自動車事故による悲劇を減らし、被害に遭われた方々を支えるための重要な制度、それが国土交通省の「被害者保護増進等事業費補助金」です。この制度は、自動車安全特別会計の運用益を活用し、被害者支援と事故防止の両面から社会の安全に貢献しています。本記事では、令和7年度の最新情報を基に、特に運送事業者、医療機関、介護施設などが活用できる補助金の内容をプロの視点で徹底解説します。
制度の全体像：自動車安全特別会計運用益活用事業とは？
この事業は、自動車損害賠償責任保険（自賠責保険）の運用益などを財源として、自動車事故に関する社会課題の解決を目指す国の取り組みです。大きく分けて以下の2つの柱で構成されています。
- 被害者保護増進対策：自動車事故で重い後遺障害を負った方やそのご家族、交通遺児への支援を充実させるための事業です。
- 自動車事故発生防止対策：先進安全技術の普及や運行管理の高度化などを通じて、新たな事故を未然に防ぐための事業です。
【令和7年度】補助金の主要事業を徹底解説
令和7年度の予算要求では、これまでの取り組みを継続・拡充するとともに、新たな課題に対応するための新規事業も盛り込まれています。ここでは、特に事業者が活用できる主要な補助事業をピックアップしてご紹介します。
1. 被害者支援対策（被害者を支えるための補助金）
短期入院協力事業
在宅で療養する重度後遺障害者が、介護者の休息（レスパイトケア）やリハビリ目的で安心して短期入院できるよう、受け入れ体制を整備する協力病院向けの補助金です。特殊浴槽や介護リフト、各種リハビリ機器などの導入費用が対象となります。
自動車事故被害者受入環境整備事業
いわゆる「介護者なき後」問題に対応するため、グループホームや障害者支援施設等の新規開設や、重度後遺障害者の受け入れ体制強化（設備導入、人材確保等）を支援する補助金です。
【新規】介護ロボット技術活用実証調査
介護ロボット技術を療護施設に導入し、治療・看護の効果や職員の負担軽減効果を調査する実証事業です。これにより、重度後遺障害者の療養環境の充実化を目指します。
2. 自動車事故発生防止対策（事故を未然に防ぐための補助金）
自動車運送事業の安全総合対策事業
トラック、バス、タクシーなどの運送事業者向けの補助金で、内容は多岐にわたります。
- 先進安全自動車（ASV）の導入支援：衝突被害軽減ブレーキなどを搭載した車両の導入を補助します。
- 車輪脱落事故防止検知システムの導入支援：増加傾向にある大型車の車輪脱落事故を防ぐためのハード対策として、検知システムの導入を支援します。
- 交通標識認識システム（TSR）の導入支援：逆走対策にも資するTSRの普及を促進します。
- 運行管理の高度化支援：デジタル式運行記録計（デジタコ）やドライブレコーダー、自動点呼機器などの導入を支援します。
- 健康起因事故防止支援：SAS（睡眠時無呼吸症候群）や脳・心疾患のスクリーニング検査費用を補助します。
補助金 基本情報一覧
代表的な事業の基本情報を表にまとめました。詳細は必ず公式の交付要綱をご確認ください。
| 事業名 | 主な対象事業者 | 主な補助対象経費 | 補助率 / 上限額 |
|---|---|---|---|
| 短期入院協力事業 | 協力病院として指定された医療機関 | 特殊浴槽、介護リフト等の医療器具・用具 | 定額または1/2、上限400～800万円 |
| ASV導入支援 | 自動車運送事業者 | 衝突被害軽減ブレーキ等のASV装置 | 導入費用の1/2 |
| 車輪脱落事故防止システム導入支援 | 大型車を保有する自動車運送事業者 | センサー付きナットキャップ等の検知システム | 導入費用の1/2 |
| デジタコ・ドラレコ導入支援 | 自動車運送事業者 | デジタル式運行記録計、ドライブレコーダー | 導入費用の1/2または1/3 |
| 受入環境整備事業 | グループホーム、障害者支援施設等 | 設備導入費、介護人材確保費 | 事業内容により異なる |
申請から受給までの5ステップ
- 1情報収集と事前相談
公式サイトや事務局で詳細を確認します。特に高額な設備投資を伴う「短期入院協力事業」などでは、事業着手前の事前相談が推奨されています。 - 2交付申請書の提出
申請期間内に、交付申請書や事業計画書などの必要書類を揃えて提出します。申請方法は事業により異なります。 - 3交付決定通知
提出された書類が審査され、採択されると国から交付決定通知書が届きます。事業の開始は必ずこの通知の後に行ってください。 - 4事業の実施と経費支払い
計画に沿って事業を実施し、経費を支払います。契約書、見積書、請求書、領収書、写真などの証拠書類は、後日の検査に備えて必ず保管してください。 - 5実績報告と補助金の請求
事業完了後、定められた期間内に実績報告書を提出します。内容が審査され補助金額が確定した後、請求書を提出し、補助金が振り込まれます。
申請前に知っておきたい重要ポイント
ポイント1：令和7年度の変更点に注意！
「短期入院協力事業」では、申請手続きが年度末に集中することを避けるため、申請期限が3回に分割されました。また、補助率もより実態に即した形（定額または1/2）に見直されています。最新の情報を確認し、計画的に申請しましょう。
ポイント2：予算と執行状況を意識する
補助金には当然ながら予算の上限があります。人気の事業は早期に受付が終了する可能性もあります。一方で、資料からは一部事業で執行率が低い課題も読み取れます。国は執行率改善のために要件見直しなどを行っており、見直しが入った事業は採択のチャンスが広がっている可能性があります。
ポイント3：証拠書類の徹底管理が成功の鍵
補助金事業の基本ですが、経費の正当性を証明するための証拠書類（見積書、契約書、請求書、領収書、写真など）の管理は非常に重要です。不備があると補助金が交付されない場合もあるため、事業開始前から整理・保管を徹底しましょう。
まとめと公式情報
国土交通省の「被害者保護増進等事業費補助金」は、自動車社会の安全と安心を支えるための多岐にわたる支援策です。運送事業者の安全投資、医療・介護現場の負担軽減など、社会貢献性の高い取り組みを後押しします。自社の事業が該当するかどうか、ぜひ一度公式サイトで詳細を確認し、活用を検討してみてください。