公式サイトでご確認ください。
| 自治体名 | 助成上限額 | 補助率・回数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 10万円 | 1回の検査・治療につき1回 | 年齢・所得要件なし。札幌市、旭川市、函館市を除く道内在住者が対象。 |
| 東京都 | 5万円 | 夫婦1組につき1回限り | 妻の年齢が43歳未満。先進医療は別途助成あり。 |
| 札幌市 | 10万円 | 1回の治療期間につき1回(回数制限なし) | 指定医療機関での治療が対象。助成回数に制限がないのが特徴。 |
| 福岡県 | 5万円 | 対象費用の1/2(夫婦1組1回限り) | 妻の年齢が43歳未満。保険適用外の検査・治療が対象。 |
| 福山市 | 30万円 | 年度ごとに1回 | 妻の年齢が43歳未満。助成額が比較的高額。 |
あなたは対象?助成金の対象者・条件をチェック
助成を受けるためには、各自治体が定める要件をすべて満たす必要があります。ここでは、多くの自治体で共通する要件と、特に注意が必要な点について解説します。
共通する主な要件
- 2回以上の流産、死産、または早期新生児死亡の既往があること。(医師による不育症の診断も含む場合があります)
- 申請先の自治体(都道府県または市区町村)に住民登録があること。
- 法律上の婚姻関係にある夫婦、または事実婚関係にある夫婦であること。
- 他の自治体で同様の助成を受けていないこと。
自治体による違いと注意点
上記の共通要件に加え、自治体によっては以下のような独自の条件が設けられています。
- 年齢制限:「治療開始日における妻の年齢が43歳未満であること」といった年齢要件を設けている自治体が多くあります(例:東京都、福岡県、福山市)。一方で、北海道のように年齢要件がない場合もあります。
- 所得制限:以前は所得制限を設けている自治体もありましたが、近年は撤廃される傾向にあります(例:北海道は令和4年度から撤廃)。ただし、念のためお住まいの自治体の要件を確認しましょう。
- 事実婚の取り扱い:事実婚を対象に含む自治体は増えていますが、その場合「事実婚関係に関する申立書」や、両人の戸籍謄本(他に法律上の配偶者がいないことを証明するため)などの追加書類が必要になることが一般的です。
何に使える?補助対象となる検査・治療費
助成の対象となるのは、不育症の原因を特定するための検査費用や、医師が必要と認めた治療費用です。医療保険が適用されるか否かを問わない場合が多いですが、自治体によっては保険適用外の費用のみを対象とすることもあります。
対象となる主な検査・治療の例
- 【検査】子宮形態検査、内分泌検査、夫婦染色体検査、抗リン脂質抗体検査、凝固因子検査(血栓性素因スクリーニング)、絨毛染色体検査 など
- 【治療】低用量アスピリン療法、ヘパリン療法(在宅自己注射含む)、手術療法(子宮形成手術など)、着床前診断、カウンセリング など
- 【先進医療】「流死産検体を用いた遺伝子検査」など、先進医療として告示された不育症検査が対象となる場合があります。この場合、通常の助成とは別の要件(上限額や回数など)が適用されることがあります。
対象外となる費用
一般的に、以下のような費用は助成の対象外となります。
- 入院時の差額ベッド代、食事療養費
- 証明書などの文書作成料
- 治療に直接関係のない物品の購入費用
- 出産(流産・死産を含む)そのものにかかる費用
申請方法と必要書類の完全ガイド
助成金を受け取るには、期限内に正しい手順で申請を行う必要があります。ここでは、一般的な申請の流れと必要書類について解説します。
申請の基本的な流れ(ステップ・バイ・ステップ)
- 治療・検査の実施:医療機関で対象となる検査や治療を受け、費用を支払います。
- 証明書の依頼:治療を受けた医療機関に「不育症治療費助成事業受診等証明書」などの作成を依頼します。(文書作成料がかかる場合があります)
- 必要書類の準備:住民票や戸籍謄本など、その他の必要書類を揃えます。
- 申請:お住まいの自治体の担当窓口(保健所など)に、期限内にすべての書類を提出します。郵送や電子申請が可能な場合もあります。
- 審査・決定:提出された書類に基づき審査が行われ、後日、助成の可否が通知されます。
- 振込:助成が決定されると、指定した銀行口座に助成金が振り込まれます。(申請から振込まで2〜4ヶ月程度かかるのが一般的です)
必要書類チェックリスト
自治体により若干異なりますが、一般的に以下の書類が必要となります。
| 書類名 | 入手先・注意点 |
|---|---|
| 助成事業申請書 | 自治体のホームページからダウンロード、または窓口で入手。 |
| 受診等証明書 | 治療を受けた医療機関に作成を依頼。夫婦別々の医療機関の場合はそれぞれ必要になることも。 |
| 領収書および明細書のコピー | 証明書に記載された期間内のもの全て。院外処方の薬局の領収書も忘れずに。 |
| 住民票の写し | 発行後3ヶ月以内のもの。夫婦の続柄が記載され、マイナンバーは記載されていないもの。 |
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 夫婦が別世帯の場合や、事実婚の場合に必要。 |
| 振込先口座の通帳のコピー | 申請者名義の口座。金融機関名、支店名、口座番号、名義人がわかるページ。 |
最重要!申請期限はいつまで?
申請期限は絶対に厳守してください。いかなる理由があっても、期限を過ぎた申請は受け付けられないことがほとんどです。治療が終了したら、速やかに書類の準備に取り掛かりましょう。
申請期限の定め方は自治体によって様々です。
- 「1回の治療が終了した日の翌日から60日以内」(北海道)
- 「検査終了日から6か月以内」(東京都)
- 「治療費を最後に支払った翌日から2か月以内」(札幌市)
- 「検査・治療の終了日の属する年度末(3月31日)まで」(福岡県)
このようにルールが異なるため、ご自身の自治体の期限を正確に把握しておくことが非常に重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 保険適用の治療も助成の対象になりますか?
A1. 多くの自治体では、保険適用の有無を問わず助成対象としています(例:札幌市、福山市)。ただし、福岡県のように保険適用外の治療のみを対象とする場合もありますので、お住まいの自治体の要綱をご確認ください。
Q2. 治療を始める前に申請が必要ですか?
A2. いいえ、この助成金は「償還払い」が基本です。つまり、一度ご自身で医療機関に費用を全額支払った後、必要書類を揃えて申請し、後から助成金が振り込まれる仕組みです。事前の申請は不要です。
Q3. どの病院で受けた治療でも対象になりますか?
A3. 多くの場合は国内の医療機関であれば対象となりますが、札幌市のように「指定医療機関」での治療を要件としている自治体もあります。県外の医療機関で治療を受ける場合なども含め、事前に自治体に確認すると安心です。
Q4. 引っ越した場合、申請先はどこになりますか?
A4. 原則として「申請日時点で住民登録をしている」自治体に申請します。ただし、治療期間中に引っ越した場合など、要件が複雑になる可能性があります。該当する場合は、転居前と転居後の両方の自治体に問い合わせて、手続きを確認してください。
Q5. 申請書類の準備が期限に間に合いそうにありません。
A5. やむを得ない理由がある場合、事前に相談することで申請期間の延長が認められたり(例:札幌市)、一部の書類を後から提出することが認められたりする場合があります(例:東京都)。諦めずに、必ず申請期限前に担当窓口へ電話で相談してください。
まとめ:経済的な不安を解消し、治療に専念するために
不育症治療費助成事業は、流産や死産を経験し、精神的にも肉体的にも辛い状況にある方々にとって、経済的な負担を和らげる非常に心強い制度です。しかし、その内容は自治体によって様々であり、ご自身で情報を集め、期限内に正しく申請する必要があります。
この記事で解説したポイントを踏まえ、まずはお住まいの市区町村または都道府県の公式ホームページで最新の情報を確認することから始めてください。そして、不明な点があれば、遠慮なく担当窓口に問い合わせてみましょう。制度を賢く活用し、少しでも経済的な不安を解消して、ご自身の心と体のケア、そして治療に専念できることを心から願っています。