はじめに:障害者雇用の「通勤」の壁を乗り越える
「優秀な人材だが、通勤が困難で採用をためらってしまう」「障害を持つ従業員の通勤負担を軽減し、長く働いてもらいたい」
このような課題を抱える事業者様を力強く支援するのが、重度障害者等通勤対策助成金です。この助成金は、障害特性により通勤が困難な従業員のために、事業主が講じる様々な通勤円滑化の措置に対して費用の一部を助成する制度です。障害者の雇用促進と職場定着を目的としています。
この助成金のポイント
- 障害者の通勤困難を解消するための8つの多様な支援メニューが用意されている。
- 住宅の賃借、送迎バスの購入、駐車場の確保など、幅広いニーズに対応。
- 助成率は原則対象費用の3/4と手厚い支援が受けられる。
本記事では、この重度障害者等通勤対策助成金の8つの支援メニューについて、対象者、支給額、申請手続きまで、専門家が分かりやすく徹底解説します。
8つの支援メニュー全体像
本助成金は、事業主が実施する通勤対策の内容に応じて、以下の8つの助成金に分かれています。自社の状況や対象となる従業員のニーズに合わせて、最適な支援を選択できます。
| No. | 助成金名称 | 支援内容 |
|---|---|---|
| Ⅰ | 重度障害者等用住宅の賃借助成金 | 事業主が障害者用の住宅を借り上げる費用を助成 |
| Ⅱ | 指導員の配置助成金 | 集合住宅に指導員を配置する費用を助成 |
| Ⅲ | 住宅手当の支払助成金 | 事業主が障害者に支払う住宅手当を助成 |
| Ⅳ | 通勤用バスの購入助成金 | 5人以上の障害者のための送迎バス購入費用を助成 |
| Ⅴ | 通勤用バス運転従事者の委嘱助成金 | バス運転手を外部に委嘱する費用を助成 |
| Ⅵ | 通勤援助者の委嘱助成金 | 通勤に付き添う援助者を外部に委嘱する費用を助成 |
| Ⅶ | 駐車場の賃借助成金 | 自動車通勤者のための駐車場を借り上げる費用を助成 |
| Ⅷ | 通勤用自動車の購入助成金 | 障害者が利用する通勤用自動車の購入費用を助成 |
対象となる事業者と障害者
対象となる事業主
以下の要件をすべて満たす事業主(または事業主団体)が対象です。
- 助成対象の通勤対策を実施しなければ、対象障害者の雇用や雇用の継続が困難であると認められること。
- 過去に障害者雇用納付金制度関連の助成金で不正受給をしていないこと。
- 不正受給による返還金がある場合、その返還が完了していること。
対象となる障害者
原則として、以下のいずれかに該当する方が対象となります。ただし、助成金の種類によって要件が一部異なる場合があります。
- 重度身体障害者
- 3級の体幹機能障害者、視覚障害者
- 3級または4級の下肢障害者
- 知的障害者
- 精神障害者
- その他、特定の障害が重複する方など
⚠️ 注意点
「通勤用自動車の購入助成金」については対象障害者の要件が異なります。詳細は管轄の都道府県支部へお問い合わせください。
支給額・補助率・支給期間まとめ
各助成金の支給額は、対象費用の3/4を基本とし、それぞれ上限額と支給期間が定められています。ここでは、その概要を一覧表でご紹介します。
| 助成金名称 | 補助率 | 上限額 | 支給期間 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ. 住宅の賃借 | 対象費用の 3/4 |
月10万円(世帯用) 月6万円(単身用) |
10年間 |
| Ⅱ. 指導員の配置 | 月15万円 | 10年間 | |
| Ⅲ. 住宅手当の支払 | 月6万円(1人あたり) | 10年間 | |
| Ⅳ. 通勤用バスの購入 | 1台700万円 | ― | |
| Ⅴ. バス運転手の委嘱 | 1回6,000円 | 10年間 | |
| Ⅵ. 通勤援助者の委嘱 | 費用: 1回2,000円 交通費: 3万円 |
1ヶ月 | |
| Ⅶ. 駐車場の賃借 | 月5万円 | 10年間 | |
| Ⅷ. 通勤用自動車の購入 | 1台150万円 (特例250万円) |
― |
申請手続きの流れ
助成金を受給するための手続きは、大きく分けて2つのステップで進みます。
-
1
受給資格認定申請
まず、助成金を受ける資格があるかどうかの認定を受けます。各助成金で定められた期間内に、必要書類を管轄の都道府県支部へ提出します。措置を開始する前に申請が必要なものが多いため、計画段階で早めに相談することが重要です。
-
2
支給請求
受給資格の認定を受けた後、実際にかかった費用について支給を請求します。こちらも定められた期間内に、必要書類を提出する必要があります。
⚠️ 申請期限は厳守!
申請期限は助成金の種類によって大きく異なります。例えば、バスや自動車の購入は購入予定日の前日までに認定申請が必要ですが、住宅の賃借は契約日の翌日から3ヶ月以内です。計画段階で必ず管轄支部に確認しましょう。
助成金の活用事例
実際にこの助成金はどのように活用されているのでしょうか。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が公開している事例をいくつかご紹介します。
事例1:駐車場の賃借助成金
両下肢機能障害のある従業員が自動車通勤をするにあたり、会社の近くに駐車場を確保。通勤負担が大幅に軽減され、安心して就業を継続できるようになった。(令和5年度事例)
事例2:重度障害者等用住宅の賃借助成金
上肢・体幹機能障害のある従業員のため、会社が職場の近くにバリアフリー対応の住宅を賃借。長距離通勤の負担がなくなり、安定した雇用につながった。(令和4年度事例)
事例3:住宅手当の支払助成金
精神障害のある従業員が職場の近くに転居する際、他の従業員より手厚い住宅手当を支給。経済的負担を軽減し、通勤しやすい環境を整えることで、職場定着を支援した。(令和2年度事例)
まとめと相談窓口
重度障害者等通勤対策助成金は、障害者雇用の大きなハードルとなる「通勤」の問題を解決するための、非常に強力な制度です。8つの多様なメニューから自社の状況に合った支援を選ぶことで、障害者の雇用促進と定着を大きく前進させることができます。
成功の鍵は「早期相談」
この助成金は要件や申請期限が複雑なため、障害者の採用計画や支援策を検討する早い段階で専門機関に相談することが成功の鍵です。制度の詳細や申請手続きについては、下記の公式ウェブサイトを確認するか、最寄りの窓口へお問い合わせください。
お問い合わせは、最寄りの都道府県支部高齢・障害者業務課へ
対象者・対象事業
重度障害者等を雇用し、その通勤を容易にするための措置を行う事業主または事業主団体
必要書類(詳細)
障害者助成金受給資格認定申請書、障害者助成金支給請求書、その他措置内容に応じた必要書類(賃貸借契約書、購入見積書、委嘱契約書など)。詳細は管轄の都道府県支部へ要問合せ。
対象経費(詳細)
住宅賃借料、指導員人件費、住宅手当、通勤用バス・自動車購入費、バス運転手・通勤援助者への委嘱費、駐車場賃借料など、8つの通勤対策措置にかかる費用。
対象者・対象事業
重度障害者等を雇用し、その通勤を容易にするための措置を行う事業主または事業主団体
必要書類(詳細)
障害者助成金受給資格認定申請書、障害者助成金支給請求書、その他措置内容に応じた必要書類(賃貸借契約書、購入見積書、委嘱契約書など)。詳細は管轄の都道府県支部へ要問合せ。
対象経費(詳細)
住宅賃借料、指導員人件費、住宅手当、通勤用バス・自動車購入費、バス運転手・通勤援助者への委嘱費、駐車場賃借料など、8つの通勤対策措置にかかる費用。