「施設の運営方針が定まらない」「自主事業の企画に行き詰まっている」「施設の改修計画をどう立てればいいかわからない」…そんな悩みを抱える劇場・音楽堂の運営担当者様へ。文化庁の委託事業として、専門家を無料で派遣してくれる強力な支援制度があるのをご存知ですか?
この記事では、公益社団法人全国公立文化施設協会が実施する「劇場・音楽堂等への芸術文化活動支援(支援員の派遣)」について、令和2年度の実施報告書をもとに、事業の概要から具体的な活用事例、次年度の応募に向けた準備まで、プロの視点で徹底解説します。
この記事でわかること
- ✓ 専門家派遣支援事業の全体像と目的
- ✓ どんな課題を相談できるのか(10の支援テーマ)
- ✓ 実際の活用事例と得られた成果
- ✓ 次年度の応募に向けて今からできる準備
「劇場・音楽堂等への芸術文化活動支援」とは?
この事業は、文化庁からの委託を受け、公益社団法人全国公立文化施設協会が実施するものです。目的は、全国の劇場・音楽堂等が抱える運営上の課題に対し、各分野の専門家(支援員)を派遣し、指導・助言を行うことで、施設の企画・運営能力の向上を図り、地域全体の文化芸術活動を活性化させることにあります。
事業の3大ポイント
- 費用は無料!:専門家の派遣にかかる謝金や旅費は事業費から支払われるため、施設の自己負担はありません。
- 幅広い相談内容:施設の運営方針や事業計画、企画制作、施設改修、新設に関する相談まで、10のテーマから幅広く相談が可能です。
- 高い採択率:令和2年度の実績では、応募54件に対し49件が採択(採択率約90%)されており、積極的に活用が推奨されています。
支援の基本情報をチェック
まずは事業の基本的な情報を表で確認しましょう。募集時期は年度によって変動する可能性があるため、あくまで参考としてご覧ください。
項目 | 内容 |
---|---|
事業名 | 劇場・音楽堂等への芸術文化活動支援(支援員の派遣による支援) |
実施団体 | 文化庁(委託元)、公益社団法人全国公立文化施設協会(実施主体) |
対象施設 | 全国の劇場、音楽堂等 |
支援内容 | 専門家(支援員)の派遣による指導・助言(年間最大3回まで) |
費用 | 無料(専門家の謝金・旅費は実施団体が負担) |
募集時期(参考) | 例年6月頃(令和2年度は6月1日~6月30日) |
どのような課題を相談できる?10の支援テーマ
この事業では、施設のハード面からソフト面まで、多岐にわたる課題に対応しています。具体的には以下の10テーマが設定されています。
- 運営方針等に関する指導助言
- 年間事業計画に関する指導助言
- 個別の自主企画事業の企画制作に関する指導助言
- 中期計画(3か年程度)の企画立案に関する指導助言
- 劇場・音楽堂等が行う芸術文化活動(創作活動)の企画制作に関する指導助言
- 施設の管理・運営に関する指導助言
- 施設の修繕・改修計画(個別施設計画等)の企画立案に関する指導助言
- 劇場・音楽堂等の新設に関する指導助言(基本構想立案段階でも可)
- 多言語対応、バリアフリーに関する指導助言
- その他劇場・音楽堂等の活性化につながる指導助言
特に、施設の改修や新設といった大規模なプロジェクトの初期段階から専門家の助言を得られるのは、非常に大きなメリットと言えるでしょう。
令和2年度の活用実績から見る支援事例
実際にどのような支援が行われたのか、令和2年度の報告書から3つの事例をピックアップしてご紹介します。
事例1: 中野市市民会館(長野県)- リノベーションに向けた運営方法の検討
建設から50年以上が経過し、リノベーションを控える市民会館。改修後の運営方法(市直営か指定管理か)や、市民協働の自主事業の進め方について支援を要請しました。支援員からは、各運営方法のメリット・デメリットや、市民参加型事業の先進事例が提供され、施設の基本的な考え方や目的をスタッフ間で共有し、意識を高める大きな成果につながりました。
事例2: 鶴岡市文化会館(山形県)- 事業計画と広報戦略の具体化
事業計画の立案や広報戦略に課題を抱えていた同館。支援員から先進的な劇場の事例紹介を受け、ディスカッションを実施しました。その結果、「地域の誇りをいかに獲得するか」という事業企画の核となるテーマを見出し、スタッフのモチベーション向上と、向かうべき方向性の具体化が図られました。
事例3: 小美玉市小川文化センター(茨城県)- 複数館ホールの計画改訂
市内に3つの文化ホールを抱え、その有効活用計画の改訂にあたり支援を要請。職員や住民で構成されるプロジェクトチームが支援を受けました。文化政策の変遷や経営戦略の視点からの解説により、計画策定における具体的な検証と目標設定の重要性を再認識し、今後の検討事項への気づきを得ることができました。
これらの事例からわかるように、本事業の最大の魅力は、各施設の個別の課題に対し、経験豊富な専門家と直接対話しながら、オーダーメイドの解決策を探れる点にあります。
申請から支援までの流れ(想定)
次年度に応募する場合の一般的な流れをまとめました。実際のプロセスは公募要項をご確認ください。
公募情報の確認
例年、春から初夏にかけて全国公立文化施設協会の公式サイトで公募情報が公開されます。定期的にチェックしましょう。
申請書類の準備
指定の申請書に、施設の現状、抱えている課題、支援してほしい内容などを具体的に記入します。課題が明確であるほど、効果的な支援につながります。
申請・審査
募集期間内に申請書類を提出します。その後、学識経験者等による審査会で派遣先や支援内容が決定されます。
支援の実施
採択後、支援員と日程を調整し、現地またはオンラインで支援が実施されます(年間最大3回)。
まとめ:次年度の活用に向けて今すぐ準備を!
「劇場・音楽堂等への芸術文化活動支援」は、施設の大小や運営形態に関わらず、抱えている課題を解決するための大きな一歩となる可能性を秘めた事業です。無料で専門家の知見を得られるこの貴重な機会を、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。
次年度の応募に向けた準備のポイント
公募開始に備え、今から自館の課題をスタッフ間で洗い出し、整理・言語化しておくことをおすすめします。「何に困っているのか」「どうなりたいのか」を明確にしておくことで、申請がスムーズになるだけでなく、支援の効果を最大限に高めることができます。