詳細情報
本記事では、文部科学省が実施した「先端研究設備整備補助事業(生命科学分野)」について、その目的、対象者、補助内容、そして採択に向けたポイントを過去の公募情報に基づき徹底解説します。日本の研究力向上を目指す本事業は、大学や研究機関にとって非常に重要な制度です。今後の同様の公募に備え、制度の全体像を把握しましょう。
先端研究設備整備補助事業(生命科学分野)の目的と背景
近年、日本の研究力が諸外国と比較して伸び悩んでいるという課題が指摘されています。この状況を打破するため、特に強みを持つべき生命科学分野において、研究環境を抜本的に改革することが急務とされています。
本事業は、「バイオ戦略2019」や「経済財政運営と改革の基本方針2019」に基づき、世界的に見ても導入が遅れているとされる最先端の研究設備を戦略的に整備することを目的としています。具体的には、以下の2つの大きな柱を掲げています。
- 研究力の向上: 若手研究者などが個人では保有できない高額な先端設備を整備・共用化することで、研究者全体の研究力を底上げします。
- イノベーション創出の場の形成: 産学官の垣根を越えた研究者が一つの設備を通じて集うことで、新たなアイデアや人材、研究が融合する「創発的研究」の場を形成し、日本の産業競争力強化に繋げます。
補助事業の具体的な内容
令和元年度補正予算で実施された公募では、特にニーズが高く、世界に劣後しているとされる以下の2つの事業区分で先端設備の整備が対象となりました。
対象となる先端研究設備
| 事業区分 | 対象設備 | 主な仕様 |
|---|---|---|
| 事業区分1 | クライオ電子顕微鏡 | 最新型(300kV、電子直接検出器等一式を含む) |
| 事業区分2 | 次世代シーケンサー | 1ラン当たり6Tbのデータ出力量が可能 |
補助対象機関と要件
本事業に応募できるのは、個人ではなく、以下の要件を満たす国内の機関です。
- 対象機関: 大学、高等専門学校、大学共同利用機関法人、独立行政法人など。
- 主な補助要件:
- 産学官への高い共用実績を有すること。
- 若手研究者を含む外部利用者のニーズを踏まえた設備であること。
- 設備の管理体制が明確で、利用料徴収などにより長期的な運営資金が確保できる見込みがあること。
- 整備後、高い共用率を設定し、3年以上の外部共用を確実に行うこと。
補助対象経費
補助の対象となる経費は、設備整備費のみです。具体的には、資産として取り扱う設備の取得、製造、または効用を増加させるための経費(据付け費用を含む)が該当します。人件費や消耗品費などのランニングコストは対象外となるため、機関内で別途確保する必要があります。
審査の観点と採択へのポイント
本事業の採択率は、令和元年度の実績で【事業区分1】が約7.7%(13件中1件)、【事業区分2】が約28.6%(7件中2件)と、非常に競争率の高い補助金です。採択を勝ち取るためには、審査の観点を深く理解し、戦略的な計画を立てることが不可欠です。
審査の2大ポイント
- 設備の整備計画: なぜその設備が必要なのか。国際動向や技術動向、外部利用者のニーズを踏まえた上で、日本の研究基盤強化にどう貢献できるかという、明確で妥当なビジョンが求められます。
- 設備の共用計画: 導入した設備をいかにして多くの研究者に活用してもらうか。産学官の幅広い研究者、特に若手研究者の利用を促進するための具体的な仕組み(技術支援員の配置、適切な利用料金設定、産業界との連携など)が重要視されます。
特に、設備の共用化は国全体の大きな方針です。内閣府の資料によれば、研究設備の共用文化の定着や老朽化対策、技術職員の育成・確保が大きな課題とされています。宮崎大学の「みやざきファシリティネットワーク」のように、大学全体、さらには地域全体で連携し、設備情報を共有・相互利用する体制を構築する取り組みは、高く評価される傾向にあります。
申請にあたっては、単に「最新の設備が欲しい」というだけでなく、「この設備を導入し、このような共用体制を構築することで、地域や日本の研究開発にこれだけのインパクトを与えることができる」という、説得力のあるストーリーを構築することが採択への鍵となります。
まとめ
「先端研究設備整備補助事業(生命科学分野)」は、日本の生命科学研究の未来を支える重要な制度です。高額な先端設備を導入する絶好の機会である一方、その競争は非常に激しいものとなっています。
本記事で解説したポイントは以下の通りです。
- 明確なビジョン: なぜその設備が必要で、日本の研究力向上にどう貢献するのかを明確にする。
- 戦略的な共用計画: 産学官、若手研究者など幅広い利用を促す、実効性のある共用体制を構築する。
- 持続可能な運営体制: ランニングコストを確保し、長期的に安定した運営が見込める計画を立てる。
今回解説した公募はすでに終了していますが、研究設備の共用化と戦略的導入の流れは今後も続くと考えられます。将来の公募に備え、自機関の研究戦略と設備整備計画を見直し、準備を進めておくことが重要です。最新情報は文部科学省のウェブサイトでご確認ください。