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障害者雇用は、企業の社会的責任を果たす上で非常に重要ですが、同時に「どのような配慮が必要か」「施設改修にコストがかかるのでは」といった不安を抱える事業主の方も少なくありません。しかし、ご安心ください。国や自治体は、障害者雇用に積極的に取り組む企業を力強くサポートするため、多種多様な助成金・補助金制度を用意しています。これらの制度をうまく活用すれば、採用コストの負担を軽減し、障害のある方が働きやすい職場環境をスムーズに整備することが可能です。この記事では、障害者雇用に関連する主要な助成金・補助金を網羅的に解説し、対象者、金額、申請方法まで、事業主様が知りたい情報をわかりやすくお届けします。
この記事でわかること
- 国が実施する主要な障害者雇用助成金の種類と概要
- 自治体が独自に設けている補助金・奨励金の具体例
- 助成金の対象となる事業主や障害者の条件
- 申請から受給までの基本的な流れと必要書類
- 審査を通過しやすくなるための申請のポイント
障害者雇用に関する助成金・補助金の全体像
障害者雇用に関する支援制度は、大きく分けて国が主体となって実施する「助成金」と、各都道府県や市区町村が独自に行う「補助金・奨励金」の2種類があります。それぞれの目的や特徴を理解することが、自社に最適な制度を見つける第一歩です。
国の助成金と自治体の補助金の違い
国の助成金は、全国の事業主を対象としており、障害者雇用の促進という大きな目的のもと、雇入れ、職場定着、能力開発、環境整備など、様々な側面から支援するメニューが用意されています。一方、自治体の補助金は、その地域の雇用情勢や産業特性に合わせて設計されており、国の制度に上乗せする形での支援や、より地域に密着した独自の支援が特徴です。
助成金の共通要件
多くの助成金に共通する基本的な受給要件は以下の通りです。詳細な条件は各制度で異なりますが、まずはこれらの基本を押さえておきましょう。
- 雇用保険の適用事業所であること。
- 支給のための審査(書類提出、実地調査など)に協力すること。
- 定められた申請期間内に、適切な手続きで申請を行うこと。
- 過去に助成金の不正受給などを行っていないこと。
【目的別】国の主要な障害者雇用助成金一覧
ここでは、国の代表的な助成金を「雇入れ」「環境整備」「職場定着」の3つの目的に分けて詳しく解説します。
1. 障害者を新たに雇い入れる際の助成金
ハローワーク等の紹介を通じて、障害のある方を継続して雇用する場合に活用できる助成金です。採用に伴う経済的負担を軽減します。
■ 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
高齢者や障害者など、就職が特に困難な方を継続して雇用する事業主に対して支給されます。障害者雇用の助成金の中でも代表的な制度です。
| 対象労働者 | 助成額(中小企業の場合) | 支給期間 |
|---|---|---|
| 重度障害者等 | 240万円(月額20万円) | 3年 |
| 重度障害者等以外の身体・知的障害者 | 120万円(月額10万円) | 2年 |
| 短時間労働者 | 80万円(月額約6.7万円) | 2年 |
■ トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)
障害者を本格的に雇用する前に、原則3ヶ月間の試行雇用(トライアル雇用)を行う事業主に対して支給されます。企業と求職者のミスマッチを防ぎ、相互理解を深める良い機会となります。
- 支給額: 精神障害者の場合、最初の3ヶ月は月額最大8万円、その後3ヶ月は月額最大4万円。それ以外の障害者の場合は月額最大4万円を3ヶ月間。
- ポイント: 週20時間以上の勤務が難しい精神障害者等を対象に、より短い時間から始められる「障害者短時間トライアルコース」もあります。
2. 施設整備や雇用管理を支援する助成金
障害のある方が安全かつ快適に働けるよう、施設の整備や介助者の配置などを行った場合に活用できる助成金です。これらは主に「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」として、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が管轄しています。
■ 障害者作業施設設置等助成金
障害の特性により作業が困難な場合に、その作業を容易にするための施設や設備の設置・整備費用の一部を助成します。(例:スロープの設置、手すりの取り付け、作業補助機器の導入など)
■ 障害者介助等助成金
業務遂行に必要な介助者や手話通訳担当者などを配置・委嘱した場合の費用の一部を助成します。ICT(情報通信技術)を活用した遠隔での支援なども対象となる場合があります。
■ 重度障害者等通勤対策助成金
通勤が特に困難な重度障害者のために、事業主が送迎バスの購入や駐車場の賃借など、通勤を容易にするための措置を講じた場合に費用の一部を助成します。
3. 職場定着やキャリアアップを支援する助成金
雇用した障害のある方が長く働き続けられるよう、正規雇用への転換など、雇用の安定とキャリアアップを図る取り組みを支援します。
■ キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)
有期雇用で雇い入れた障害のある方を、正規雇用または無期雇用に転換した場合に支給されます。
| 転換内容 | 助成額(中小企業・重度障害者等の場合) |
|---|---|
| 有期 → 正規 | 120万円 |
| 有期 → 無期 | 60万円 |
| 無期 → 正規 | 60万円 |
【事例紹介】自治体が実施する補助金・奨励金
国の制度に加えて、多くの自治体が独自の支援策を実施しています。ここでは神奈川県の3つの市の例をご紹介します。お住まいの地域の制度については、必ず各自治体のウェブサイトや担当窓口でご確認ください。
- 神奈川県大和市「障がい者雇用促進補助金」: 市内の中小企業が障害者を1年以上常用雇用した場合、市内在住者なら5万円、市外在住者なら3万円を最大5年間補助します。
- 神奈川県海老名市「障がい者雇用促進奨励補助制度」: 市内の中小企業が障害者を新規雇用した場合に10万円、継続雇用の場合に市内在住者5万円、市外在住者4万円を補助します。
- 神奈川県平塚市「正規雇用促進補助金」: 障害者を含む就職困難者を正規雇用した市内事業者に対し、月額基本給の1/2(上限10万円)を6ヶ月分支給します。
申請方法と基本的な流れ
助成金の申請は、制度によって手順が異なりますが、一般的には以下の流れで進みます。計画の段階から専門機関に相談することが成功の鍵です。
- STEP 1: 相談・計画
管轄のハローワークやJEEDの支部、自治体の担当課に相談し、どの制度が利用できるかを確認します。必要に応じて、雇用計画や施設整備計画を作成します。 - STEP 2: 計画書の提出・認定
多くの助成金では、雇入れや措置の実施前に「計画書」を提出し、認定を受ける必要があります。このステップを忘れると助成金が受けられない場合があるので注意が必要です。 - STEP 3: 計画の実施
認定された計画に基づき、障害者の雇入れや施設の整備などを実施します。 - STEP 4: 支給申請
計画期間が終了した後、定められた期間内に「支給申請書」と必要書類を提出します。賃金台帳や出勤簿、費用の領収書などが必要になります。 - STEP 5: 審査・支給決定
提出された書類に基づき審査が行われ、支給が決定されると、指定の口座に助成金が振り込まれます。
採択されるための3つの重要ポイント
1. 計画の具体性と実現可能性
申請書には、なぜその措置が必要なのか、雇用する障害者の特性にどのように配慮するのか、雇用後にどのような業務を任せ、どう育成していくのかを具体的に記述しましょう。「誰が、いつ、何をするのか」が明確で、実現可能な計画であることが重要です。
2. 書類の正確性と期限の遵守
申請書類の不備は、不採択の最も多い理由の一つです。記入漏れや添付書類の不足がないか、提出前に何度も確認しましょう。また、計画書の提出期限や支給申請の期限は厳守です。スケジュール管理を徹底してください。
3. 事前の相談と情報収集
制度は頻繁に改正されます。必ず公式サイトで最新の情報を確認し、不明な点は申請前にハローワークやJEEDなどの専門機関に相談しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、よりスムーズな申請が可能になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 複数の助成金を併用することはできますか?
A1. 目的が異なる助成金であれば併用できる場合があります。例えば、「トライアル雇用助成金」で試行雇用した後、本採用して「特定求職者雇用開発助成金」を受給する、といったケースです。ただし、同一の経費に対して複数の助成金を受け取ることはできません。詳細は各制度の窓口にご確認ください。
Q2. 助成金はいつ振り込まれますか?
A2. 支給申請書を提出してから、審査を経て振り込まれるまで数ヶ月かかるのが一般的です。助成金は後払いが原則ですので、雇入れや設備投資にかかる費用は、一旦事業主が立て替える必要があります。
Q3. パートやアルバイトでも対象になりますか?
A3. 多くの助成金では、雇用保険の被保険者であることが要件となります。週の所定労働時間が20時間以上であれば、パートやアルバイトといった名称でも対象となる場合が多いです。短時間労働者向けの助成額が設定されている制度もあります。
Q4. 障害者手帳がなくても対象になりますか?
A4. 基本的には身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方が対象です。ただし、「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」のように、医師の診断書などで対象となる場合もあります。
Q5. 申請の相談はどこにすれば良いですか?
A5. まずは事業所の所在地を管轄するハローワークにご相談ください。ハローワークでは、企業の状況に応じた適切な助成金の案内や申請のサポートを行っています。施設整備など専門的な内容については、JEEDの都道府県支部が相談窓口となります。
まとめ:助成金を活用し、障害者雇用を成功へ
障害者雇用は、企業に多様な人材と新たな視点をもたらし、組織全体の成長に繋がる重要な取り組みです。国や自治体は、その一歩を踏み出す事業主を支援するために、今回ご紹介したような手厚い助成金・補助金制度を用意しています。これらの制度を賢く活用することで、経済的な負担を軽減し、障害のある方もない方も共に活躍できるインクルーシブな職場環境を実現できます。
まずは自社の状況を整理し、どのような支援が必要かを明確にした上で、最寄りのハローワークや自治体の窓口に相談することから始めてみましょう。この記事が、貴社の障害者雇用の推進の一助となれば幸いです。