「未経験者を採用したいけど、適性があるか不安…」「採用してもすぐに辞めてしまうミスマッチを減らしたい」「採用コストを抑えながら、意欲のある人材を確保したい」
このような採用に関するお悩みをお持ちの事業主様は多いのではないでしょうか。
【結論】そのお悩み、厚生労働省の「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」が解決します。この制度は、職業経験の不足などから就職が困難な求職者を、常用雇用を前提に原則3ヶ月間試行雇用することで、採用のミスマッチを防ぎつつ、事業主の金銭的負担を軽減するものです。
この記事を最後まで読めば、トライアル雇用助成金の対象者、受給額、具体的な申請手順、そして助成金を確実に受給するためのポイントまで、全ての情報を網羅的に理解できます。貴社の採用活動を成功に導くための一助となれば幸いです。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の重要ポイント
- ✅ 1人あたり最大12万円を支給:対象者1人につき月額最大4万円(最長3ヶ月)。母子家庭の母等の場合は月額最大5万円(最大15万円)が支給されます。
- ✅ 採用ミスマッチを大幅に削減:原則3ヶ月のお試し期間で、求職者の適性や能力をじっくり見極めてから常用雇用に移行できるため、定着率向上が期待できます。
- ✅ 返済不要の助成金:融資とは異なり、返済の必要がないため、採用コストを直接的に削減できます。
- ✅ ハローワーク等が人材を紹介:自社で求人広告を出す手間やコストをかけずに、制度の利用を希望する意欲的な求職者と出会う機会が得られます。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは?
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、職業経験、技能、知識の不足などから安定的な就職が困難な求職者を、ハローワークや民間の職業紹介事業者等の紹介により、常用雇用への移行を前提として一定期間(原則3ヶ月)試行雇用(トライアル雇用)する事業主に対して支給される助成金です。この制度の目的は、求職者にとっては適性を判断する機会となり、事業主にとっては採用ミスマッチを防ぐことで、求職者の早期就職と雇用機会の創出を図ることにあります。申請方法や対象経費、公募要領を正しく理解することが受給への第一歩です。
基本情報テーブル
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成金額 | 対象者1人につき月額最大4万円(最長3ヶ月)。母子家庭の母等または父子家庭の父の場合は月額最大5万円。 |
| 支給対象期間 | 雇入れの日から1か月単位で最長3か月間 |
| 申請期限 | トライアル雇用終了日の翌日から起算して2か月以内(通年受付) |
| 実施組織 | 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク |
| 対象事業主 | 対象労働者をハローワーク等の紹介により試行雇用する雇用保険適用事業主 |
| 公式サイト | 厚生労働省 公式ページ |
助成金の詳細を徹底解説!
どんな人が対象? (対象者・対象外の具体例)
この助成金を利用するには、「事業主」と「労働者」の両方が特定の要件を満たす必要があります。
対象となる事業主の要件
まず、事業主は以下の「雇用関係助成金共通の要件」を満たす必要があります。
- 雇用保険の適用事業主であること。
- 支給のための審査に協力すること(書類提出や実地調査など)。
- 申請期間内に申請を行うこと。
これらに加え、トライアル雇用対象者をハローワーク、地方運輸局、または特定の職業紹介事業者の紹介によって雇い入れることが必須です。
対象となる労働者の要件
対象となる労働者は、紹介日において次のいずれかに該当し、かつ本人がトライアル雇用を希望している必要があります。
- ① 離職・転職の繰り返し: 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している方。
- ② 長期離職者: 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている方(パート・アルバイト等も含む一切の就労をしていない)。
- ③ 育児等による離職者: 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で安定した職業に就いていない期間が1年を超えている方。
- ④ 個別支援対象者: 60歳未満の方で、ハローワーク等で担当者制による個別支援を受けている方。
- ⑤ 特別な配慮を要する方: 生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父、日雇労働者、ホームレス、生活困窮者、ウクライナ避難民、補完的保護対象者など。
- 労働保険料の未納: 支給申請した年度の前年度より前の労働保険料を納めていない事業主は対象外です。
- 労働関係法令の違反: 申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反があった事業主は対象外となります。
- 対象外の労働者: 紹介日時点で、安定した職業に就いている方、自営業者や役員(週30時間以上実働)、在学中の学生(卒業年度の1月1日以降で内定がない場合を除く)は対象となりません。紹介時にハローワーク等で必ず確認しましょう。
何に使える? (助成金の使途)
トライアル雇用助成金は、特定の設備投資や経費を補助するものではなく、試行雇用期間中の人件費(賃金)の一部を補填することを目的としています。これにより、事業主は採用リスクとコストを軽減しながら、人材育成に注力できます。
助成金は後払いで支給されるため、直接的に「何に使うか」を指定されるわけではありませんが、実質的に以下のような費用負担の軽減に繋がります。
- トライアル雇用期間中の対象労働者への給与・賃金
- 社会保険料の事業主負担分
- 教育・研修にかかる費用(OJT担当者の人件費など)
- 業務に必要な備品や作業着などの初期費用
- 採用活動全体にかかるコストの補填
【対象外となる考え方】
この助成金は賃金補填が目的のため、「パソコン購入費」「広告宣伝費」といった特定の経費項目に対して直接支給されるものではありません。あくまで、雇用した結果として発生する人件費負担を軽減するためのものと理解してください。
メリットと注意点 (詳細解説)
メリット
- 採用ミスマッチの防止: 最大のメリットです。履歴書や数回の面接だけでは分からない、実際の業務適性、能力、人柄、職場への順応性などを3ヶ月間かけてじっくり見極められます。
- 採用コストの削減: 1人あたり最大12万円(または15万円)の助成金により、採用・育成期間中の人件費負担が軽減されます。
- 多様な人材の確保: 経験者採用市場では出会えない、潜在的な能力や高い意欲を持つ未経験者やブランクのある人材を発掘するチャンスが広がります。
- 常用雇用への円滑な移行: 試行期間を通じて業務内容や職場の雰囲気を理解してもらうことで、求職者側の不安も解消され、常用雇用後の定着率向上が期待できます。
- 公的機関による紹介: ハローワーク等が事前に求職者の状況を確認し、制度の趣旨を説明した上で紹介してくれるため、採用活動の効率化が図れます。
- 常用雇用が前提: この制度は、あくまで常用雇用への移行を前提としています。試行期間の終了をもって安易に雇い止めをすることは制度の趣旨に反します。正当な理由なく常用雇用へ移行させない場合、今後の助成金利用に影響が出る可能性があります。
- 助成金は後払い: トライアル雇用期間が終了し、支給申請を行った後に助成金が振り込まれます。期間中の賃金は事業主が全額立て替える必要があります。
- 手続きと期限の管理が必要: 「トライアル雇用実施計画書」の提出(雇入れから2週間以内)や「支給申請書」の提出(終了後2ヶ月以内)など、定められた手続きと期限を厳守する必要があります。
- 原則として解雇は不可: トライアル雇用期間中に対象労働者を解雇した場合、原則として助成金は支給されません(本人の責に帰すべき重大な理由など、やむを得ない場合を除く)。
- 労働条件の遵守: トライアル雇用期間中も、労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令は完全に適用されます。社会保険・雇用保険の加入義務も発生します。
申請の詳細ステップバイステップガイド
トライアル雇用助成金の申請は、採用活動と並行して進めます。以下の流れをしっかり把握しましょう。
- 【Step 1】トライアル雇用求人の提出
- 何をすべきか: 管轄のハローワーク等に「トライアル雇用併用求人」として求人を申し込みます。求人票に、トライアル雇用を希望する旨を明記することが重要です。
- 所要時間目安: 1日~数日
- つまずくポイント: 通常の求人と間違えて提出してしまうケース。必ず窓口で「トライアル雇用で」と伝えましょう。
- 【Step 2】対象者の紹介・選考
- 何をすべきか: ハローワーク等が、求人内容と制度の対象要件に合う求職者を紹介してくれます。紹介を受けたら、書類選考や面接を実施します。
- 所要時間目安: 1週間~1ヶ月程度
- つまずくポイント: 面接時に、求職者がトライアル雇用制度を正しく理解しているか確認することが大切です。認識のズレがあると後のトラブルに繋がります。
- 【Step 3】雇入れ・トライアル雇用開始
- 何をすべきか: 採用を決定し、対象者と有期雇用契約(原則3ヶ月)を締結します。労働条件通知書を交付し、雇用保険の加入手続きを行います。
- 所要時間目安: 1日
- つまずくポイント: 雇用保険の資格取得手続きを忘れないようにしましょう。これは後の計画書提出に必要です。
- 【Step 4】トライアル雇用実施計画書の提出
- 何をすべきか: 対象者を雇い入れた日から2週間以内に、紹介を受けたハローワーク等へ「トライアル雇用実施計画書」を提出します。雇用契約書等の写しも添付します。
- 所要時間目安: 1日(書類作成)
- つまずくポイント: この2週間という期限は絶対です。1日でも遅れると助成金は受給できなくなりますので最優先で対応してください。
- 【Step 5】トライアル雇用期間(原則3ヶ月)
- 何をすべきか: 計画書に基づき、OJT等を通じて業務の指導を行います。対象者の適性や能力を見極め、定期的に面談を行うなどしてコミュニケーションを図ります。
- 所要時間目安: 3ヶ月
- 【Step 6】常用雇用への移行または期間終了
- 何をすべきか: 期間終了後、双方が合意すれば常用雇用(無期雇用)契約へ移行します。移行しない場合は、期間満了で雇用契約終了となります。
- 【Step 7】支給申請書の提出
- 何をすべきか: トライアル雇用終了日の翌日から2ヶ月以内に、管轄の労働局またはハローワークへ「支給申請書」と必要書類(出勤簿、賃金台帳の写し等)を提出します。
- 所要時間目安: 数日(書類準備)
- つまずくポイント: こちらの期限も厳守です。また、添付書類に不備がないか、提出前に何度も確認しましょう。
- 【Step 8】審査・助成金の受給
- 何をすべきか: 労働局で審査が行われ、支給が決定されると、指定した口座に助成金が振り込まれます。
- 所要時間目安: 申請から1~2ヶ月程度
助成金を確実に受給するための3つの秘訣
トライアル雇用助成金は、事業計画の優劣を競うものではなく、要件を満たして正しい手続きを踏めば受給できる可能性が高い助成金です。しかし、手続きのミスで受給できないケースも少なくありません。ここでは、確実に受給し、制度を最大限活用するための秘訣を解説します。
秘訣1:ハローワークとの密な連携
この制度の成否は、ハローワーク(または職業紹介事業者)との連携にかかっていると言っても過言ではありません。求人票を提出する際には、どのような人材を求めているのか、どのような業務を任せる予定なのかを具体的に伝えましょう。また、紹介された求職者が本当に対象要件を満たしているか、紹介状や窓口で再確認することが重要です。疑問点があれば、その都度担当者に相談し、認識の齟齬がないように進めることが、後のトラブルを防ぎ、スムーズな申請に繋がります。
秘訣2:徹底した期限管理と書類準備
申請プロセスで最も重要なのが期限の厳守です。「実施計画書(雇入れ後2週間以内)」と「支給申請書(終了後2ヶ月以内)」の2つの期限は絶対に守らなければなりません。カレンダーやタスク管理ツールに登録し、リマインダーを設定するなど、組織的に管理する体制を整えましょう。また、支給申請時には出勤簿や賃金台帳など、日々の労務管理が適切に行われていることを証明する書類が必要です。普段から正確な勤怠管理と給与計算を徹底しておくことが、いざという時に慌てずに済むコツです。申請前に厚生労働省のウェブサイトで最新の様式と必要書類リストを必ず確認してください。(参考:助成金申請に必要な書類一覧)
秘訣3:トライアル雇用期間の有効活用
助成金を受給することだけが目的ではありません。この制度の最大の価値は「採用ミスマッチの防止」にあります。3ヶ月の期間を有効に活用するために、明確な育成計画を立てましょう。例えば、最初の1ヶ月は基本的な業務と社内ルールを学び、2ヶ月目はOJTで実践的なスキルを身につけ、3ヶ月目は独り立ちを目指す、といった段階的な目標を設定します。週に一度の短い面談でも良いので、進捗の確認や困っていることのヒアリングを行うことで、対象者の不安を解消し、モチベーションを高めることができます。このような丁寧なフォローが、最終的に常用雇用後の高い定着率に繋がります。
公募開始から入金までの全スケジュール
トライアル雇用助成金は通年で利用できるため、特定の「公募期間」はありません。事業主が人材を必要としたタイミングでいつでも活用を開始できます。一般的なタイムラインは以下の通りです。
- 【開始前】求人提出~採用決定(約1週間~1ヶ月)
ハローワークに求人を提出し、候補者の紹介を受け、選考を行う期間です。
- 【雇入れ~2週間】実施計画書の提出
採用決定後、対象者を雇い入れ、この期間内に必ず実施計画書を提出します。
- 【雇入れ後3ヶ月間】トライアル雇用期間
対象者が実際に勤務し、適性を見極める期間です。この間の賃金は事業主が支払います。
- 【期間終了後2ヶ月間】支給申請期間
トライアル雇用が終了したら、この期間内に支給申請書と添付書類を提出します。
- 【申請後 約1~2ヶ月】審査・入金
労働局での審査を経て、問題がなければ指定口座に3ヶ月分の助成金がまとめて振り込まれます。
全体として、採用活動を開始してから助成金が入金されるまで、最低でも5~6ヶ月程度はかかると見込んでおきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1: 他の助成金と併用できますか?
- A1: はい、一部可能です。例えば、トライアル雇用終了後に常用雇用へ移行した対象者(母子家庭の母等)が要件を満たす場合、「特定求職者雇用開発助成金」の一部を受給できることがあります。ただし、同一の雇用に対して複数の助成金を重複して受給することはできません。詳しくは管轄の労働局にご確認ください。
- Q2: トライアル雇用期間中に従業員が自己都合で辞めてしまった場合、助成金はもらえませんか?
- A2: いいえ、もらえます。自己都合退職や無期雇用への早期移行など、期間の途中で終了した場合は、実際に就労した日数に応じて助成金額が日割り(月額の計算式に基づく)で計算され、支給されます。
- Q3: 必ず常用雇用へ移行させなければならないのでしょうか?
- A3: 法律上の義務ではありません。トライアル雇用の結果、適性がない、能力が不足しているなど、合理的な理由がある場合は常用雇用への移行を見送ることも可能です。ただし、制度の目的は常用雇用への移行ですので、正当な理由なく移行させないことが続くと、今後の助成金の利用が難しくなる可能性があります。
- Q4: パートタイマーの採用でも対象になりますか?
- A4: 原則として、1週間の所定労働時間が30時間以上の無期雇用を希望している方が対象です。そのため、短時間のパートタイマーは対象外となることが多いです。ただし、対象労働者が日雇労働者、ホームレス等の場合は20時間以上で対象となる例外があります。
- Q5: 申請手続きは複雑ですか?社会保険労務士に依頼すべきでしょうか?
- A5: 他の事業計画書を審査する補助金に比べると、手続きは定型的です。要件確認と期限管理をしっかり行えば、自社での申請も十分可能です。しかし、書類作成に不安がある、本業が忙しく手が回らないといった場合は、専門家である社会保険労務士に依頼するのも有効な選択肢です。
- Q6: 支給申請の期限を過ぎてしまったら、どうなりますか?
- A6: 残念ながら、原則として助成金を受給することはできません。天災など、やむを得ない理由がある場合は認められる可能性もありますが、基本的には期限厳守とお考えください。
- Q7: 助成金はいつ頃振り込まれますか?
- A7: 支給申請書を提出してから、審査を経て振り込まれるまで、通常1~2ヶ月程度かかります。書類に不備があるとさらに時間がかかる場合があるため、提出前の確認が重要です。
- Q8: 過去に従業員を解雇したことがありますが、申請できますか?
- A8: 申請日から過去6か月間に事業主都合の解雇(勧奨退職等を含む)を行っている場合など、雇用関係助成金共通の不支給要件に該当すると対象外になる可能性があります。詳細は「雇用関係助成金共通の要件」をご確認ください。
まとめ:採用のミスマッチを防ぐ第一歩を踏み出そう
この記事では、トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)について、その概要から対象者、メリット・注意点、申請の具体的なステップ、そして受給の秘訣までを網羅的に解説しました。
この助成金は、単にお金がもらえるだけでなく、企業の成長に不可欠な「人材」の採用ミスマッチという大きな課題を解決するための強力なツールです。お試し期間を設けることで、企業文化に合う、長く活躍してくれる人材を見極めることができます。
採用にお悩みの事業主様は、ぜひこの制度の活用を検討してみてください。まずは、貴社の所在地を管轄するハローワークに相談することから始めてみましょう。
他にも、事業内容や地域によっては様々な助成金が用意されています。例えば「東京都の創業支援助成金一覧」などもご確認いただくと、さらなる事業拡大のヒントが見つかるかもしれません。