日本産酒類の輸出拡大や新たな市場開拓を目指す酒類事業者の皆様へ朗報です。国税庁が実施する「令和7年度 酒類業振興支援事業費補助金」は、海外展開や国内の新市場開拓といった意欲的な取り組みを強力に後押しする制度です。本記事では、この補助金の概要から申請方法、注意点までプロの視点で分かりやすく解説します。
酒類業振興支援事業費補助金とは?
本事業は、酒類事業者による日本産酒類のブランディング、インバウンド需要の開拓、国内外の新市場開拓などの意欲的な取組を支援するものです。これにより、日本産酒類の輸出拡大と酒類業の経営改革・構造転換を図ることを目的としています。
この補助金のポイント
- 2つの申請枠: 「海外展開支援枠」と「新市場開拓支援枠」で多様なニーズに対応。
- 高額な補助上限: 海外展開支援枠では最大1,500万円、新市場開拓支援枠では最大500万円を補助。
- 幅広い経費が対象: 設備投資から広報費、マーケティング調査費まで事業に必要な経費を幅広くカバー。
- 賃上げ要件で補助率アップ: 新市場開拓支援枠では、賃上げ計画の策定で補助率が最大2/3に。
補助金の概要比較
本補助金には目的別に2つの申請枠が設けられています。自社の事業計画に合った枠を選択しましょう。
項目 | 海外展開支援枠 | 新市場開拓支援枠 |
---|---|---|
目的 | 日本産酒類の輸出拡大、インバウンド需要開拓 | 酒類業の経営改革・構造転換、国内新市場開拓 |
補助上限額 | 1,000万円(グループ申請で最大1,500万円) | 500万円 |
補助率 | 1/2 | 1/2 または 2/3(小規模事業者) |
主な申請要件 | 特になし | 給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させる事業計画の策定等 |
補助事業期間 | 交付決定日 ~ 令和8年2月28日(土) |
2つの申請枠を徹底解説
1. 海外展開支援枠
日本産酒類の輸出拡大やインバウンド需要の取り込みを目指す事業者を支援します。
対象となる取組例
- 海外ニーズを踏まえた現地調査、ブランド戦略の構築
- 海外の嗜好に合わせた新商品開発、新規ブランドの立ち上げ
- 海外での新規販路開拓や新たな販売手法の試行
- 酒蔵の観光化、酒蔵ツーリズムの推進によるインバウンド需要の拡大
- 地理的表示(GI)やテロワールを活用した海外向けブランディング
2. 新市場開拓支援枠
国内市場における新たなニーズ獲得や、生産性向上を目指す事業者を支援します。
対象となる取組例
- 食品とのペアリングに特化した商品や、地方産品を活用した商品の開発
- オーダーメイド商品の開発体制構築
- データ分析を用いた顧客の嗜好に合わせた販売手法の導入
- ICT技術を活用した製造・流通の高度化・効率化(AIによる品質管理システム導入など)
補助対象者と対象経費
補助対象者
以下の要件を満たす、日本国内に所在する事業者です。
- 酒税法の規定により、酒類の製造免許または酒類の販売業免許を受けている者(酒類業組合等を含む)。
- または、上記の酒類事業者を1者以上含むグループであること。
- 反社会的勢力でないことなど、公募要領に記載の不適当要件に該当しないこと。
補助対象経費
事業遂行に必要な幅広い経費が対象となります。ただし、交付決定日以降に発注し、補助事業期間内に支払いが完了したものに限ります。
経費区分 | 内容 |
---|---|
設備等費 | 機械装置、器具備品、情報システム等の購入・構築費 |
広報費 | パンフレット、動画作成、広告媒体の活用費 |
マーケティング調査費 | ユーザーニーズ調査等の実施費用 |
展示会等出展費 | 国内外の展示会、商談会、ECサイトへの出展費用 |
原材料等費 | 試作品開発に必要な原材料・副資材費 |
その他 | 謝金、旅費、委託費、外注費、産業財産権等取得費など |
⚠️ 重要な注意点
- 設備投資のみの事業は評価が劣後: 事業の経費が全て設備投資であり、設備の導入のみで完結する事業は審査で評価が低くなる可能性があります。導入した設備を活用した具体的な取組(新商品開発の着手、システムのテスト運用など)を事業計画に盛り込むことが重要です。
- 人件費は対象外: 補助対象経費に人件費は含まれません。
- 交付決定前の発注は対象外: 必ず国税庁からの交付決定通知書を受け取った後に、発注・契約等を行ってください。
申請スケジュールと手続きの流れ
申請から補助金受給までの大まかな流れは以下の通りです。計画的に準備を進めましょう。
- 1公募申請【事業者】
受付期間内に電子申請システム「jGrants」で申請します。 - 2審査・採択【国税庁】
外部有識者を含む審査委員会で審査が行われ、採択・不採択が通知されます。 - 3交付申請・決定【事業者→国税庁】
採択後、正式に交付申請書を提出し、国税庁から交付決定通知書が発行されます。 - 4補助事業実施【事業者】
この段階から事業を開始できます。経費の支払いなどを進めます。 - 5実績報告【事業者】
事業完了後、30日以内に実績報告書を提出します。 - 6確定検査・補助金支払【国税庁→事業者】
国税庁による検査後、補助金額が確定し、請求に基づいて補助金が支払われます。 - 7事業化状況報告【事業者】
事業完了後5年間、毎年度の事業化状況を報告する義務があります。
申請方法と問い合わせ先
申請は電子申請システム「jGrants」でのみ受け付けられます。申請には「GビズIDプライムアカウント」が必須です。アカウント発行には1~2週間程度かかる場合があるため、早めに準備を進めてください。
申請先・問い合わせ先
申請先は、国内における主たる事業実施場所を所轄する国税局となります。詳細は公募要領をご確認ください。
まとめ
「酒類業振興支援事業費補助金」は、酒類事業者が新たなステージへ挑戦するための強力な支援策です。この記事のポイントを再確認しましょう。
- 目的を明確に: 「海外展開」か「新市場開拓」か、自社の戦略に合った枠を選ぶ。
- 計画の具体性: 特に設備投資を行う場合は、その後の活用計画まで具体的に示すことが採択の鍵。
- 早めの準備: GビズIDの取得や事業計画の策定など、公募開始前から準備を始めることが重要。
- 公募要領の熟読: 対象経費や要件の詳細など、必ず最新の公募要領を隅々まで確認する。
この機会を最大限に活用し、事業の飛躍を目指しましょう。ご不明な点があれば、管轄の国税局へ早めに相談することをお勧めします。