低濃度PCB(ポリ塩化ビフェニル)に汚染された廃棄物の処理期限、2027年(令和9年)3月31日が目前に迫っています。この期限内の適正処理を強力に後押しするため、国(環境省)は中小企業や個人事業主を対象とした助成金制度を設けています。本記事では、負担を大幅に軽減できる「低濃度PCB助成金」の概要、対象者、申請方法などを分かりやすく解説します。
国の「低濃度PCB廃棄物処理支援事業(助成金)」とは?
この助成金は、低濃度PCB廃棄物の処理期限(2027年3月31日)までの適正処理を加速させることを目的に、国(環境省)が創設した制度です。中小企業者等が保管する低濃度PCB廃棄物の分析や処理にかかる費用の一部を補助することで、経済的負担を軽減し、早期処理を促進します。
執行団体は「公益財団法人 産業廃棄物処理事業振興財団」が務めており、申請の窓口となっています。
そもそも低濃度PCB廃棄物とは?
PCB濃度が0.5mg/kgを超え、5,000mg/kg以下の電気機器(変圧器、コンデンサー等)や、それに汚染された絶縁油、ウエスなどが該当します。かつては優れた性能から広く使われていましたが、人体への毒性が問題となり、現在は製造・使用が禁止されています。保管事業者には、法律(PCB特措法)に基づき、期限内の適正な処理が義務付けられています。
助成金の対象者|あなたは対象?
この助成金は、主に以下の方々を対象としています。ご自身が該当するか確認しましょう。
① 中小企業者(個人事業主を含む)
業種ごとに定められた「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する従業員の数」のいずれかを満たす必要があります。また、実質的に大企業の子会社とみなされる「みなし大企業」は対象外となるため注意が必要です。
| 業種 | 資本金または出資の総額 | 常時使用する従業員数 |
|---|---|---|
| 製造業、建設業など | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
※上記は一例です。詳細は公式サイトでご確認ください。
② その他の法人
医療法人、学校法人、社会福祉法人、宗教法人などで、常時使用する従業員数が一定数以下の場合に対象となります。
③ 個人
事業を廃止した法人からPCB廃棄物を継承して保管している個人や、破産管財人なども対象となる場合があります。
助成内容:分析費と処理費を1/2補助
助成金の対象となる経費は「分析費」と「処理費」の2つに大別され、それぞれ対象経費の2分の1が補助されます。ただし、上限額が設定されているため注意が必要です。
分析費の助成
使用中の変圧器などが低濃度PCBに汚染されているかを確認するための分析費用が対象です。
- 補助率: 2分の1
- 上限額: 1検体あたり 10,000円
- 対象経費: 試料採取費、分析費
処理費の助成
低濃度PCB廃棄物を適正に処分するための費用が対象です。
- 補助率: 2分の1
- 対象経費:
- 収集・運搬費(積込み・積下し含む)
- 漏えい防止措置費
- 処分費
※収集運搬費や処分費には、廃棄物の種類や重量に応じた上限額が別途定められています。申請前に必ず公式サイトの手引きで詳細を確認してください。
申請期間と手続きの流れ
助成金は国の予算の範囲内で交付されるため、先着順となります。予算上限に達した時点で受付が終了するため、早めの申請が重要です。
令和7年度 申請期間: 令和7年4月1日 ~ 令和8年3月31日
【最重要】必ず交付決定通知書を受け取ってから!
助成金の申請は、分析や処理を実施する前に必ず行ってください。財団から「交付決定通知書」が届く前に契約・実施したものは、助成金の対象外となります。この手順を間違えないよう、くれぐれもご注意ください。
申請から受給までの6ステップ
- 交付申請: 必要書類を揃え、産業廃棄物処理事業振興財団に申請書を提出します。
- 交付決定: 審査後、財団から「交付決定通知書」が届きます。
- 分析・処理の実施: 通知書受領後、見積もりを依頼した業者に分析や処理を発注・実施します。
- 実績報告: 分析・処理が完了したら、領収書などを添えて財団に「実績報告書」を提出します。
- 額の確定: 実績報告の審査後、財団から「確定通知書」が届きます。
- 請求・受給: 「請求書」を提出し、受理されると指定の口座に助成金が振り込まれます。
よくある質問(Q&A)
Q1. PCB廃棄物の処理費用は、最終的に誰が負担するのですか?
A1. 廃棄物処理法に基づき、廃棄物を排出した事業者(保管事業者)が処理責任を負います。助成金はあくまで費用の一部を補助するものであり、残りは自己負担となります。
Q2. 処理期限の2027年3月31日を過ぎてしまったらどうなりますか?
A2. 期限を超えて保管を続けると、PCB特措法違反となります。都道府県からの改善命令に従わない場合、懲役や罰金などの厳しい罰則が科される可能性があります。また、処理業者の受注が集中し、期限間際に依頼しても間に合わないリスクも高まります。
Q3. 処理費用は具体的にいくらくらいかかりますか?
A3. 費用は廃棄物の種類、重量、PCB濃度、運搬距離などによって大きく変動します。正確な金額を知るには、複数の専門処理業者から見積もりを取得することをおすすめします。
まとめ:助成金を活用して期限内の適正処理を!
低濃度PCB廃棄物の処理期限は着実に迫っています。「まだ時間がある」と考えていると、いざという時に処理業者が捕まらなかったり、助成金の予算が終了してしまったりする可能性があります。
この助成金制度は、中小企業や個人事業主の負担を大きく軽減する絶好の機会です。まずは自社が保管している機器が対象かどうかを確認し、専門業者への相談や見積もり取得から始めてみてはいかがでしょうか。助成金を賢く活用し、計画的に適正処理を進めましょう。
対象者・対象事業
中小企業者(個人事業主を含む)、特定の要件を満たす法人(医療法人、学校法人等)、個人(解散法人から廃棄物を継承した者等)
必要書類(詳細)
助成金交付申請書、見積書の写し、対象者であることを証明する書類(法人の場合は履歴事項全部証明書、個人事業主の場合は直近の確定申告書など)、対象機器の銘板写真など。詳細は公式サイトの「手引き・記入例・申請様式」をご確認ください。
対象経費(詳細)
【分析費】低濃度PCBに汚染されているおそれがある電気機器等の絶縁油等の試料採取費および分析費。
【処理費】低濃度PCB廃棄物の収集・運搬費(積込み・積下し含む)、漏えい防止措置費、処分費。