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特別障害者手当と特別障害給付金の違いとは?制度の概要をわかりやすく解説
身体や精神に重度の障害があり、日常生活で特別な介護を必要とする方やそのご家族にとって、経済的な負担は非常に大きな課題です。国では、こうした方々の生活を支えるために「特別障害者手当」と「特別障害給付金」という2つの重要な制度を設けています。しかし、この2つの制度は名前が似ているため混同されがちですが、その目的や対象者は全く異なります。ご自身やご家族がどちらの対象になるのかを正しく理解することが、適切な支援を受けるための第一歩です。
この記事では、特別障害者手当と特別障害給付金の根本的な違いから、具体的な支給額、対象となる方の条件、申請から受給までの流れ、そして審査を通過するためのポイントまで、専門家が徹底的に解説します。この記事を最後まで読めば、ご自身が利用できる制度が明確になり、安心して手続きを進めることができるようになります。
この記事のポイント
- 「手当」と「給付金」の目的と対象者の決定的な違いがわかる
- それぞれの支給額や所得制限について正確に把握できる
- 申請に必要な書類や手続きの流れをステップバイステップで理解できる
- 障害年金との関係性や、審査における重要な注意点がわかる
一目でわかる!特別障害者手当と特別障害給付金の比較
まずは、2つの制度の全体像を把握するために、主要な項目を比較表で見てみましょう。この表を見るだけで、両者の根本的な違いが理解できます。
| 項目 | 特別障害者手当 | 特別障害給付金 |
|---|---|---|
| 目的 | 重度障害による精神的・経済的負担の軽減(福祉手当) | 国民年金未加入で障害基礎年金を受給できない方の救済 |
| 根拠法 | 特別児童扶養手当等の支給に関する法律 | 特別障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律 |
| 実施主体 | 国(窓口:市区町村) | 日本年金機構(窓口:市区町村) |
| 主な対象者 | 20歳以上で在宅の、著しく重度の障害があり常時介護が必要な方 | 国民年金任意加入対象だった元学生や被扶養配偶者など |
| 年金の加入歴 | 問われない | 任意加入期間に未加入だったことが要件 |
| 月額(目安) | 27,980円(令和5年度) | 1級: 56,850円 / 2級: 45,480円(令和7年度) |
支給額はいくら?2つの制度の金額と支給時期
経済的な支援を受ける上で、具体的な支給額は最も気になるポイントです。それぞれの制度の金額と支給時期について詳しく見ていきましょう。
特別障害者手当の支給額
特別障害者手当の支給額は、障害の等級に関わらず一律です。
- 支給月額:27,980円(令和5年4月現在)
- 支給時期:原則として毎年2月、5月、8月、11月の年4回
- 支給方法:それぞれの支給月に、前月分までの3ヶ月分がまとめて指定の口座に振り込まれます。
この金額は、物価の変動などに応じて改定されることがあります。
特別障害給付金の支給額
特別障害給付金の支給額は、障害の程度(障害基礎年金の等級に相当)によって異なります。金額は毎年度、物価の変動に応じて改定(物価スライド)されます。
- 1級相当に該当する方:月額 56,850円(令和7年度)
- 2級相当に該当する方:月額 45,480円(令和7年度)
- 支給時期:原則として毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の年6回
- 支給方法:それぞれの支給月に、前月分までの2ヶ月分がまとめて指定の口座に振り込まれます。
あなたはどっち?支給対象者と条件を徹底解説
ここが最も重要なポイントです。ご自身がどちらの制度の対象になる可能性があるのか、詳細な条件を確認していきましょう。
特別障害者手当の対象者と条件
特別障害者手当は、障害の重さと日常生活の状況が判断基準となります。以下のすべての条件を満たす方が対象です。
- 年齢:20歳以上であること。
- 居住地:日本国内に住所があること。
- 生活状況:在宅で生活していること。(社会福祉施設等に入所していない、病院等に継続して3か月を超えて入院していない)
- 障害の状態:精神または身体に著しく重度の障害があるため、日常生活において常時、特別な介護を必要とする状態であること。
障害程度の目安
「常時、特別な介護を必要とする状態」とは、具体的には以下のような状態が目安とされています。
・身体障害者手帳1級または2級程度の障害が2つ以上重複している。
・療育手帳(愛の手帳など)の最重度(1度)程度の知的障害と、重度の身体障害が重複している。
・上記と同等以上の疾病・精神障害があり、日常生活のすべてにおいて介護が必要な状態。
ただし、本人や配偶者、扶養義務者(同居の親族など)の前年の所得が一定額以上ある場合は、所得制限により支給が停止されます。
特別障害給付金の対象者と条件
特別障害給付金は、過去の国民年金の加入状況が最大のポイントです。障害基礎年金などを受給できない方を救済するための制度であり、対象者は限定されています。
以下のいずれかに該当し、かつ、国民年金に任意加入していなかった期間中に障害の原因となった病気やケガの初診日(初めて医師の診療を受けた日)があり、現在、障害基礎年金1級または2級相当の障害状態にある方が対象です。
- 対象者①(元学生):平成3年3月31日以前に、国民年金任意加入対象であった学生の方。
- 対象者②(元被扶養配偶者):昭和61年3月31日以前に、厚生年金や共済組合の加入者に扶養されていた配偶者の方。
重要な注意点として、障害基礎年金や障害厚生年金など、他の公的年金の障害給付を受けられる方は対象外です。また、原則として65歳に達する日の前日までに障害状態に該当し、請求を行う必要があります。こちらも受給者本人の前年の所得による支給制限があります。
申請から受給までの流れをステップ解説
ご自身が対象になる可能性があれば、次はいよいよ申請手続きです。どちらの制度も窓口は市区町村ですが、その後の流れや必要書類が異なります。
特別障害者手当の申請手順
申請は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で行います。
- 窓口で相談・書類の受け取り:まずは窓口で相談し、申請に必要な書類一式を受け取ります。
- 診断書の作成依頼:指定の様式の診断書を医師に作成してもらいます。
- 必要書類の準備・提出:申請書やその他の必要書類を揃えて窓口に提出します。
- 審査・認定:市区町村(または都道府県)で審査が行われます。(期間の目安:約1〜2ヶ月)
- 受給開始:認定されると、申請した月の翌月分から手当が支給されます。
【主な必要書類】
- 特別障害者手当認定請求書
- 特別障害者手当認定診断書(所定の様式)
- 所得状況届
- 戸籍謄本または抄本
- 本人名義の預金通帳の写し
- マイナンバーが確認できる書類(マイナンバーカードなど)
- その他、状況に応じて必要な書類(年金証書の写しなど)
特別障害給付金の申請手順
申請窓口は市区町村の国民年金担当窓口ですが、審査・認定は日本年金機構が行います。
- 窓口で相談・書類の受け取り:初診日や年金加入状況などを伝え、申請可能か相談します。
- 診断書・証明書の作成依頼:医師に診断書を、初診の病院に受診状況等証明書を依頼します。
- 病歴・就労状況等申立書の作成:発症から現在までの経緯を自分で詳しく記入します。
- 必要書類の準備・提出:すべての書類を揃えて窓口に提出します。
- 審査・認定:日本年金機構で専門的な審査が行われます。(期間の目安:約3〜6ヶ月)
- 受給開始:認定されると、年金証書が届き、申請した月の翌月分から給付金が支給されます。
【主な必要書類】
- 特別障害給付金請求書
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 診断書(障害認定日または請求日時点のもの)
- 受診状況等証明書(初診日を証明する書類)
- 病歴・就労状況等申立書
- 戸籍謄本、住民票など
- 本人名義の預金通帳の写し
- その他、学生であったことや被扶養配偶者であったことを証明する書類など
審査を通過するための重要ポイント
どちらの制度も、申請すれば必ず受給できるわけではありません。特に、障害の状態を客観的に証明する書類が審査の鍵を握ります。
ポイント1:診断書の記載内容
審査は主に提出された診断書に基づいて行われます。医師に作成を依頼する際は、日常生活でどのような支障が出ているか、どのような介護がどれくらいの頻度で必要なのかを具体的に伝え、実態に即した内容を正確に記載してもらうことが非常に重要です。
ポイント2:初診日の証明(特別障害給付金)
特別障害給付金では、「任意加入していなかった期間内」に初診日があることを証明しなければなりません。初診の医療機関で「受診状況等証明書」を取得するのが基本ですが、カルテが破棄されているなど取得できない場合は、当時の診察券やお薬手帳、第三者の証明など、初診日を推認できる参考資料をできる限り集める必要があります。
ポイント3:病歴・就労状況等申立書(特別障害給付金)
この書類は、診断書では伝わりきらない日常生活の困難さを伝えるための重要な自己申告書です。発症から現在までの経緯、通院歴、日常生活の状況(食事、着替え、入浴、移動など)について、具体的かつ時系列に沿って、矛盾なく記載することが求められます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 施設に入所したり、病院に長期入院した場合はどうなりますか?
A1. 特別障害者手当は、在宅での生活が前提のため、社会福祉施設等に入所した場合や、病院・診療所に継続して3か月を超えて入院した場合は、受給資格を失います。特別障害給付金には、このような入院・入所による支給制限はありません。
Q2. 障害年金と両方受給できますか?
A2. いいえ、できません。特別障害給付金は、そもそも障害年金を受給できない方のための制度です。また、特別障害者手当も、障害年金を受給している場合、その年金額によっては調整されたり、支給対象外となる場合があります。詳しくは市区町村の窓口にご確認ください。
Q3. 申請してから認定までどれくらいかかりますか?
A3. 目安として、特別障害者手当は約1〜2ヶ月、特別障害給付金は審査が複雑なため約3〜6ヶ月程度かかることが多いです。ケースによってはそれ以上かかる場合もありますが、認定されれば申請月の翌月分に遡って支給されます。
Q4. 65歳を過ぎてしまいましたが、もう申請できませんか?
A4. 特別障害給付金には経過措置があります。制度が始まった平成17年4月1日時点ですでに65歳を超えていた方など、特定の条件を満たす場合は65歳以降でも請求できる場合があります。諦めずに一度、年金事務所や市区町村の窓口に相談してみてください。
Q5. 所得制限はいつの所得で見られますか?
A5. 原則として、申請者本人や配偶者、扶養義務者の前年の所得が審査の対象となります。例えば、令和6年8月から令和7年7月までの支給分については、令和5年中の所得が基準となります。
まとめ:自分に合った制度を正しく理解し、まずは窓口へ相談を
今回は、混同しやすい「特別障害者手当」と「特別障害給付金」について、その違いと詳細を解説しました。
最後に重要なポイントを再確認しましょう
- 特別障害者手当:在宅で常時特別な介護が必要な重度障害者の方のための福祉手当。
- 特別障害給付金:国民年金に未加入だったことで障害年金がもらえない方への救済措置。
どちらの制度も、重度の障害を抱える方の生活を支えるための大切なセーフティネットです。申請には診断書など多くの書類が必要となり、手続きが複雑に感じられるかもしれません。しかし、対象となる可能性が少しでもあるのなら、諦めずにまずは一歩を踏み出すことが重要です。
最初のステップとして、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や国民年金担当窓口に連絡し、「自分の場合はどちらかの制度の対象になりますか?」と相談してみてください。専門の職員が、あなたの状況に合わせたアドバイスをしてくれるはずです。