この記事のポイント
- 従業員のスキルアップや人材育成にかかる経費や賃金の一部を国が助成
- DX人材育成、リスキリング、新入社員研修など幅広い訓練が対象
- 助成額は1事業所あたり年度最大1,000万円
- 7つの専門コースから自社の目的に合ったものを選択可能
- 令和7年度(2025年度)から賃金助成額が拡充され、さらに使いやすく!
人材開発支援助成金とは?
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する従業員(雇用保険被保険者)に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。厚生労働省が管轄しており、企業の持続的な成長と従業員のキャリア形成を支援することを目的としています。
特に、中小企業にとっては、人材育成にかかるコスト負担を軽減し、生産性向上や事業展開を後押しする強力な味方となります。新入社員研修から管理職研修、専門技術の習得、DX推進やリスキリングまで、幅広いニーズに対応する7つのコースが用意されています。
【一覧】人材開発支援助成金の7つのコース
人材開発支援助成金には、目的別に7つのコースがあります。自社の課題や目的に合わせて最適なコースを選びましょう。
| コース名 | 主な対象訓練 |
|---|---|
| 人材育成支援コース | 職務に関連する知識・技能を習得させるOFF-JT、OJT付き訓練など、最も基本的な訓練。 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 従業員が有給の教育訓練休暇を取得して訓練を受けるための制度導入を支援。 |
| 人への投資促進コース | 高度デジタル人材育成、サブスク型研修、労働者が自発的に受ける訓練などを支援。 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業展開やDX化に伴うリスキリング(学び直し)を支援。 |
| 建設労働者認定訓練コース | 建設業の認定職業訓練に対する支援。 |
| 建設労働者技能実習コース | 建設労働者の技能向上実習に対する支援。 |
| 障害者職業能力開発コース | 障害者の能力開発訓練を行う施設の設置・運営を支援。 |
※本記事では、特に利用頻度の高い主要4コースを中心に解説します。
主要4コースを徹底解説
1. 人材育成支援コース
最も汎用性が高く、多くの企業で活用されている基本的なコースです。職務に関連した知識や技能を習得させるための訓練(OFF-JT)が対象となります。
- 対象訓練例 新入社員研修、階層別研修、営業力強化研修、技術研修など(10時間以上)
- 特徴 OJTと組み合わせた「認定実習併用職業訓練」や、有期契約労働者を正社員化する「有期実習型訓練」も含まれます。
2. 人への投資促進コース
デジタル化やグリーン化といった成長分野への対応を強化するためのコースです。特にDX人材の育成に力を入れたい企業におすすめです。
- 対象訓練例 高度デジタル人材訓練(AI、データサイエンス等)、大学院での訓練、サブスクリプション型の研修サービス、従業員が自発的に受講した訓練費用の補助など。
- 特徴 助成率が高く設定されており、企業の積極的な「人への投資」を後押しします。
3. 事業展開等リスキリング支援コース
新規事業の立ち上げや、既存事業のデジタル化など、事業展開に伴って必要となる新たなスキルを従業員に習得させる(リスキリング)場合に活用できます。
- 対象訓練例 新規事業で必要な専門知識の習得、DX推進のためのデジタルツール活用研修、海外展開のための語学研修など。
- 特徴 企業の変革を人材育成の面から強力にサポートするコースです。
4. 教育訓練休暇等付与コース
従業員の自発的な学びを促進するため、有給の教育訓練休暇制度を新たに導入し、実際に従業員がその休暇を取得して訓練を受けた場合に助成されます。
- 対象 3年間で5日以上の取得が可能な有給教育訓練休暇制度の導入。
- 特徴 制度導入に対して30万円が助成されるほか、従業員が休暇を取得した日数に応じても助成があります。
助成額と助成率(令和7年度版)
助成額や助成率は、企業の規模(中小企業か大企業か)やコース、訓練内容によって異なります。ここでは代表的な「人材育成支援コース」の例を紹介します。
| 助成項目 | 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|---|
| 経費助成率 (受講料など) |
通常 | 45% | 30% |
| 賃上げ要件達成時 | 60% | 45% | |
| 賃金助成額 (1人1時間あたり) |
通常 | 800円 | 400円 |
| 賃上げ要件達成時 | 1,000円 | 500円 | |
| OJT実施助成額 (1人1コースあたり) |
10万円~20万円 | 9万円~11万円 | |
※上記は一例です。非正規雇用労働者向けの訓練や、コースによってはさらに高い助成率が適用される場合があります。詳細はパンフレット等でご確認ください。
申請の主な流れと注意点
申請フロー
申請は大きく3つのステップで進みます。期限が厳格なため、計画的に進めることが重要です。
- STEP 1: 計画届の提出
訓練を開始する日の1ヶ月前までに、管轄の労働局へ「職業訓練実施計画届」などの必要書類を提出します。 - STEP 2: 訓練の実施
提出した計画に沿って、従業員への訓練を実施します。訓練中の出欠管理や日報作成などを適切に行う必要があります。 - STEP 3: 支給申請
訓練が終了した日の翌日から起算して2ヶ月以内に、管轄の労働局へ支給申請書と添付書類を提出します。
共通の主な要件
助成金を受給するには、以下の共通要件を満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること。
- 訓練対象者が雇用保険の被保険者であること。
- 社内の人材育成のキーパーソンとなる「職業能力開発推進者」を選任していること。
- 自社の人材育成方針を定めた「事業内職業能力開発計画」を策定し、従業員に周知していること。
- 訓練期間中も対象従業員に適切に賃金を支払っていること。
- 申請期間の前後に事業主都合の解雇等を行っていないこと。
注意点
不正受給には厳格な措置が取られます。
「実質無料で研修が受けられる」などと謳う不適切な勧誘には十分ご注意ください。訓練経費を事業主が全額負担していない場合(キャッシュバックなどを受ける場合)は助成対象外となり、不正受給と判断される可能性があります。不正受給が発覚した場合、助成金の返還はもちろん、事業者名の公表や刑事告訴の対象となることもあります。
まとめ
人材開発支援助成金は、計画的な人材育成に取り組む企業を力強く支援する制度です。令和7年度には賃金助成が拡充されるなど、ますます活用しやすくなっています。自社の成長戦略と人材育成計画をリンクさせ、この助成金を有効に活用してみてはいかがでしょうか。まずは自社がどのコースに該当するのかを確認し、管轄の労働局に相談することから始めてみましょう。