詳細情報
旧優生保護法(昭和23年~平成8年)の下で、意に反して不妊手術や人工妊娠中絶を受けさせられた方々に対し、国からの謝罪とともに補償金等を支給する新たな制度が開始されました。この法律は、長年の苦しみを強いられてきた被害者の方々の名誉と尊厳を回復し、その被害を救済することを目的としています。この記事では、最大1,500万円が支給される「旧優生保護法補償金」について、誰が対象になるのか、いくら受け取れるのか、そしてどのように申請すればよいのかを、専門家が一つひとつ丁寧に解説します。申請期限は令和12年1月16日までです。ご自身やご家族が対象かもしれないと感じる方は、ぜひこの記事を最後までお読みいただき、第一歩を踏み出すきっかけにしてください。
この制度の重要ポイント
- 国が正式に謝罪し、被害回復のために創設された制度です。
- 手術を受けた本人には補償金1,500万円と一時金320万円が支給されます。
- ご本人が亡くなられている場合、ご遺族による請求が可能です。
- 申請手続きは弁護士が無料でサポートしてくれます。
- 申請や相談に関する秘密は厳守されます。
旧優生保護法補償金制度の概要
制度の目的と背景
この制度は、令和6年7月3日の最高裁判所判決を受け、旧優生保護法が憲法に違反するものであったことを国が認め、被害者の方々に対して深く謝罪し、その精神的・身体的苦痛を慰謝するために創設されました。正式名称を「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」といい、令和7年1月17日に施行されました。
法律の前文では、国会及び政府がその責任を認め、心から深く謝罪するとともに、被害の回復を図り、このような事態を二度と繰り返さない決意を表明しています。これは単なる金銭的な支給に留まらず、被害者一人ひとりの名誉と尊厳の回復を目指すものです。
実施組織
この制度は国が実施するもので、担当省庁はこども家庭庁です。実際の請求受付や相談は、お住まいの各都道府県に設置された専門の窓口が行います。
支給額と対象者
支給内容は大きく3種類に分かれています。ご自身がどれに該当するか、ご確認ください。
| 支給内容 | 支給額(一律) | 主な対象者 |
|---|---|---|
| 優生手術等補償金 | 本人: 1,500万円 特定配偶者: 500万円 |
・優生手術等を受けた本人 ・その特定配偶者 ※亡くなられている場合はご遺族が請求可能 |
| 優生手術等一時金 | 320万円 | ・優生手術等を受けた本人(生存している方のみ) ※補償金とあわせて受給可能 |
| 人工妊娠中絶一時金 | 200万円 | ・優生思想に基づく人工妊娠中絶を受けた本人(生存している方のみ) ※優生手術等一時金との併給は不可 |
対象となる方(詳細)
対象となるのは、旧優生保護法が存在した期間(昭和23年9月11日~平成8年9月25日)に、特定の疾病や障害などを理由に、以下のいずれかの手術等を受けた方です。
- 生殖を不能にする手術(優生手術)を受けた方
- 人工妊娠中絶を受けた方
母体保護のみを理由とする手術や、本人が自ら望んだことが明らかな手術は対象外となりますが、判断が難しいケースも多いため、まずは窓口にご相談ください。
特定配偶者とは?
手術を受けた方の配偶者(事実婚含む)で、手術日から法律公布前日(令和6年10月16日)までの間に婚姻していた方などが対象となります。
ご遺族の範囲は?
ご本人が亡くなっている場合、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順で先順位の方が請求できます。
申請方法と手順
申請は、お住まいの都道府県の窓口を通じて行います。手続きの全体像は以下の通りです。
Step 1: 都道府県の窓口へ相談
まずは、お住まいの都道府県に設置されている「旧優生保護法補償金等受付・相談窓口」へ電話等で連絡します。プライバシーは厳守されますので、安心してご相談ください。この段階で、無料の弁護士サポートを利用したい旨を伝えることもできます。
Step 2: 必要書類の準備
申請には以下の書類が必要です。状況によって必要な書類が異なりますので、窓口や弁護士と相談しながら準備を進めましょう。
- 請求書(都道府県の窓口やホームページで入手)
- 住民票の写しなど(氏名、住所、生年月日がわかるもの)
- 振込先口座がわかる書類(通帳やキャッシュカードの写し)
- 医師の診断書(手術の痕跡などを確認。取得が難しい場合は相談可能)
- 診断書作成費用の領収書(費用は後日支給されます)
- その他、事実を証明する資料(障害者手帳、関係者の証言、戸籍謄本など)
- 【ご遺族の場合】亡くなった方との関係を証明する戸籍謄本など
Step 3: 請求書の提出
準備した書類を、お住まいの都道府県の窓口へ提出します。郵送での提出も可能です。
Step 4: 審査・認定・支給
提出された書類は、国に設置された審査会で審査されます。審査の結果、支給が認められると内閣総理大臣から認定通知が届き、指定した口座に補償金等が振り込まれます。
申請期限にご注意ください
この制度の申請期限は、法律の施行日から5年間、つまり令和12年1月16日(金)までです。期限を過ぎると請求できなくなりますので、早めにご相談・ご準備ください。
認定されるためのポイント
この制度は、一般的な補助金のような「採択率」があるものではなく、要件を満たしていることが確認されれば認定されます。認定に向けて重要なポイントを解説します。
ポイント1: 無料の弁護士サポートを最大限活用する
この制度の最も心強い点の一つが、弁護士による無料の請求サポート事業です。都道府県の窓口に相談すれば、弁護士を無料で紹介してもらえます。弁護士は、必要書類の収集、請求書の作成、国とのやり取りなど、複雑な手続きを全面的に支援してくれます。費用は国が負担するため、自己負担は一切ありません。精神的な負担を軽減するためにも、ぜひこのサポートを活用してください。
ポイント2: 手術の記録がなくても諦めない
「何十年も前のことで、手術の記録が残っていない」と諦める必要はありません。記録がない場合でも、医師の診断書(手術痕の確認など)や、ご家族・知人からの証言(陳述書)、子どもがいないことを示す戸籍謄本、当時の状況を示す障害者手帳など、様々な資料を組み合わせることで認定される可能性があります。どのような資料が有効か、窓口や弁護士に相談してみましょう。
ポイント3: 請求書にはできるだけ詳しく状況を記載する
請求書には、手術を受けた時期や場所、経緯などを記載する欄があります。記憶が曖昧な部分もあるかと思いますが、思い出せる範囲で、できるだけ具体的に記載することが重要です。ご自身の言葉で、当時の状況や思いを伝えることが、審査の際の重要な資料となります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 昔のことで記録が何もありませんが、申請できますか?
A1: はい、申請できます。公的な記録がなくても、医師の診断書や関係者の証言など、状況証拠を積み重ねることで認定される可能性があります。まずは諦めずに都道府県の窓口にご相談ください。
Q2: 申請したことが周りに知られてしまいますか?
A2: いいえ、知られることはありません。相談や申請に関わった職員や弁護士には守秘義務があり、ご本人の同意なく情報が外部に漏れることは一切ありません。プライバシーは固く守られます。
Q3: 弁護士に頼むとお金がかかりますか?
A3: いいえ、かかりません。都道府県の窓口を通じて紹介される弁護士のサポートは、国が費用を負担するため、完全に無料で利用できます。
Q4: 既に亡くなっている家族の分も申請できますか?
A4: はい、優生手術等補償金については、ご本人が亡くなられている場合、ご遺族が請求することができます。請求できる遺族の範囲と順位が定められていますので、窓口でご確認ください。
Q5: 以前の一時金(320万円)をもらっていますが、今回の補償金も申請できますか?
A5: はい、申請できます。以前の一時金(優生手術等一時金)を受給された方も、今回の補償金(1,500万円)の支給対象となります。手続きも簡略化される場合がありますので、ぜひ請求してください。
まとめ:一人で悩まず、まずは相談を
旧優生保護法による被害は、個人の尊厳を深く傷つけるものであり、その苦しみは計り知れません。今回の補償金制度は、その被害回復に向けた国の責任ある一歩です。
もし、ご自身やご家族が「もしかしたら対象かもしれない」と感じたら、どうか一人で抱え込まず、お住まいの都道府県の相談窓口に連絡してみてください。専門の相談員が親身に対応し、無料の弁護士サポートにも繋いでくれます。あなたの長年の苦しみが少しでも和らぐよう、この制度が正しく活用されることを願っています。
お問い合わせ先
国の相談窓口
こども家庭庁 旧優生保護法補償金等に関する相談窓口
電話:03-3595-2575(平日10時~17時)
お住まいの都道府県の相談窓口
具体的な請求や相談は、お住まいの都道府県の窓口が担当します。連絡先はこども家庭庁の公式サイトで確認できます。
こども家庭庁 旧優生保護法補償金等に係る特設ホームページ